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みやび萬紅堂。
かつて小説に似たものが書かれていた所、その残骸。
DATE: 2008/10/12(日)   CATEGORY: 短篇小説
神隠し(中編)
<あやかし堂>で四郎に依頼をして2箇月が過ぎた頃、初めて彼からの連絡があった。
私は大急ぎで<あやかし堂>へと向う。正直、もう諦めかけていたところだった。

相変わらず古びた建物、あやかし堂の前へと着く。
私は入口のドアを押して中へ這入った。どこからか猫の鳴き声が聴こえる。

「お待ちしておりましたよ。」

声の方へと視線を遣(や)るとそこには四郎が立っていた。
私は彼のにこやかな表情を見て少しだけ心が和んだ。

「お座りください。」

私は2箇月ぶりに骨董品であると思われる古い木の椅子に腰を掛けた。
すると四郎はテーブルの上に載っていた空のティーカップに紅茶が注ぐ。

「実は、思っていた以上に事は厄介です。まだ天狗が犯人だった方が大分(だいぶ)ましでした。」と四郎は云った。
「犯人が判ったのですか?」と私は訊いた。
「ええ。犯人は矢張(やは)り妖怪の類いでした。」
「それでウチの旦那はどこに?」

私がそう訊ねると四郎は深い溜め息を吐いた。

「その前に訊いておかなくてはならないことがあります。」

四郎は至極真剣といった表情で云う。
私はこの真剣な空気の中、緊張が奔(はし)るのを感じた。

「なんでしょうか?」
「珠代さん。あなたは旦那さんが帰って来るのをいつまでも待ち続けられますか?」
「つまり?」
「旦那さんが帰って来ることを信じて待ち続けることが出来ますか? それが何年、いや何十年先のことになろうとも。」

私は強い意志を持って答える。

「待ち続けます。帰って来るのがいつになろうとも。」

それを聞くと四郎はいつものにこやかな表情へと戻った。


「ではお話しましょう。」


***


黒猫はニャアと鳴いた。
四郎に真相を聞かされた珠代は涙を流していた。

珠代は泣きながらも「待ち続けます。」と云った。
四郎は珠代がとても強い女性なのだと云うことを知った。とても芯のある女性だ。

黒猫は全てを聴いていた。
確かに四郎はこう云ったのだ。


「旦那さんを神隠しに遭わせた犯人は天狗などではなく、乙姫なのです。」


***


男は帰宅途中に虐(いじ)められている子供を見つけた。
もしかすると子供同士でよくある喧嘩(けんか)なのかもしれないが、それにしては一方的過ぎると男は思った。

「こら、止(や)めなさい」と男は云った。

それを聞くと子供たちは散り散りに逃げ、虐められていた子だけが残った。
残った子の顔は見るまでもなく痛々しかった。それでもその子は自分を助けてくれた男を見ると笑顔で、ありがとう、を云った。

男は不思議な子だと思った。
その子は男を自分の家へと誘った。最初男は断ったが子は母親に「誰かに助けられたらお家に連れてきなさい。」と云われていると云った。
男は別段急いでいるわけでもなかったので子の家へと招かれることにした。

着いてみるとそこは立派なお屋敷だった。
助けた子は良いとこのお坊ちゃんなのだろうと男は思った。
玄関のドアを開けるとそこには綺麗な女性が居た。そのあまりの美しさは、女がこの世の者ではないと思わせるには充分なほどだった。
男はつい見惚(みと)れてしまった。

お屋敷の中は甘い香りが漂っていた。
助けた子の美しき母親に夕食を勧められた。男は断ろうとも思ったが、母親の美しさをもっと見ていたかった。
男はその母子(おやこ)と夕食をともにした。

気付けば男が屋敷に来て3日が過ぎていた。

屋敷の中は居心地が良かった。男は美しき母親に「いつまでも居てくださって結構ですよ。」と云われついに3日も居座ってしまっていたのだ。
屋敷に漂う甘い香りが男の思考をさらに鈍らせていた。

男は自分が3日も家に帰らずにいることを妻が心配しているだろうと思った。
そしてその事情を子の母に話す。母親は、それは残念、と云った。男は後ろ髪を引かれる思いだった。

