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みやび萬紅堂。
かつて小説に似たものが書かれていた所、その残骸。
DATE: 2008/09/22(月)   CATEGORY: 短篇小説
平成妖異奇譚(4) 「食人鬼Ⅰ」
 人を人が喰らう。それこそ人ではなく鬼の所業である。
 それは人道に反する最大の禁忌(タブー)なのだ。

 最近、世間を騒がせているのはとある殺人だった。
 被害者は少年だった。高校生の少年が撲殺されたのだ。
 次の週になると今度は女性の死体が発見された。頭が割られていて、中からは脳みそが漏れていたという。聞くだけでも気分が悪くなる話だ。
 このふたつの事件に対して関連性があるのではと疑われているのは、両事件が起こったのがどちらも同じ地域だからである。その距離は20kmほどで、短期間に2件もの殺人が行なわれたならまずその関連性を探るだろう。警察の判断は的確だと考えられる。
 その殺人現場が僕の住むアパートからそう遠くもないことから僕は強迫観念に囚(とら)われていた。つい身近に“死”を意識してしまい、悪い癖が出たのである。
 毎夜毎夜、僕の周りには妖怪たちが蠢いていた。部屋から外を覗くとそこはまるで百鬼夜行のごとく妖怪の大行列なのである。中には人身を銜(くわ)えた鬼もいた。僕は今回の殺人があの鬼の手によるものなんじゃないかと思い始めている。
「そろそろ出てきたらどうだ?」
 ずっと引き籠もりっぱなしの僕をどうにか部屋から出そうと愛染が訪ねてくるのも今日で3日目だ。
「外は妖怪がウジャウジャしてる」
「君の話を聞くとそれは夜のことだろう? 今は昼だよ」
「昼間に鬼が出ないとも限らない」
「まァ、そうなんだが。でも僕が入るくらいいいだろ?」
 もう3日も通ってきてくれていることもあり、僕はそっと部屋のドアの鍵を開けた。
 愛染は「やあ、調子はどうだい?」と云って部屋の中へと上がりこんでくる。久し振りに見る、ツギハギ顔はいつも以上に不気味だ。
「君も臆病なやつだなぁ。妖怪なんて見慣れてるんだろう?」
「そうだけど、今でも恐怖の対象だ」
「やれやれ。君に憑いてるものの根は相当深い様子だな」
「悪かったな」
「構いはしないさ」
 テレビを点けると、例の殺人事件の続報が流されていた。
 といっても大した進展はないようで、似たり寄ったりの内容を全視聴者に伝えている。
「どうやら何もわかったことはないらしいな」
「早く解決してほしいものだ」
「全くだ。このままでは僕の友人がこの狭苦しいアパートの一室で余生を過ごすことになってしまう」
 そう云って愛染はチラリとこちらを見た。
「警察に鬼を捕まえることなんて出来るとも思わないけどね」
 鬼ならば陰陽師かなんかに頼むべきだ。
「まだ鬼の仕業とでも思っているのか? 鬼ならば何故、死体が残る? 持って帰って食べてしまうんじゃないのかい?」
「そうとは限らない」
「その通りだ。そうとは限らない」
 僕が否定すると、愛染はすぐさま手のひらを返して僕の意見に同意をした。
 彼の顔がニヤリと笑う。同時に口元と頬の傷が歪んだ。
「久し振りに見る顔がこんなスカーフェイスじゃ堪らないってもんだよ」
「スカーフェイス。あれは良い映画だ。中々面白い」
 いつの間にか、互いに冗談を交し合えるほどには僕も元気を取り戻していた。
 これは少し愛染に感謝しないといけないかもな、と思いつつ、彼に借りが出来たみたいで何だか居心地が悪い。
「しかし君の部屋は見事に妖怪一色だな」
 愛染が部屋を見回した。あたりには妖怪関連の書物や文献を始め、妖怪画などがひしめいている。どれも僕のコレクションだった。
「これで妖怪が怖いと云うんだからお笑い種だ」
「趣味が高じて、だよ。それに怖いと思うほどに相手のことを知っておかなきゃならないと思ってしまう。それでまた調べて、恐怖の対象が増す。どうにも悪循環だよ」
「それは中々厄介だね」
 コレクションを見て回る愛染はひとつの絵の前で目を留めた。
 妖怪画を指さして、愛染は僕に問う。「これは?」
「それは鬼だよ」
「人の腕を銜えてる」
「ああ、きっと食べてるんだろう」
 腰には虎の皮。いかにもな鬼の容姿のイメージである。
「こちらの毛むくじゃらなやつは?」
 愛染が再び指し示した。
僕は彼が示す先を見て「あァ」と声を漏らした。
「それも鬼だよ」
「こちらは随分と鬼らしくない鬼だね。いや、でも確かに鬼だ。僕の想像する鬼より毛むくじゃら過ぎるのかな」
「それは鳥山石燕作の鬼だよ」
「あァ、鳥山石燕か。それは有名な絵師だね」
 じっくりと鬼の絵を愛染は眺めていた。
 そして、ふと何かに気付いたようで声をあげる。
「この石燕作のは、よくは見えないが虎の皮を腰に巻いてるのかい?」
「たぶん、そうじゃないかな」
「ふむ。『世に丑寅(うしとら)の方角を鬼門といふ。今鬼の形を画(えが)くには頭(かしら)に牛角(うしのつの)をいたゞき腰に虎皮(とらのかわ)をまとふ。是(これ)丑と寅との二つを合わせて、この形をなせりといへり。』とある。これは洒落だね。まるで謎解きだ」
「妖怪にはそういうのが多いよ。それにそれ違うが鳥山石燕が創作した妖怪は洒落が高じた謎解きがほとんどなのさ」
「なるほど。これは中々面白い」愛染は感心するように続けた。「君が魅入ってしまったのもわからないでもないな」


<作者のことば>
食人鬼編は長くて、さらにどこで区切って載せればいいか判断が難しい。
やっぱり気持ちとしてはちょうど区切りがいいとこで区切りたいので、回によっては長かったり短かったりするのはご勘弁を。

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Yuka | URL | 2008/09/22(月) 19:14 [EDIT]
あ、あれー? 
昨日これ読んで 続きをクリックしたら消えちゃってました>< 
書き中だったんですね!

江戸時代は何でも隠語、看板でさえ・・・
風呂屋→湯屋→看板が”弓矢” 湯【弓】に入る【射る】
現代と共有している部分はあっても、流行りの言葉・文化が大きく違います。 
推理には 江戸文化の基礎知識が要りそうです。
でもソレ関係の事を調べると大抵答えも一緒に書いてあったりします。
(無いと判らないのですけどね^^;

鬼団子 | URL | 2008/09/23(火) 01:25 [EDIT]
非常に面白かったです。
普段は読書が苦手で本とかも読めないんですけど、結構スラスラと読めました。
暇があればまた来ますね^^

匡介 | URL | 2008/09/24(水) 18:30 [EDIT]
>Yukaさん
あー、確かに間違えて一度載せちゃいました(汗) スミマセン。
隠語の話はどこから来たのかと一瞬思ってしまったんですが、ああ、鬼の話からですね。
しかし、本当に博識ですなァ。そこまで話題を広げられるとは思ってませんでした(笑)

匡介 | URL | 2008/09/24(水) 18:35 [EDIT]
>鬼団子さん
ありがとうございます!! 嬉しいですe-420
何より普段読書をしない人に、読むことの面白さを知って欲しいので、そう言ってもらえるとやりがいを感じます♪

是非是非、またお越しくださいませ。お待ちしています。

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