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みやび萬紅堂。
かつて小説に似たものが書かれていた所、その残骸。
DATE: 2008/09/19(金)   CATEGORY: 短篇小説
平成妖異奇譚(3) 「未来ヲ予測スル少女」
 未来。それはこれから来る時間のこと。将来。
 もし僕らが未来を見通すことが出来たらどれだけ救われることだろう。僕はそう考えてきた。未来を見通す能力。でもそれは人が扱うには余り余った力なのかもしれない。

 彼、田島 章兵は太った男だった。
 全国チェーンを展開するファミレス、その隅のテーブルに僕らは座っている。
 田島はいい歳をしていながらチョコパフェを胃の中へと放り込むのに夢中になっていた。
「その田島さん、用件というのは?」
 僕のとなりに座る愛染が云った。
 彼とは出会ってからというもの、よく一緒にいることが多い。気が合う、というのも的を射ない表現なのだが、この愛染 國彦が僕の唯一の理解者だというのは確かだ。
「國彦くぅん、昔のことになるが例の話を憶えてはいるかい?」
「田島さん、例の話と云われても。ちゃんと説明をしてくれないと困りますよ」
「そうだな、うん。じゃあちょっと待ってくれる?」
 そう云うと田島は残りのパフェを一気に食道へと流し込んだ。
 僕には味わうのが目的か、食べること自体が目的なのかよくわからない。胃に入ってしまえば何でもいいのか?
「ふぅ~。失礼したね、國彦くぅん」
「いえ、構いませんよ。田島さんが甘い物には目がないというのは知ってることですから」
「そりゃあ、助かる」田島は近くを通りがかったウエイトレスを呼び止めた。「きみぃ、チョコレートパフェの追加を頼むよ」
 まだ食べるのか。正直、僕には信じられない。
 見ているだけでも胸焼けがしそうだ。気持ち悪くすらなる。
「さあ、パフェが来るまで話をしようか」
「お願いします」
「前に巫女の話をしたのを憶えてはいるかい?」
「どの巫女の話でしょう?」
「未来を読む巫女だよ」
「あァ、どこからか連れてきた巫女ですね。とてつもなく計算に長けた」
「そうだ。その巫女だよ。前にも云ったが、彼女は信じられないほどの計算能力を持っている」
「ええ、憶えています。前に会ったときはまだ小さかったですよね」
「ぶふぅ、あの子ももうそれなりの年頃だよ。」
「それでその子がどうかしたんですか?」
「前にも云った通り、彼女の未来を読むというのは可能性でしかなかった。研究員たちの理論上の話だよ。むしろ空想上と云ってやってもいい、はずだった」
「ということはもしかして?」
「そうさ。あの巫女は未来を読むことに成功したんだよ」
「それは興味深い」
そこまで聞いていて僕は「待った」をかけた。
 未来を読むだって? それはつまり、予知能力だとでも云うのか?
「確かに君には少し早い話だったかな。わかった、説明しよう」
「是非ともそうしてくれ」頭の中がぐじゃぐじゃだ。
「君は未来を読むするときどうする?」
 唐突だった。
 何の説明にもなっていないじゃないかと僕は云う。しかし彼はそれを続けた。
「未来を読むといった表現が悪かったね。未来を予測はどうするんだい?」
「それもどういう意味か理解出来ないな」
「そうだな。じゃあ、超高層ビルから人が飛び降りたとしよう。ビルは何階でも構わない、好きにイメージしてくれ。それでその人はビルから地上へと落ちた。さて、どうなる?」
 僕は少しも考えずにただ当たり前のことを答えた。
「まず死ぬだろうね。運良く助かっても重傷だ」
「それが予測だよ。未来を読む力だと云っていい」
「どういうことだい?」
「ビルから人が飛び降りる。そうすると間違いなく人は地面へと叩きつけられるのをイメージするだろう。そしてそれによって死かそれに値するほどの重傷を負うだろうと考える。それは経験上からの予測だ。人は自分の知識から『物は落ちる』と『高いところから落ちると大きなダメージを受ける』と『大きな怪我は人を死に至らしめる』というものを引き出し、それを並べて、ひとつの結論をまとめ上げることが出来る。そうしてひとつの結果を構築するんだ。それが人生の経験で蓄えられた認識と知識なんだよ。人はそれで物事から予測を立て、未来を読もうとするわけだ」