帰り際に「これをお持ちになってください。」と母親は云った。

男に受け渡された物は小さな小瓶だった。その小瓶の中には何も入っていないように見えた。どう見ても空の小瓶だった。

男は礼を云い屋敷を去った。
屋敷の外は見慣れぬ土地だった。ここはどこなのだろうと男は思った。


***


黒猫が視界に入ってきた。
男は黒猫に「ここはどこだい?」と訊いてみた。もちろん黒猫は答えるはずもない。

男が辺りを見回していると黒猫がニャーアと鳴く。
何故か解らないけれど、男は自分が呼ばれているような気がして黒猫のあとを追った。

男は相当年季の入っていると思われる建物の前へと辿り着いた。どうやら骨董店のようだ。
黒猫はその骨董店の中へと這入ってしまった。仕方ないので男もあとに付いて建物の中へと這入っていった。

「おや。今日は上客を捉(つか)まえてきたようだね。」

そう云ったのは幼い顔立ちの青年だった。
青年は男を見て微笑んだ。あまりに優しく微笑むので男まで柔和な気持ちになる。

「ずっとお待ちしておりましたよ。」と青年は云った。


***


神堂 四郎は自分に擦り寄ってきた黒猫を撫でた。
そして自分の店に這入ってきた男を見て優しく微笑む。

「斉藤さんですね?」

斉藤と呼ばれた男は頷く。
しかし何故見ず知らずの青年が自分の名を知っているのか解らないといった様子だった。

「色々と解らない事だらけで大変だとは思いますが、よろしければお話を伺っても?」
「ああ。」とだけ斉藤は答えた。
「実はあなたが行方不明になってしまったと云う事で、奥さんから依頼を受けておりまして。」
「妻が捜しているんですか!」
「当たり前でしょう。旦那がいきなり消えてしまったのだから心配になるのが当然です。」
「…そうですよね。」
斉藤は弱弱しくそう云った。
「あなたはここがどこなのか判らないのでしょう?」
「ええ。確かに来たことのないのよう町です。」
「来たことのない? そんな筈(はず)はありません。ここはあなたが以前に住んでいた町なのですから。」
「え?」
斉藤は困惑した様子だった。
「あなたの奥さんは現在引っ越してしまって、あなたの記憶にある家にはもういません。」
「引っ越した?」

そんな筈はない、と斉藤は思った。
たった3日行方不明になっただけで妻が家を引っ越すだろうか。
普通では考えられない話である。

「あなたは自分がどれだけの間、行方不明になっていたと思っているのかまでは判り兼ねますが、実はあなたがいなくなって今年で二十年になります。」

斉藤は何を云っているのか解らないといった様子だった。
自分がいなくなって二十年? そんな筈はない。自分がいなくなっていたのはたった3日だった筈だ。

「斉藤さん、」

四郎は続けて云った。

「あなたは浦島太郎なのです。」


<作者のことば>
ははは。浦島太郎って。

なんて自分で突っ込んでしまった。

あやかし堂シリーズでは改行や段落、空行の他にも単語や漢字などにも気を遣っている。
……ように見える(個人的には)。←本人もよくわかってない。

実際、単語や漢字は作品によって結構意識してるとこでもあるかな。
文章っていう文字だけの表現だから、使う単語や漢字が違うだけで全然雰囲気が変わってくる。

あやかし堂や平成妖異奇譚、もしくは奇怪探偵なんかはどちらかというと難しい漢字を使ってるんじゃないかなぁ。
他では読みやすさを重視して、若干難しい漢字は避けているですよ実は。雰囲気作りの為に難しい漢字を使う場合は()の中に読みを入れたりしている。

でもこれって意外とわからない作業なのだ!

俺が難しいかなぁ、って思ってた漢字が「これくらい読めるよ」って言われたことあるし、読めるだろうなぁ、って思ってた漢字に「これなんて読むの?」って訊かれたことがある。

案外、人によって様々なので、どれが読めてどれが読めないかの判断は難しい。

ってことで、もしわからない漢字や単語があったら気軽に尋ねてみてくださいな。

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COMMENT

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● 恐るべし追記!
兎羽 | URL | 2008/10/13(月) 23:25 [EDIT]
こんばんはっ。
改行や段落、空行が絶妙で見習わせていただかねばっと書こうとしたら、追記に書かれてて驚きましたっ(笑)

難しい字についてはルビ機能なんて欲しいですよねー;

字が与えるイメージも考慮しつつ必死に考えた固有名詞なんかが、読んでみると舌噛みそうでボツになったり……
そんなことが多い兎羽でしたっ。

匡介 | URL | 2008/10/14(火) 17:15 [EDIT]
>兎羽さん
いやー、読まれて恥ずかしい(笑)
改行や空行はテンポを作りたかったんだと思います。あと空行あると読みやすいかなって。
読み慣れてないとバババーって文章ギッシリだと萎えちゃいますしね。

あとルビは欲しい!(笑)

またのお越しをお待ちしてまーす♪

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