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みやび萬紅堂。
かつて小説に似たものが書かれていた所、その残骸。
DATE: 2008/09/11(木)   CATEGORY: 短篇小説
霧と鮮血
 齢は18、9といったところだろうか。少なくとも20歳前後ではあるはずだ。そんな7人の若者たちが、街を堂々闊歩していた。
 真夜中の街は闇と暴力に支配されている。その暴虐なること、昼間に比べるとまさに雲泥の差であるといってもいいだろう。夜が更けると、闇と暴力が跳梁跋扈し、街に須らく蔓延(はびこ)る。
 今の時代、大人すらも不良極まる若者たちの相手をしようとは思わなかった。暴力を纏い、何をしでかすかわからない若者など構わず放っておこうというのが大多数の大人たちの意見であった。それほどまでに、彼ら若者は暴力を欲し、暴力に餓え、力を見せつける獲物を探しさまよっているほど、極悪で、手の施しようがないほどであった。
 7人の若者たちは、街の郊外へと出向き、一軒の洋館の前に辿り着いた。
 ここが彼らお気に入りの溜まり場となってからもう1年以上が経つ。何十年も前から誰も住んではおらず、さらには誰の屋敷ですらもわからないような、廃館同然の館であった。
 いつものように鋳鉄の門の脇のレンガ造りの壁を飛び越えて、若者たちは洋館の中へと這入っていった。
 あまりの広さに思わず迷ってしまいそうな屋敷ではあるが、慣れた彼らはまるで自分の家だとでもいうかのように、何の躊躇(ためら)いもなく進み、いつも彼らが使っているひとつの部屋に腰を落ち着けた。
部屋の灯りを点け、各々が持参してきた菓子類や食べ物を広げ、彼らは他愛もない話に口を動かした。
 暫(しばら)くすると、隣の部屋から物音が聞こえた。
 彼らは自分たち以外に誰もいないことを知っていたので、思わずドキリとした。猫か何かだろうか。こんな古い洋館だ、鼠だっているだろう。彼らは何ひとつ躊躇わず、隣の部屋へと足を運んだ。
 古く錆びかけのドアノブを回し、中へと這入った。何かがいる様子はない。冷たい風が彼らに吹きつけた。
 見てみると、部屋にある大きな窓が開いているようだった。どうやらさっきの音は風らしい。彼らのひとりが窓を閉めようと、部屋の奥に足を進めた。
 外は霧らしい。それも濃霧だ。今まで誰一人気付きはしなかったが、いつの間にかに窓から覗けるのは白いもやもやだけで、他には何も見えないほど霧に包まれている。
「早く閉めろよ」
 彼らのうちのひとりが云った。
 云われた男はわかったよと云うように、云った男に一瞥し、窓へと近付いた。
 そのときである――、窓の縁(ふち)に寝そべるようにして身体(からだ)を傾けている人影に気付いた。
 それは男だった。しかし一見しただけではそうだとはわかりようもない。よく見なければ、いや見たとしてもその判別は難しかったであろう。
 男は部屋に這入り込んできた彼らたちに気付き、目を覚ました。
 窓縁から足を床に降ろし、立ち上がる。
 漆黒の、艶やかで美しい髪が風で靡(なび)いた。
 唇は、紅を塗ったように赤く、肌は白々としていてきめ細か、それはまるで女だった。それも絶世の美女である。
 しかし、その眼には冷徹で鋭い眼光を秘めており、狼のように孤高な眸(ひとみ)だ。
 美しく、妖艶な雰囲気を携える男は、ゆっくりと1、3歩あゆみを進め、云った。
「なんだお前たちは?」
 その声を聞いて彼らは、漸(ようや)く目の前にいる人物が男だということを知った。
 美しく、透き通るような声だったが、それは確かに男のものに他ならなかったからだ。
「ここは私の屋敷のはずだが」
 彼らは、長髪の美男子の言葉を理解するのに数秒を要した。
 思わず同性でも魅入ってしまうほどの美しさと、妖しげな雰囲気に呑まれてしまっていたのだ。
「もう一度云おうか? ここは私の屋敷なのだが、お前たちは何者だ? なぜここにいる」
 ゆっくりと、しかし氷のような冷たさを含んだ声で、男は云った。
 彼らは思わずたじろいだ。この洋館に足を運ぶようになって1年だ。それだけではない。彼らは今まで一度もこの屋敷に誰かが住んでいるのを見たことがなかった。まさか屋敷の主が今更になって現れるなどとは夢にも思いもしなかったであろう。
「君たちには聴覚というものがないのか?」
 ハッと全員が我に返った。
 目の前にいる男が誰であろうと、たとえこの屋敷の主であろうとも、彼らには関係のないことだった。
 全ては暴力で解決する。彼らはいつもそうしてきたのだ。悪意を含んだ暴力で大人たちすらも捻じ伏せるのが彼らのやり方だった。
 彼らのひとりが前に進み出た。丸く剃り上げたスキンヘッドに、筋肉隆々の、まさに筋肉馬鹿とでも云いたくなるような男だった。