 愛染に一気に説明をされ、少し焦りつつも何とか呑み込んだ。
 どうにか理解出来たような気がする。しかし予測と未来を読むがいまいち繋がらない。やはりそれは違うもののように感じる。
「まだ納得のいかないような顔だね。説明を続けよう。例えばAがBに愛の告白をするとする。AのこともBのことも知っているCはAの告白が成功するかを多少なりとも予測することが出来るわけだ。そしてCはAの告白は失敗すると予測した。ところが、だ。BはAの告白を聞き入れ、見事2人は付き合うことになった。これはCの予測が外れたわけだ。じゃあ、どうしてCの予測は外れたんだと思う?」
 僕は少し整理をした。
 AはBを好きで告白をした。AとBの2人を知るCは2人の性格や今までの出来事からAの告白が失敗すると予想した。しかしその予想は外れ、Aの告白は成功し、AとBは付き合うこととなった。じゃあCの予想が外れた要因は? Bのことをよくわかっていなかった? それともAの良さに気付いてなかったのだろうか。Cの気付かなかったAの良さをBが気付いていたならCの予想が外れることは充分に考えられる。
 もうひとつの仮説としてはCの知らないところでAとBは通じていた。Cの思っていた以上に2人は仲が良かったのだ。
 最後に考えられるのは、CがAとBを全然理解していなかったということだろう。
 僕は自分が頭の中で整理した内容を愛染に伝えた。
「見事だ。君は中々頭が良いらしい」
「愛染。お前は失礼なやつだな」
「仮説として、君が言った通りの可能性がある。それはそれぞれパーセンテージで表示することが出来るだろう。もちろんABCの3人をよく知っている場合に限るがね」
 そこでウエイトレス現れ、チョコレートパフェを僕らのテーブルに置いた。
 田島は待ってましたと云わんばかりにチョコパフェに食らいついた。
「話を続けよう。挙げられた可能性から最もパーセンテージが高いものを選ぶことが出来れば、それは未来を読むことに優れていると云えるだろう」
 それは理解を出来た。
「未来を読むというのはだね、考えられうる可能性を全て叩き出し、それをパーセンテージに置き換え、最も考えられうる結果を予測することなのだよ」
 愛染はそう云い終えると目の前に置いてあったコーヒーのカップを手に取り、口元に運んだ。
 僕は理解したような、してないような微妙な状態にある。
「ぶふぅ、愛染君の談義は終わったようだね。ちょうどこちらもチョコレートパフェなるものを食べ終わったところだよ」
 田島の方を見ると、確かにパフェの入っていたはずのグラスが空になっていた。
 一体、どんな食べ方をしたらこれほどまで早く平らげることが出来るのだろうという考えが頭を巡った。
「それで、その少女はどうして未来を読めると言い切れるのですか?」ずっと気にかかっていたことを素直にぶつけてみた。
「素晴らしい!」田島が大声が店内に響いた。
「何が‥です?」恐るおそる僕は尋ねる。
「君は話してもいないのに彼女のことを“少女”だと当てた! それは素晴らしい予測だよ。君は今、まさに未来を読んだのだ!」
 確かに云われてみれば、僕はその巫女が少女だとは聞かされていなかった。
 どうしてそう思ったのかと考えてみると、愛染が「前に会ったときはまだ小さかったですよね」というセリフからの推測に違いない。しかし、それは“未来”を読んだと云えるのかは謎だった。別にこれから起こる出来事を予測したわけではない。話の内容から推測をしたに過ぎなかった。
「そうだね、話を戻そうじゃないか」愛染は空になったコーヒーカップをテーブルの上に置いた。「その巫女の説明をしよう」
「是非とも頼むよ。僕にはちんぷんかんぷんさ」
