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みやび萬紅堂。
かつて小説に似たものが書かれていた所、その残骸。
DATE: 2008/09/24(水)   CATEGORY: 短篇小説
平成妖異奇譚(5) 「食人鬼Ⅱ」
 殺人犯を捕まえる、と云って半ば無理やりに僕を部屋から連れ出したのは愛染だ。
 妖怪が蠢きひしめく外の世界に出てきてしまった僕は少々のパニックとともに恐怖と闘っていた。
「犯人が誰だかわかっているのか?」
 僕は叫ぶように愛染に問いかけた。
「それは僕にもわからない。でも犯人は捕まえるさ」
 何を根拠にそんなことを云えるのか理解不能だった。
 一体、何が彼にこれほどまでの自信を与えているのだろうか。早くも彼には正気に戻って頂きたい気持ちでいっぱいだ。
「もうすぐ劉心も来るよ」
 劉心というのは、僕は愛染に初めて出会った日に、彼と一緒にいた男の名前だった。
 スキンヘッドに数々のピアスをぶら下げているのも関わらず、彼は見るたびにいつも和服だった。それがどうにもミスマッチで僕は内心歯痒い気持ちに駆られる。
「わざわざ彼を呼ぶということは、何か訳ありなのか?」
「まあ、そういうことになるね」
 しばらくすると相変わらず不気味な風貌の劉心が登場した。
 何を考えたのか今夜の格好は坊主が着る袈裟だった。その坊主頭には似合うだろうが、耳でジャラジャラとしたピアスを見ると、何だか破戒坊主のようだ。
 云い忘れていたが、劉心は盲目らしく、いつも目には布を巻いている。これが海水浴場ならば西瓜割りだとでも思われて、まだ不審には思われないが、スキンヘッドで沢山のピアス、そして目元には白い布を巻いた和服の男が街を歩いていたらそれはそれは異様である。
 ツギハギ顔の愛染と並ぶと、これはもはや喜劇に近い。
「さあ、行こうか」
 行くってどこへ? そう云おうとしたが、愛染は先を行ってしまい僕はそれを追うはめになった。結局、どこへ向かっているかもわからないまま、道を進む。
 しばらく歩くとピタピタピタと背後から足音がした。思わず僕は足を止め、後ろを振り向いた。すると誰もいない。また歩き始めるとまたピタピタピタと、まるでアスファルトの路上を裸足で歩くような音が聞こえてくる。再び歩みを止め、振り向いてみた。やはり誰もいない。
 咄嗟に“べとべとさん”だと思った。“べとべとさん”とは足音のみの妖怪だ。足音だけが自分についてくるのだ。
 僕は冷静に「べとべとさん、お先にどうぞ」と云う。これが“べとべとさん”の正しい対処法であり、言霊である。妖怪に一定の言葉やせりふが有効的だというのは決して珍しいことではなく、よくあることなのだ。有名なところで、近代妖怪として世間を震え上がらせた“口裂け女”もこの類いである。彼女には「ポマード」という言葉の連用が有効的なことで知られている。このように妖怪に言霊をぶつけるというのはとても重要な意味合いも持つ。
 “べとべとさん”を見事に避けた僕は再び歩を進めた。今度は何の足音もしない。どうやら何事もなく退散してくれたようだ。
 しばらくするとまた足音がついてくるようになった。僕は再び「お先にどうぞ」と“べとべとさん”から免れる言霊を放った。しかし足音は一向に止まず、不審に思った僕は後ろを振り向こうとした。その瞬間、何かが僕を追い抜いていった。びっくりして僕は目を凝らすと、そこには提灯(ちょうちん)を持った子供がいるではないか。暗がりでわかりにくいが、子供の顔は赤かった。
 その子の正体も僕は知っていた。彼は“提灯小僧”である。話には雨の降る日に現れると聞いていたが、どうにも今は――真夜中にこんな表現も不釣合いだが――晴れである。
 彼は僕の少し手前で足を止め、立っていた。“提灯小僧”というのは、人を追い越し、その先で止まり、それを追い越し返すと、再び彼が追い越してくるといった変わった妖怪なのだ。きっと僕に追い越し返して欲しくて立っているのだろう。
 困ったことに“提灯小僧”については特定の退散方法を知らなかった。このまま追い越し返し合いを続けてやってもいいが、妖怪と一緒というのはどうにも不気味だ。出来ればそれは回避したい。
しかしながら他にどうしようもないので僕は彼を追い越し返した。すると彼はキャッキャして喜びながら僕を追い越す。しばらくの間、それが繰り返された。
 それが途端に気配を感じなくなったと思うと彼は消えていた。僕との遊びに飽きたのか“提灯小僧”はどこかへと行ってしまったのである。何とも云えない安堵感が僕を襲った。これでやっと追い越し返し合いから解放されるというものだ。
 そこで僕は前を見ると綺麗さっぱり愛染の姿が消えていた。それどころが劉心の姿もない。
 安堵感は消え、代わりに急激に不安感が募った。僕は今、魑魅魍魎が跳梁跋扈するこの夜の世界で、たったひとりなのだ。体のあちこちが震え始めた。

