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みやび萬紅堂。
かつて小説に似たものが書かれていた所、その残骸。
DATE: 2008/10/14(火)   CATEGORY: 短篇小説
神隠し(後編)
昔丹後の國に浦島といふもの侍りしに、其の子に浦島太郎と申して、年のよはひ二十四五の男ありけり。あけくれ海のうろくづを取りて、父母(ちゝはゝ)を養ひけるが、ある日のつれ〃に釣をせむとて出でにけり。浦々島々入江々々、至らぬ所もなく釣をし、貝をひろひ、みるめを刈りなどしける所に、ゑじまが磯といふ所にて、龜を一つ釣り上げける。浦島太郎此の龜にいふやう、「汝生(しゃう)あるものの中にも、鶴は千年龜は萬年とて、いのち久しきものなり、忽ちこゝにて命をたたむ事、いたはしければ助くるなり、常には此の恩を思ひいだすべし。」とて、此の龜をもとの海にかへしける。

(中略)

さて船よりあがり、いかなる所やらむと思へば、白銀(しろがね)の築地をつきて、黄金の甍をならべ、門(もん)をたて、いかなる天上の住居(すまひ)も、これにはいかで勝るべき、此の女房のすみ所詞にも及ばれず、中々申すもおろかなり。さて女房の申しけるは、「一樹の陰に宿り、一河の流れを汲むことも、皆これ他生の縁ぞかし、ましてやはるかの波路を、遙々とおくらせ給ふ事、偏に他生の縁なれば、何かは苦しかるべき、わらはと夫婦の契りをもなしたまひて、おなじ所に明し暮し候はむや。」と、こま\〃/と語りける。浦島太郎申しけるは、「兎も角も仰せに從ふべし。」とぞ申しける。

(中略)

女房仰せけるは、「三とせが程は鴛鴦(ゑんわう)の衾のしたに比翼の契りをなし、片時みえさせ給はぬさへ、兎やあらむ角やあらむと心をつくし申せしに、今別れなば又いつの世にか逢ひまゐらせ候はむや、二世の縁と申せば、たとひ此の世にてこそ夢幻(ゆめまぼろし)の契りにて候とも、必ず來世にては一つはちすの縁と生まれさせおはしませ。」とて、さめ\〃/と泣き給ひけり。又女房申しけるは、「今は何をか包みさふらふべき、みづからはこの龍宮城の龜にて候が、ゑじまが磯にて御身に命を助けられまゐらせて候、其の御恩報じ申さむとて、かく夫婦とはなり參らせて候。又これはみづからがかたみに御覽じ候へ。」とて、ひだりの脇よりいつくしき筥を一つ取りいだし、「相構へてこの筥を明けさせ給ふな。」とて渡しけり。

(中略)

さて浦島は故郷へ歸りみてあれば、人跡絶えはてて、虎ふす野邊となりにける。浦島これを見て、こはいかなる事やらむと思ひける。かたはらを見れば、柴の庵のありけるにたち、「物いはむ。」と言ひければ、内より八十許りの翁いであひ、「誰にてわたり候ぞ。」と申せば、浦島申しけるは、「此所に浦島のゆくへは候はぬか。」と言ひければ、翁申すやう、「いかなる人にて候へば、浦島の行方をば御尋ね候やらむ、不思議にこそ候へ、その浦島とやらむは、はや七百年以前の事と申し傳へ候。」と申しければ、太郎大きに驚き、「こはいかなる事ぞ。」とて、そのいはれをありのまゝに語りければ、翁も不思議の思ひをなし、涙を流し申しけるは、「あれに見えて候ふるき塚、ふるき塔こそ、その人の廟所と申し傳へてさふらへ。」とて、指をさして教へける。
太郎は泣く\/、草ふかく露しげき野邊をわけ、ふるき塚にまゐり、涙をながし、かくなむ、
かりそめに出でにし跡を來てみれば虎ふす野邊となるぞかなしき
さて浦島太郎は一本(ひともと)の松の木陰にたちより、呆れはててぞゐたりける。太郎思ふやう、龜が與へしかたみの筥、あひ構へてあけさせ給ふなと言ひけれども、今は何かせむ、あけて見ばやと思ひ、見るこそ悔しかりけれ。此の筥をあけて見れば、中より紫の雲三筋のぼりけり。これをみれば二十四五のよはひも忽ち變りはてにける。


(後略)