 彼は見せびらかすように、タンクトップから漏れた、ぶ厚い筋肉に力を込め、太い腕をさらに太く見せる。
「ここは俺たちの屋敷だ」
 低く、野太い声でスキンヘッドは云った。
「それに俺らはお前みたいやつを一度たりとも見たことがない。だからお前がここの持ち主のはずはない」
 艶のある口元から溜め息が漏れた。
「じゃあ、訊こう。君の齢は?」
 優しいようでいて、冷ややかな声が続いた。
「私の見たところによると、18か19か、せいぜい20ほどの年齢に思えるが」
「俺はハタチだ」
「そうか。20か」
「ああ、それがどうした?」
「他の者も同じくらいの年頃だろう? ならば私を見たことなどあるはずがない。私は長いこと旅行に出ていたからな」
「旅行だ?」
「あぁ、そうだとも。旅行だ。…そうだな。もうここを離れて30余年にはなろうか」
 何の冗談だろうか?
 そこにいた彼ら全員が思ったことだろう。
 目の前にいる男は、多く見ても20代後半にしか見えない。どう考えても30歳以上には見えぬし、それに旅行にそれだけかける者もまず見ない。仮にだとしたら、一体この男は何歳であるというのか。男が旅に出たときはいかほどの年齢であったというのか? どう頭を捻らせようが、悪い冗談にしか聞こえなかった。
「てめぇ、テキトーなことぬかしやがって!!」
 スキンヘッドが怒鳴り散らした。
 それに続くように他の者も罵声を浴びせた。
「やれやれ、君たちはどうにも頭が足りないようだ。すぐに汚い言葉を吐く。何とも幼稚だよ」
 男はスキンヘッドを見て、
「さっきから君はその自慢であろう太い腕をヒクつかせているが、どうしたんだ? もしかすると、力に任せて私を黙らせようとでも考えているのか? だとしたら随分とまた馬鹿で浅はかな考えだ。この私を暴力で捻じ伏せようとは」
 と云うと、美しい口元を歪めて笑った。
 何とも冷ややかで、悪魔のような微笑みだろう。
 それを見て彼らも笑った。大声で。
 何を云うかと思いきや、まさかこの華奢な身体つきで、自分たちに勝てるとでも思っているのかとでも云うように嘲笑した。
「へっへっへ。何ともいけ好かねえ奴だが、どうやら自分の置かれたこの状況を理解してはいないらしいな」
 スキンヘッドとその一味はいやらしい目で男を見遣った。
 男は顔にかかった前髪をさらりと払い、前に出た。
 そして滑らかな動きで手を振った。眼前の空を切るように、右腕を振った。
 次の瞬間、スキンヘッドの首筋から血が吹き荒れた。切られた本人すら気付かなかったが、スキンヘッドの顎下から胸元に至るまで、ざっくりと深く、見事な切り傷が奔っていた。
「うぁぁぁぁぁああああ!!」
 情けない声で、スキンヘッドが叫んだ。
 彼の仲間たちも、驚きのあまり絶句していた。
「さっさと切り口を閉じないと、一刻もしないうちに君は死んでしまうゾ?」
 男は顔を妖しく歪めた。それは満面の笑みであった。
「コノヤロー!!」
 襟足を長く伸ばした男が、屋敷の主に殴りかかった。
 再び、部屋に鮮血が舞う。
「他にも私に挑むものはいるか?」
 流れ出る血を眺めながら、愉しそうな声で云った。
 彼らのうちのひとりが悲鳴を上げながら逃げ出した。それを見て、またひとりが逃げ出す。
「おやおや、もうお帰りかい?」
 愉快そうに、笑い声が響いた。
 彼らは流れる汗が目に入り込むのも構わず、走った。洋館の玄関に辿り着いてもその速度を弛(ゆる)めず、一目散に屋敷を飛び出した。
 ひとりは鋳鉄の大きな門をよじ登り、ひとりはレンガ造りの塀を跳び越した。
 惨劇の舞台となった洋館の敷地からは誰もがいなくなり、残されたのは妖しき美男子ひとりだけとなった。

 屋敷中に、終わりなく笑い声が響いた。


<作者のことば>
半年以上1年未満くらい前に書いたやつ。
イメージは切り裂きジャック。それにヴァンパイアの雰囲気を足した感じ。

えーっと、だいぶ放置していた為、イマイチよくわからないのだけど、…もしかしたら未完?

短篇を書いていたのは確かなんだけど、保存されてた文章の最後が続き書く気だったっぽい?
まァ 仕方ない。どちらにせよ、当時どういう構想だったのかまったく思い出せません。

書いていたときは良い文章だナァ、などと思っていた記憶もあるのだけれど、読み返してみれば微妙。
でも使っている語彙がいつもと違うので、きっとそのあたりは気にしていたんだと思われる。


ぴーえす。


もう過去に書いたストックがなくなり始めている。
ここらへんで全力を出して作品を書かないと、次の更新がいつになるかわかりそうにない。…ヤバイ。

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