みやび萬紅堂。
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DATE: 2016/04/22(金)   CATEGORY: MUKURO・黙示録篇
MUKURO・黙示録篇-15 (宴のはじまりⅤ)
 風の音を耳にして、目が覚めた。そこには黒に塗りつぶされた空間があるだけで、目をひらいているという感覚は薄い。美琴は上半身を起き上がらせた。寝ているつもりでいたが、実際には眠ってはいなかった。眠れなかった。
 部屋の暗さに目が慣れてくると美琴はベッドをおりて部屋を徘徊した。酒井真美は眠っている。風の音はやんでいた。元々そんなものはなかったかもしれない、と思う。とても静かだった。
 すこし<キャッスル>の中を散歩してみようと思い立ち、美琴は制服に着替えた。酒井真美が用意してくれたものがいくつかあったけれど、彼女の知らないところでそれに着替えるのには、どこか抵抗があった。そして、この制服も自分のものではないことを思い出して小さく笑う。勝手に寝泊りした家で見つけた制服だった。見知らぬ人が着ていたもの。それなのに今は自分のもののように感じている。本当に自分のものだった制服は、その家に置いてきていた。
 <キャッスル>の廊下は、当然ながら静まり返っていた。ひとつの明かりも見えない。部屋で見つけた懐中電灯のスイッチをいれ、足下を照らしながら進んだ。壁伝いに歩く。たまに闇の向こうに化け物がいるんじゃないかという妄想がよぎり、一歩踏み出すのが怖くなった。さっさと部屋に戻ってもう一度眠りにつく努力をするべきだともうひとりの自分が言っている。けれど耳を貸さない。それではなんだか負けたようで悔しい。何に負けるのかはわからないけれど。
 耳が、何かを捉えた。廊下の向こうから、わずかに気配を感じる。人の声だ。男か女かはわからない。美琴は近づいた。女の声だと気付く。なぜだか心がざわつく。さらに歩を進めると男の声を聞こえてきた。このあたりは――と美琴は思う。このあたりは、相楽を見かけた場所ではなかったか。あのとき相楽が向かっていた先に、いま自分は歩み寄っているのだとわかった。不吉な予感がある。男女の声が大きくなる。女の叫び。男の恫喝。恐怖が背筋に這い寄ってくる。美琴はドアノブに手をかけた。心臓の鼓音が耳元できこえる。血管が強く脈打っている。手に力を込めて、ドアを開けた。肉と肉のぶつかる音。女の喘ぎ声。男の手が女の尻を強く叩いた。美琴は硬直し、身動きができなくなる。顔にタオルを巻きつけられ、両手はうしろで黒いひも状のもので結ばれた女が「ゆるしてください」と懇願していた。目も口もタオルで覆われているので発音は不明瞭だ。そんな女を床に押しつけながら、男が背後から犯して、いる。どう見てもレイプにしか思えない。その横ではべつの女がべつの男のモノをしゃぶっていた。こちらは合意の上という印象を受けた。女がいやがっている様子はない。首輪をした女もいた。四つん這いで、尻にビンが挿れられている。首輪から伸びたリードの先を持っている男が笑ってそれを見ていた。ほかにも数人の男がそれを面白げに眺めている。女は苦痛に満ちた表情で、必死に男に媚びていた。
(これは、なに……?)
 目の前の光景が理解できなかった。何がおこなわれているのか、考えたくもない。常軌を逸している。狂ってる。まるで地獄だった。そして一瞬ではあるが、男にとっては天国かもしれないなどと思ってしまい、そんな考えをした自分に嫌気が差した、絶望が深まった。明らかに女が性のはけ口としてしか見られていない。人格も剥ぎ取られ、男の玩具として、精神も肉体も蹂躙されている。あまりのことに呆然としていた美琴のなかに、かすかに怒りが芽生えた。