***


神堂 四郎から直ぐに来て欲しいとの連絡があった。
私は直感的に旦那が帰ってきたのだと思った。多分この予想は外れていないと思う。

タクシーに乗って20分ほどで私は<あやかし堂>に到着した。
運転手に代金を払うと急いで古びたドアを押し中へと這入る。

「いらっしゃいませ。」

出会ってから20年も経っていると云うのに、四郎はさほど齢(とし)をとったように見えない。いつまでも若い儘(まま)だった。

「珠代さん。吉報です、旦那さんが帰ってきましたよ。」

四郎はそう云って店の奥にあるテーブルを指さした。
テーブルの前にある古い木の椅子に一人の男が座っている。

「あなた?」

男が振り返ると、そこにはいなくなってしまったあの日と寸分変わらぬ姿の旦那がいた。
心の奥底から何か熱いものが込み上げてきて、それが涙となって流れた。

「珠代なのか?」と旦那は云った。

一見するだけでは私が誰かと云うことが判らなくても仕方がないことだ。
彼は二十年前と同じ姿だけれど、私は二十年分も年老いてしまったのだから。

しかし旦那は私に二十年前の面影を見つけたのか、その眼には涙が溜まっていた。
私は旦那に抱きついた。旦那は、ごめん、と何度も何度も繰り返して云っていた。

暫(しばら)くして落ち着くと私は四郎に礼を云った。
四郎はいつものようににこやかに、良かったですね、と云った。

「斉藤さん。あなたは20年間も我々とは違う時間の流れの世界にいたんです。そう竜宮城に行った浦島太郎のように。」
「それで、私を浦島太郎だと云ったんですね。」と旦那は云った。
「そうなのです。」と四郎はにこやかに返した。

やっと旦那は帰ってきた。しかし私は怖かった。
二十年という時は無惨にも私を変えてしまったのだから。

「ひとつ、お訊(たず)ねしたい事があります。」と四郎が云った。
「なんです?」と旦那が訊いた。

「あなたは自分の人生の中に空白の二十年を作ることが出来ますか?」

ついに彼は問うてしまった。

「今、何と?」旦那は困惑した様子だ。
「ご自分の人生に空白の二十年が出来てしまってもよろしいかとお訊きしました。」
「それはどういう意味です?」
「あなたのその姿は二十年前と全く変わらない。それはあなたが現世で云う二十年という時を過ごしていないからです。だからあなたはこれからあなたが過ごさなかったニ十年という時をこの世界で過ごすことが出来るのです。しかし奥さんは違う。あなたと違いもうその二十年を過ごしてしまった。あなたと珠代さんの間には以前よりも二十年もの差があるのです。」
四郎は続ける。
「もちろん珠代さんには過ごした二十年に思い出があります。そしてあなたにもその二十年を過ごす資格がある。しかしその場合、珠代さんと一緒に過ごしていくのには難しいものがあると思います。あなたはまだ若い。まだまだ人生を楽しむのはこれからです。」

そこまで云うと旦那は四郎が何を云いたいのかを理解したようだ。何とも理解力がある。

「つまり、私に浦島太郎になれるかどうかと云うことなんですね?」
「ええ。つまりはそう云うことなのです。」
「わかりました。私は浦島太郎となります。それが私の罪なのでしょう。」

旦那は上着のポケットから小瓶を取り出した。

「これが、そうなのですね?」
「その通りです。」
「妻は、この二十年の長い時間をずっと待っていてくれたのですね?」
「ええ。奥さんはずっとあなたを想い、待ち続けていらっしゃいました。」

彼が私の方を向く。

「ごめんな。珠代。」

そう云って彼は小瓶を開けた。
私は涙が溢れるのを止められなかった。

小瓶からは紫の煙が出てきて、それが彼を包んだ。

そして次の瞬間に出てきたのはさっきからニ十歳ほど老いた彼の姿だった。


***


「こんな形でしか解決を出来なくて申し訳ありません。」
そう謝る四郎に珠代は「いいんです。」と優しく云った。

「あなたが居なくては、私はもう二度と主人に逢うこともなかったでしょう」

珠代は続けた。

「だから謝らなくてもいいんです。」

そう云って珠代は自分の旦那を抱いた。
旦那の方も確(しっか)りと自分の妻を抱きしめた。

「彼が、本当に私を愛してくれていることが判りました。私にとってはそれだけで充分なのです。」

流れた涙を拭い取り、珠代は優しく微笑んだ。

「紅茶を淹れましょう。上物の。せめてものアフターサービスです。」

そう云うと四郎は相変わらず骨董品(アンティーク)のティーカップをふたつ取り出す。
そして慣れた手つきで紅茶を淹れると、彼は二人をテーブルの席へと座らせた。

「どうぞごゆっくり。」

テーブルの上に、紅茶の入ったカップを差し出したあと、四郎は店の奥へと引き下がっていった。
残された黒猫がニャアと鳴く。

珠代は旦那と二十年振りのティータイムを楽しんだ。


<作者のことば>
まぁ わかるように、構想の基になったのは「浦島太郎」です。
今回最初の引用は正直要らなかったと思うんだけど、丁寧に全部読んでくださった方いるのかな?

要は雰囲気作りたかったんでしょうね。

もし書き直すとしたら、この引用は要るかな? 微妙な気がする。
そもそも俺自身、正直ところどころ読めねえし(笑)

第一、古典は苦手です。

嫌いではないし、わかれば面白いと思うんだけどね。
まともに授業受けてなかったんです。あまり学校にも行かないような子だったもので。

でも、あとになってちゃんと受けてればなー、なんて思うんだよね。こういうのって。

本当に学ぶことの楽しさを知る頃には卒業しちゃってたって人多いんじゃないかな?
勉強ってなかなか難しいものだよね。内容じゃなく、タイミングが。

どうでもいいけど、実はここを書いてるときって深夜が多くてテンションが変なのです。
自分で書いてて、あれ? 何かテンションおかしい? ってよく思う(笑)

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