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みやび萬紅堂。
かつて小説に似たものが書かれていた所、その残骸。
DATE: 2008/10/27(月)   CATEGORY: 短篇小説
有島奇亜人の憂鬱(4)
 夜も更け、名無はひとつ欠伸(あくび)をする。こうしてここに来て、もう何時間が経とうとするのか。今のところ石橋と美樹子は何の問題もなくぐっすりと眠っているようだった。何も起きないのなら帰って休みたい。たっぷり昼寝をしていたにもかかわらず、名無はそう思っていた。
 ホーゥ、ホーゥ。また鳴き声がする。名無はあたりを見回した。どこから聴こえてくるのだろうか。ホーゥ、ホーゥ。この鳴き声はまるで、本当に…。
「どうやら動きがあったみたいだぞ」
 有島に言われて、名無は石橋の部屋の窓を見る。わずかながら明かりが漏れているようだ。誰かが起きている。
 しかしこれからどうするというのだろう? 名無が有島を見遣ると、彼は煙草に火をつけていた。こいつ、本当にやる気があるのか?
「どうするんです?」
「まァ 少しは黙って見てろよ」
 有島が煙を吐き出した。そして大きな欠伸をしている。
「ゆっくりしてて、大丈夫なんですか?」
「本当にお前はうるさいやつだな」
 有島は煙草を燻らせ、そこには紫煙が立ち昇る。
やがて、その紫煙が宙で集まりだした。まるでランプから現れる精のように、煙草の紫煙が形作られていく。モクモクと集まった紫煙のかたまりの真ん中には大きな目玉が現れた。
「な…何なんですか、これ!!」
「黙って見てろ」
 煙で形作られた目玉のお化けは、ゆっくりと上昇していき、アパートの2階にある石橋の部屋の窓にまで上がっていった。

***

 女がひとりいた。その女は冷蔵庫の前に立ち、中を漁っている。
 長い漆黒の髪が、まるで生き物のように這い冷蔵庫の中へと入っていく。
 その女は長い髪を手のように扱い、冷蔵庫の中にある食べ物を掴んでいた。
 その長髪に捕らえられた食べ物は、そのまま――

 そのまま――

 その女の後頭部にある第二の口へと放り込まれていった。

***

 有島がずっと右眼を瞑っていることに気付いたのは彼が紫煙を解く直前のことだった。彼が右眼を開くと、煙の化け物は霧散し、跡形もなく消え去ってしまった。
「今のは…?」名無は恐るおそる訊ねた。
「探偵の七つ道具」
 本気かどうかわからぬくらいあっさりと有島は言い放った。しかし世の中には事実妖怪が存在していることを名無は知っている。さらには自身を化け猫だと自称するこの男のことだ、今回のような化け物染みた技を使ってもおかしくはない。
「しかし――これはひょっとすると…」
 ホーゥ、ホーゥ。また鳴いている。
「何かわかったんですか?」
「いや――まだだ。しかし思ってたより気乗りのしない事件かもしれない」
 深刻そうな表情を保ったまま、有島は溜め息を吐いた。
「今夜はもう帰ろうか」
 珍しく元気のない声でそう言い、彼は歩き始めた。それを名無が追っていく。

 ホーゥ、ホーゥ。

 姿の見えない鳴き声だけがそこに残った。


<作者のことば>
実はこの奇怪探偵シリーズの原点はここにある!
有島は「七つ道具」などと勝手に言っているけれど、この煙草の紫煙が形作られるこのアイディアが何よりも先にあって、これを使わせるキャラクターを思案したところ、この有島奇亜人なる人物が出来上がったのだったりする。
さらには有島の前に誕生したのが、<あやかし堂>シリーズの神堂 四郎だった。当初は四郎が使う技(アイテム?)として考えていたのだが、どうも彼と煙草とのイメージが結びつかなくて諦めた。

そして有島が生まれた。

つまり、有島がヘヴィスモーカーという設定があるのはこういう理由だ。
しかし前作「奇怪探偵・有島奇亜人」ではこの紫煙を使うシーンに巡り合わなくてすごい残念だった。でも、今回こうして書けて本当によかったと思う。

ただ、もっともっと巧く書ければよかった。

イメージ通りに文章を書くのは難しいと改めて痛感。
どうにも日々精進らしい。

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| | 2008/10/27(月) 22:22 [EDIT]
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匡介 | URL | 2008/10/28(火) 17:40 [EDIT]
>シークレットさん
その質問アバウト過ぎませんか?(笑)
ちょっとどう答えていいのかわかんないです、ごめんなさい。

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