「なにやってんだよ」
 背後から声をかけられ、美琴は恐怖に凍りついた。振り返れずにいると、背中を強く押されて床に膝をついてしまった。見上げると知った男の顔があった。相楽だった。
 相楽は驚いた表情で、美琴を眺めている。目の前の女が知っている人間だと気付いたのだろう。そして口元が歪んだ。(笑った――)と美琴は思った。
「おまえ、天嶺じゃん」
 相楽の手が美琴の顔を掴んだ。
「ははっ、なんでこんなところにいんの?」
 美琴はあらん限りの憎悪を込めて、相楽のことを睨んだが、相楽はまったく気にしていないようだった。「ちょーおもしれぇ。まさかこんなところでお前と会うなんてよ」
 相楽が強い力で美琴を押した。抵抗したつもりだが、美琴の体は簡単に床に転がる。相楽が馬乗りになって、美琴が起き上がるのを防いだ。スカートなんて穿いてくるんじゃなかった――まるで危機感が足りないような思考が脳裡をよぎった。
「もう知ってる人間に会えると思ってなかったよ」
 相楽の声は、美琴の耳に邪悪に響いた。以前からこんな人間だったろうか? その雰囲気は、なぜか自信に溢れて見える。あのとき、廊下で見かけたときに一緒にいた女の子は、あのあとどうなったのだろう…?
 相楽の右手が美琴の頭を押さえつけ、左手は胸に触れていた。相楽の考えが読めて、嫌悪感が込み上げる。左手は体の側面をなぞり、スカートの下へと這っていった。美琴は必死に抵抗する。相楽の振り上げた拳が、美琴の顔面を捉えた。痛い。そして二度、三度と容赦なく美琴は殴られる。血のにおい。鼻血が頬を伝った。美琴は涙をこらえた。
「なぜだろうな、抵抗してくれた方が面白いんだよな。生意気な女を無理やり犯すのはどうしようもなく、たまらない。男に生まれてきたことへの喜びを感じるんだよ。女が『ゆるして』って口にするたび、俺は全身が震えるような快感をおぼえる。最高だよ。あまりに抵抗する女は赦しを乞うまで殴るんだ。泣きながら『ごめんなさい、ゆるしてください』って言うまでな。何度も何度も謝るんだよ。『ごめんなさい、ごめんなさい。わたしが悪かったです』って。たまらないよな」相楽は饒舌だった。その顔には笑みが浮かんでいる。「お前も泣きたくなったら我慢せずに泣いていいからな。その方がそそるよ、ゾクゾクする」
 泣くものか――と美琴は心に誓った。相楽を喜ばせたくは、決してなかった。そしてこれほどまで激しい憎悪の念を抱いたこともなかった。猛烈な怒りの炎が、美琴の心の内で燃えあがる。
 そんな美琴の態度が気に喰わなかったのか、相楽はさらに数回美琴を殴った。顔が熱く、腫れていくのがわかった。特に左目はまぶたが重く、うまく開けていられない。
 周囲を窺った。何人かの男が好奇の目でこちらを見ているが、まったく意に介さずに女を犯し続けている者もいる。女たちは全員が一様に美琴の存在を無視しているようだった。そうすることがルールであるかのように。そうでもしないと、男の機嫌を損なうのかもしれない。元々期待していなかったが、誰の助けもあてに出来ないことがはっきりした。
 美琴はスカートのポケットに入っている物を思い出して、そっと右手で握りしめる。相楽は、ブラウスのボタンをはずし始めていた。美琴を無理に押さえつけるようなことはしていない。一見すると、もはや美琴は何の抵抗も見せてはいなかった。


