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みやび萬紅堂。
かつて小説に似たものが書かれていた所、その残骸。
DATE: 2008/10/19(日)   CATEGORY: 「怪奇蒐話」
「浴室」
気付くと彼はバラバラになっていた。

浴槽に散らばる彼「だった」肉片に目を遣(や)ると左手の指に指輪が嵌(はま)っていた。
その指が左手のどの指だったのかも今では判らない。左手の指は全て手から切り離されていた。

胴体から切り離された頭を見るとその眼は見開いていた。
わたしは怖くなって眼を潰した。これで見られる事は無くなった。

潰した眼からは殆(ほとん)ど血が出なかった。


わたしは泣いた。嗚咽(おえつ)を止められなかった。


***


「俺を殺して。」

彼はそう云った。何故そう云ったのかは解らない。
もしかしたら生きる事に疲れたのかもしれない。

それならば何故わたしに?

きっと彼はわたしに引導を渡して欲しかったのだろう。


***


わたしは夢を視た。
それは夢ではなくわたしの妄想だったのかもしれない。

その夢か妄想の中で彼は死んだ。


否、わたしが殺したのだ。


それがわたしの願望だったのだろうか?


***


わたしは必死に洗った。
しかし彼の血は中々落ちない。

厄介(やっかい)だと思った。


***


わたしは彼の願望通りに彼を殺した。

首を絞めて、水に溜まった浴槽に沈ませた。
浴槽の水に沈んだ彼の口や鼻からは気泡が洩(も)れた。

彼は苦しそうにもがいた。

どうして?
あなたが望んだ事なのに。何故そんなに苦しそうなの?


***


「少しくらい別に良いだろ!!」

良い訳無いじゃない。
わたしがいつも口を酸っぱくして云っているというのに。

「お前に合わせるのは、、もう疲れた。」

わたしを捨てるの?


***


彼が息絶えるのを確認するとわたしは裁縫に使う大きな鋏(はさみ)を持ってきた。
それで彼だった「モノ」を切った。指輪の嵌っている左手の薬指を切り落とした。

これはもう彼ではない。

わたしは包丁を持ってきて切り分けていった。
骨が邪魔で切り難かったけれど、頑張ってどうにか切り分けることが出来た。


***


玄関のドアが開く音がした。
彼が帰ってきたのだろう。時計を見るともう深夜だった。

わたしはいつものように激怒した。


***


わたしは彼を綺麗にしようと思って洗ってあげた。
血だらけの彼の血は中々落ちなかった。

それでも何とか綺麗にしてあげようと頑張った。


***


わたしは何故彼を殺してしまったのかを考えた。
きっと彼に見捨てられぬように必死だったのだろう。

わたしは彼の望みは全て叶えてあげようとした。


だから殺した。


***


わたしは彼の死体があるのを見て驚いた。

これは夢の続きなのだろうか?


***


彼の身体(からだ)を綺麗にするにはまず血を全部捨ててしまった方がいい。
わたしは頑張って彼の血のほとんどを浴槽に捨てた。

これで彼がこれ以上血で汚れる事はない。


***


彼は何故わたしに「殺して」と頼んだのだろう?

わたしは彼を愛しているから殺した。
きっと彼もわたしに愛されたかったのだろう。

わたしたちは愛し合っていたから殺した。

それなら何も問題はない。
これは愛し合った結果に過ぎないのだから。


***


きっとこれは夢なのだろう。
夢ではないとしたらわたしの妄想だ。

だからわたしを置いて行かないで。

わたしは冷たくなった彼の唇にキスをした。


<作者のことば>
初期の作品。
これは「多重夢」というマンガから影響を受けている、と思う。
俺の好きな筒井哲也さんのマンガで「ダズハント」に収録されている。

他には椎名林檎の「浴室」という曲からのインスピレーションも大きい。
お分かりの通り、タイトルもここから頂いている。

読み返してみると書いた中で一番倒錯感が出ているかもしれない。時系列をバラバラにしたりと、普段とは違う手法が使われているのも逆に新鮮。
何故か本当に初期の文章の方がスマートだったりして、なかなか勉強になる(笑)

文章の雰囲気は乙一さんの影響があるかも。
あの人の小説は怖い。なのに本質はホラーじゃなくて不思議だ。

そう考えると見方によればこれは切ない話に見えるなぁ。

←1日ワンプッシュ。
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| | 2008/10/19(日) 22:19 [EDIT]
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匡介 | URL | 2008/10/20(月) 20:52 [EDIT]
>シークレットさん
初めまして。ありがとうございます♪
でもでも! お手本にするほどではないですよ~(汗)

またのお越しをお待ちしていますね。

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