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みやび萬紅堂。
かつて小説に似たものが書かれていた所、その残骸。
DATE: 2008/06/12(木)   CATEGORY: 爆音デイズ
爆音デイズ(14)
 その後、ココさんは警察に逮捕された。
 当たり前だけど、傷害罪だ。どれくらいで戻ってこられるかはわからない。しかし相手を殺したわけでもないし、そこまで長い間でもないだろう。きっとすぐにこの街に戻ってこられると思う。
 そして澤田と三井も病院へと運ばれたあと、警察へと送られた。澤田の顔は元通りには治らなかったらしい。まぁ、あれだけ殴られれば当然かもしれない。ナイフで刺されたところも命に別状はなかった。もし死んでココさんの罪が重くなることを考えると本当に死ななくてよかったと思う。やつ程度の命にそれはわりに合わない。
 ちなみにココさんも最初は病院に送られて手術をした。顔を20針も縫ったらしい。きっと傷は一生残るはずだ。

***

 次のライヴがLucyのラストライヴになる。これを最後にLucyは解散することになった。理由はヴォーカルがいなくなったということ。最後のライヴでは佑太さんの代わりに龍次がヴォーカルを務める。ベース兼ヴォーカル。ちょっと彼には荷が重いかもしれないな。

***

 事件が終わってから僕らは集まった。Lucyのメンバー。それに僕とレイコと哲郎さん。
いきなり、龍次は佑太さんを殴った。
「あんたなんだろ?」
 龍次は言う。
「やつらにシンを襲わせたのはあんたなんだろう?」
 龍次は佑太さんを睨みつけた。
佑太さんは何も言わなかった。
「三井から聞いたよ。あんた俺のことが気に入らなかったんだってな」
「ああ」
 ついに佑太さんはその重い口を開いた。
「お前のことは最初から嫌いだよ」
「なんでだよ」
「お前には才能があるからだ。ベースだけじゃない、ヴォーカルとしての才能もある。俺はそれが気に入らなかった」
 それは嫉妬だった。
「このメンバーはみんなすごい才能がある。それは理解しているつもりだ。そして俺は、自分が一番才能のないことに気付いてた。だからいつもお前らに劣等感を抱いてたんだ」
 シンさんはつらい表情をしていた。
もしかしたらシンさんは佑太さんの抱くコンプレックスに気付いていたのかもしれない。
「透とは元々同じバンドのメンバーだったよ。俺は三井が松田のグループとつながりがあるのを知っていた。だから透と組んでお前を潰そうとしたのさ」
「じゃあ、なんでシンを?」ケンが訊く。
「透は松田のグループにいる澤田ってやつと仲が良かった。透はLucyのベーシストをリンチするようにと、きっと澤田にお願いしたはずだ。それで澤田は自分の手下を使ってベーシストをリンチさせた。けど、そいつらにはベースもギターもわかんなかったんだな。澤田がちゃんとお前の特徴を教えていればこんなミスは起きなかったはずだよ」
 つまり蛇ピアスの男たちはギターを背負ったシンさんをLucyのベーシストだと思ったわけだ。シンさんからしてみればとんだとばっちりだ。
「シンは俺をLucyのヴォーカリストとしてメンバーに誘ってくれたやつだ。だから俺もショックを受けたよ。それで俺はもういいと言ったんだ。俺が龍次なんかを潰そうとしたのがいけなかったんだって思ったからな。それで澤田たちもこの件から手を引いたはずだった。でも、龍次、お前が余計なことをするからここまで騒ぎが大きくなったんだ」
 誰しもが予定外のことだったんだろう。
 龍次がシンさんを襲ったうちのひとりを捕まえて、そこから事件はさらに大きく発展をしてしまった。
「女、レイコだったか? あんたには悪いことをした。最初の事件を見たのもあんたなんだろ? そのうえ龍次たちとこそこそ嗅ぎ回ってるから澤田たちも目障りだと思ったんだろうな」
 この事件にレイコを巻き込んでしまったのは僕だろう。本当に謝るべきなのは僕なのだ。僕はレイコに謝った。けれどレイコは気にしていないと言った。クールすぎる氷の女王。
 そのあとも佑太さんはひとり話し続けた。そしてすべてを話し終えるとどこかへと行ってしまった。どこへ行ったのかはわからない。けど消え去ってしまった。もうこの街にはいない。

***

 すべてが終わったあと哲郎さんは龍次に言った。
「俺のバイク、お前にやるよ」
「ヨンフォア?」
「そう。それも完璧なメンテで新車同然のやつ」
 そうして龍次の愛車は黒のディオから赤のCB400Fourになった。
 龍次は僕にディオをくれると言った。だから原付の免許を取れと。それで僕は今、原付バイクの免許取得に向けて勉強をしている。

***

 ライヴハウスの中は相変わらず暑かった。汗がとめどなく吹き出る。レイコは冷たいウーロン茶を持ってきてくれた。しかしこれが飲んでみるとウーロンハイだった。アルコールが体を巡る。
 そういえば、ひとつレイコに訊きたいことがあることを思い出した。
「あのさ」
「なに?」
「井上陽水の中で好きな曲ってなに?」
「なんで?」
「ちょっと気になったから」
 レイコは少し間をあけてから言った。
「少年時代」
 なんだ。レイコもありきたりじゃないか。
 そう思っているとステージから龍次の声がした。これが最後のライヴになります。そんなことを言っている。
「じゃあ、ちゃんと最後まで聴いていけよ!」
 龍次は歌い始めた。今度はバラードではなくてうるさいハードロック。
 せまく薄暗い部屋でステージを照らすスポットライトが熱気を放っていてとても暑い。ギターにベースにドラム。それらが今日もこの世界を揺らす、爆音が鳴り響いていた。

(Fin.)


<作者のことば>
とうとう爆音デイズ完結です。
しかしレイコが好きなの「井上陽水」って。もっと他になかったのかよ俺(笑)

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藍色イチゴ | URL | 2008/10/30(木) 21:32 [EDIT]
 始めまして、藍色イチゴと申します。

 何度かこちらのブログに来て頂いているみたいでありがとうございます。
 自分も萬紅堂さんのブログに何度かお邪魔させて頂いています。

 小説の方は来る度、5~6作品ぐらい読んでおります。
 どの作品も面白く、文章表現が上手いので、これは参考にしないとなあ、と思いながら読んでおります。

 また後日、読みに来ます。
 それでは、また。

匡介 | URL | 2008/10/31(金) 09:15 [EDIT]
>藍色イチゴさん
初めまして。
そんなペースで読むほど面白いっすか?(笑) でも嬉しいですね。そう言われると頑張らざるを得ないけれど(笑)

またのお越しをお待ちしていますので是非。

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