「その女の子が巫女だと云うことはあまり関係ない。重要なのは彼女の素晴らしい記憶力とそれを基に予測し形成される未来のカタチだ」
 それを聞いて今度は田島が喋り出した。
「その通りだよ。彼女の特殊なところは異常なまでに発達した記憶力と計算能力にある」
「計算?」
「そうさ。情報を与えれば彼女はそれを記憶する。そしてその情報を基に様々な計算を行なえるのさ。それは予測というカタチでも表現される。過去の一切を憶えることが出来る彼女は様々な情報、それは経験からだったり、外部から取り入れた知識や認識だったりするわけだが、を見事なまでに整理し、それらを繋ぎ合わせることが出来る。つまりはさっき愛染君が説明してくれたような予測を、もっと大きな規模で行なえるんだ。その的中率も凄まじい。彼女は物事の結果予測を素晴らしく的確にパーセンテージで表し、それらから様々な要因を考え、未来を知ることが出来るのだよ」
 むむむ。さすがに少し難しかった。今度はよく理解が出来ていない。
 でも、その少女の予測がとてつもなく当たるということはわかった。
「彼女さえ居れば、第三次世界大戦での我が国の大敗も防げたとも云われている」と田島は付け足すように云った。
「僕はその記憶力や計算能力の他にも、彼女が巫女だと云うことも要因として有るんじゃないかと思ってるんだ」
 巫女という要因。
 それは超能力の類いだということか?
「僕が会ったときの彼女は、まだ少し先の未来しか読むことが出来なかったんだが、それでもその的中率は凄かった。というか百発百中という様相さ」
「それでそれが超能力だと?」
「田島さんも彼女の出所だけは教えてくれなくてね。それで彼女がどんな巫女なのかもわからないんだ。どこの土地に住んでいた巫女なのかさえわかればその可能性の有無ももっとよく考えることも出来るんだが」
「その、どこに巫女が住んでいたというのは関係あるのか?」
「当たり前だよ。巫女はその地域のよって様々さ。土地柄さえわかれば彼女がどのような巫女で、どのようなことが出来るのかもわかる」
「ぶふぅ、それは極秘でね。さすがに國彦君でも話すことが出来ないよ。そんなことしたら僕は研究機関から追い出されるだけじゃ済まない。最悪、塀の中さ」
 額を伝う汗を田島はシャツの裾で拭った。
「それはわかってますよ。ただ残念だと思ってね。彼女が先読みを出来るシャーマンだとしたらこれは今後の研究の仕方も大きく違ってくる」
「それはわかってるよ。ぶふっ。研究員のやつらも一応そういう方面の研究も、可能性として追ってるのさ。でもやつらにはそんなのオカルティズムの一環でしかないと考えているらしくてね。そう熱心ではないんだ」
「それは残念なことだ」
 テーブルの端に置いてあった伝票の紙を田島は乱暴に掴み取った。
「残念だが、そろそろ退散しないとならない。僕もそう暇ではなくてね。久々に國彦君と話せてよかったよ。今度、外出許可が下りたら例の彼女を連れてきてあげよう、楽しみに待っておいてくれ。」そして田島は付け足した。「でも期待はしないでくれよ。許可なんて滅多に下りないんだ」
「僕も田島さんと話せてよかったです。是非、その彼女には会いたいですね。楽しみにしてます」
 田島が席を立った。
 続いて愛染と僕も立ち上がる。
「会計は僕がしておくよ。奢らせてくれ」
 まあ、僕はカフェオレを一杯頼んだだけだったし、愛染もコーヒーを一杯だけだったのでその意見は素直に通った。
「なに、研究所の名で領収書を切らせるさ」
 ぶふぅ、と少々息苦しそうに笑って田島はレジへと向かった。
 僕はカップに少しだけ残ったカフェオレを見つめ、テーブルを離れた。
「君とも会えてよかったよ。君は中々呑み込みがいい。優秀だ。うちに迎えたいくらいだよ」
 田島は僕にそう云ってファミレスを出た。
田島の云う「うち」が彼の務める研究機関だということくらいは理解できたが、それがどういうところなのかはわからない。
 僕たちは田島を追って、ファミレスをあとにした。