 グチャリ。

 何とも形容しがたい奇妙な音が聞こえた。
 どうにも気持ち悪い音だ。何かが潰れた音にも聞こえる。

 ピチャリ。

 今度は水の音だった。
 水でなくとも液体が滴る音だったに違いない。

 ピチャリ。

 僕は恐るおそる水の音がする方に目を向けた。
 そしてそこにはアスファルトに横たわる人と、それを上から覗き込んでいる鬼がいた。鳥山石燕が描くような毛むくじゃらの鬼だ。
「うわぁぁぁぁああああ!!」
 思わず叫んだ。
 鬼が、鬼が人を食べているのである。
 このままではいずれ僕も喰われてしまう。何とかして逃げなければ。
 しかし、この思いとは裏腹に僕の足は凍りついてしまったかのように動かなかった。そして次第にガクガクと両足が震えだす。
僕は何の抵抗も出来ず、その場に座り込んだ。
「神宮寺!!」
 その大声を発したのは愛染だった。
 彼の化け物染みたツギハギ顔を見て、これほど安堵したことも、そして嬉しかったこともない。
「大丈夫か?」
 愛染は僕のところに駆け寄ってきた。
「お、鬼だ。鬼がいた…」
「鬼?」
 それを聞いて愛染はあたりを見回した。
 そしてゆっくりと僕の傍から離れ、例の横たわる人へと近付いていった。
「駄目だ。死んでいる」
 その死体を見るやいなや彼は言った。
「頭が割られているよ。これじゃどう頑張ったって蘇生のしようがない。これで生き返りでもしたらそれこそ妖怪の類いだ」
「餓鬼のにおいがします」
 気付くと劉心がいた。僕のすぐとなりに。
「そうだな。そのようだ」
 僕には意味がわからなかった。
 もう何を理解すればいいのかも、何かを理解する気力もなかった。


<作者のことば>
やっと出てきたキャラクター、劉心。
彼も愛染同様にヴィジュアル先行で生まれたキャラだ。

正直、一番キャラクターが定まっていなくて苦労していた記憶がある(笑)

実を言うとこの物語に出てくるキャラクターが何者なのか自分自身よく把握できていないのだけれども、中でもわからないのがコイツ。マジで何者なんだ!?(笑)

とりあえず鼻が利いて、様々な“におい”を嗅ぎ分けれるという設定のみ存在する。
妖怪探索に便利なキャラ。←きっとその為だけに用意したに違いない(笑)

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COMMENT

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鬼団子 | URL | 2008/09/25(木) 03:58 [EDIT]
前回に続き感想いきます~

新しく登場人物が増えたのは良いですけど、相変わらず独特ですねww
何か、異様な登場人物って何故か笑える(ぇ
文面では少し読みにくいところがあったように思いますが、主人公の心情が非常に分かりやすくて良かったです。
しかし、『グチャリ』や『ピチャリ』みたいな擬音語はできる限り使わない方がいいと思います。
やっぱり軽い話っぽくなっちゃうから注意ですねぇ。。。
まぁ、書き始めは自分も使ってましたけどww

感想&指摘は以上です~w
何やら自分のブログにもいらっしゃったご様子でw
んじゃ、また来ますね~

匡介 | URL | 2008/09/25(木) 04:08 [EDIT]
>鬼団子さん
感想ありがとうございます。
んー、擬音語で軽く感じるかどうかは人それぞれな感じもしますが、実際どうなんでしょう? でも個人的には本格派を目指しているわけでもないので構わないのですが(笑)
このシリーズはどちらかというと難しい言葉が多めですが、本当は出来るだけわかりやすくしたいんです。それに擬音語ってすごい好きなんですが(汗) だって日本独特の文化なんですよ? 素敵じゃないですか。←俺だけかな?
それより読みにくいところが気になります(笑)

擬音語はそう簡単には譲れませんが(笑)、感想&アドバイスは非常に嬉しいです。是非またお願いしますね。

Yuka | URL | 2008/09/25(木) 08:03 [EDIT]
目が見えないのにピアスで音まで封じている・・・
鼻が犬以上じゃないと歩けもしないよ?と思っていたらやっぱり嗅覚に優れていました><

顔中のピアスは錫杖についている金属環の代わり・・・ あるいはそれその物な気がしました。 この音で魔を払うみたいな^^

匡介 | URL | 2008/09/26(金) 15:37 [EDIT]
>Yukaさん
うーん、設定上は耳もよかった気がしますが(笑)
俺は彼だったら“気”みたいなものも読み取れそうに思います(笑)

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