<作者のことば>
あるとき未来予知にきちんとしたメカニズムがあり、説明つけるとしたらどうなるだろう? と考えた。
超能力ではなく、ある理論に基づいて未来予知が実行されるとしたら。

俺の答えは「尋常ではない計算力」だった。

しかしこれは限定された中でしか可能ではない。世の中の全てのことが頭に入っているのなら、どんな予知でも可能だろうが、そんなことはまず有り得ないだろう。
でも限定された場合にのみは有効であると思う。そもそも世の中はそんな計算に基づいて色々なものが予測がなされているのだから。

ちなみに並外れた非常に高い計算力を持っていれば未来予知も可能ではないかという発想は、自閉症である一部の人は非常に高い計算力を持っているという話から得た。
もしかすると彼らの中にはきちんとした理論に則って未来を予測することが可能な人物もいるのではないだろうか? その高い計算力から未来を導き出せるのでは?
しかし計算力が高い人ほど、症状は重度のようなのだ。実際に彼らが未来を知ることが出来ていても、我々がその未来を知ることはかなり難しい。

そんな「もしかしたら…?」を書いてみたかった。

有り得ないけれど、有り得そうな。有り得そうだけど、有り得ないような。
そんなものを意識して書いてみたが、どうだったろうか?

ところで「妖怪が書きたくて!」とか言っていたくせに、今回一言も妖怪の単語が出てこなかったことはどうか突っ込まないで頂きたい(笑)

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COMMENT

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ミーコ | URL | 2008/09/19(金) 17:22 [EDIT]
(σ´∀`)σ{妖怪がいなーい(笑)きゃなきゃな~♪

匡介 | URL | 2008/09/19(金) 23:59 [EDIT]
>ミーコ
あー、きゃなきゃな妖怪がいるー(笑)
別に「毎回妖怪が出ます!」と公言しているわけではないから問題ないです!

翡翠 | URL | 2008/09/20(土) 00:15 [EDIT]
あれですね、人間の許容量の問題。
前に何かで知ったんですが、
人の持てる力が限られているのは許容量があるかららしいんです。
百パーセントを用途で分けてる…長所短所がある訳ですね。
で、それがたまに偏ってしまう人がいる、という事なんですが…。
得意なことがあって、苦手なことがあって。それでいいと思うんです。
計算高い巫女さんて、どんな感じでしょう…?

匡介 | URL | 2008/09/20(土) 00:55 [EDIT]
>翡翠さん
あァ なるほど。割り振ってるわけかー。
…でも、中にはいますよね。本当に万能な人!
短所あるのかよって人いません?(笑)

てか、計算高いって狡猾なイメージありますね、ずる賢いみたいな。
単に計算“力”高いわけですからね?(笑)
綿密な計算に基づいたシュミレートができる、みたいな感じです。
● 管理人のみ閲覧できます
| | 2008/09/20(土) 18:19 [EDIT]
このコメントは管理人のみ閲覧できます

匡介 | URL | 2008/09/21(日) 23:42 [EDIT]
>シークレットさん
えっと、、申し訳ないのですが、何の話題でしょうか?
そこのところの説明を頂けると助かります。

Yuka | URL | 2008/09/22(月) 09:40 [EDIT]
ちょっと不謹慎な予測を書いてしまいました。
シークレットです。
トイレの裏に遺棄されていた男の子の犯人を予測したものでした。

匡介 | URL | 2008/09/22(月) 17:22 [EDIT]
>Yukaさん
何が不謹慎なのかなって思ったら実際の起きた事件についてだったんですね。スミマセン、あまりTV観ないのでニュースとかに疎いんですよ。
ちなみにそれはきっと推理です(笑)

未来予知は事件が起こることや犯人が捕まることに対しての予測であって、過去に対する推測とはまた違います(あくまでこの回の話に沿って話していますが)。

ちなみに犯人は捕まったみたいですね。
でもYukaさんの推測とは動機が違うようで残念!

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