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DATE: 2016/04/10(日)   CATEGORY: 雑記
19191
MUKURO進めました。すこしだけ。
書いてないせいか文章力も表現力も落ちたな、と強く感じて落ち込みます。でも書いてないせいだったらまだいいな、とも。新しいものを書きたいけれど、昔のようにスッと書き始められず、アイディア的なものも枯渇を感じるわけで、同じように文章に対する感性のようなものがなくなってしまったのでは、とたまに思います。だとしたら非常に怖い。
それでも何か書きたいなーと書くことに執着して捨てきれないでいるのはなんなのだろうと思いながら最近は書いています。まぁ執着してるというわりには書いてませんけどね。だから余計に、この気持ちはなんなのかなーと思ってしまいます。

下手でも書こうと思っているけど、できれば上手い方がいいなぁ。
もっといえば面白ければどっちでもいいわけですが、上手い方が面白いもの書けるでしょうね。技術ってそういうものですものね。

自分がもう少し頑張ればMUKUROの完結はそう遠くはないはずなんですが、完結したらしたでこの先どうしようかなぁ、とか考えてしまいます。新しい話、書きたいけどなぁ。書きたいという思いだけで、具体的なものが浮かんできません。かなしい。

それでも人生は続くから、余計にかなしいですね。

とりあえずMUKUROのペースをもう少しあげたいです。


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DATE: 2016/04/10(日)   CATEGORY: MUKURO・黙示録篇
MUKURO・黙示録篇-14 (宴のはじまりⅣ)
 頬を伝ってあご先から水滴がしたたるのをタオルで拭い、飯沼真二はベッドに腰をおろした。隣では舘岡が大の字になって眠っている。気楽なやつだ、と思う。こんな状況になってもまだ、どこか能天気さを感じさせる男だ。いったいどういう神経をしているのか。けれどそこが羨ましくもあった。舘岡は馬鹿ではない。この状況にまったく危機感を持っていないわけではないことは、わずかながらの間だが一緒に過ごしてきた飯沼にはわかっていた。なのにどこか余裕のようなものがある。これは天性のものだろうと飯沼は思っていた。深刻な状況を深刻に受け止めすぎない才というのだろうか。それは飯沼が持っていないものだった。自分はいつも深刻なものをそのままに受け止めてしまう。それで無駄に疲弊してしまうのだ。他人には器用な人間に見られるが、そういうところはほんと不器用だと自分でも感じていた。
 世界が今のようになってから、表向きは余裕を見せているけれど、実際の心の中はいっぱいいっぱいだった。
 ここにたどり着いて助かった。呉 頼華の案内で、彼女が仲間と住んでいるというホテルに到着した。そして城田という男に迎え入れられ、この部屋を当てがわれた。あらかじめ口裏を合わせ、頼華を襲った井岡という男は、化け物に襲われて死んだことにしてある。さすがに黒川宗二郎が殴り殺したとは言えなかった。状況が状況ではあったが、過剰な暴力であることは確かだ。飯沼はあのときの黒川の目にうすら寒いものを感じた。光の届かないほど深い闇のようなといえばいいのか、黒川の全身から狂気じみたものが発せられていた。飯沼と舘岡のふたりが同じ部屋に割り当てられ、黒川とは別室となっていた。
 ドアがノックされた。飯沼が覗き穴から窺うと、城田と一緒にいた男が立っていた。
「よう」
 と男が言った。「女を化け物から救ったんだってな」
 川津というその男は、飯沼を部屋から連れ出した。《いいところ》に案内してくれるという。飯沼は、よくもわからずついていった。ただし川津という男の第一印象はあまりよくはない。だが、小さなことで諍いが生まれても仕様がないと思った。こういう限定されたコミュニティーでは、ちょっとしたことで生まれる亀裂が致命傷になりかねないことは理解している。できるだけ波風を立てないのが正解だろう。熟睡していた舘岡は部屋に置いてきていた。
 川津に連れられていったのは、ホテルの一室だった。ドアを開ける前から不穏なものを感じてはいた。ドア越しに、何かうめき声のようなものが聞こえたからだ。
 ドアが開き、室内が見えた。半裸の男がいた。その男の前で、女が壁に手をつき喘いでいる。椅子に腰かけている別の男の前では、跪(ひざまづ)いた全裸の女が、男の足の親指をしゃぶっていた。部屋の中では、さらに何人かの男女がそれぞれに交わっている。
 飯沼は凍りついた。川津に促されるも、室内に入ることができなかった。異様な光景に圧倒される。これはなんだ……?
 まるでサバトや黒ミサといった悪魔崇拝者たちの儀式を見せつけられているかのようだった。欲と欲が絡み合い、異形をなしていた。泣いている女もいる。男は概(おおむ)ね笑っていた。汗と精液の匂い。籠もっていた熱気が陽炎のように飯沼の視界を歪めた気がした。現実感のない光景。――しかし現実感のないものばかりを見すぎてしまっていた。現実感のない現実。いまは、そういう世界にいることを再認識させられる。
「驚いたろう?」
 にやつきながら川津が言った。確かに驚いた。
「お前もどうだ?」
「どう、って?」
「女を抱きたければ抱けばいい、犯したければ犯せばいいってことだよ。部屋にいる女は好きにしていい」
 理解が追い付かなかった。
「いや、いい」
「遠慮するなよ。こいつらは男に守ってもらっている代わりに労働力と自らの体を提供してるんだからさ。ギブ・アンド・テイクってやつさ。お前もあの頼華って女を助けたなら、充分にその資格があるわけだ」
 眩暈がしそうだった。明らかに本意ではないといった表情の女もいる。こんなことが許されていいのか、と思う。けれどそれを罰する法もなければ、いかなる抑止力も今は存在していない。誰しもが自らの道徳心と自制心によるのみだった。
「おれは……いいよ。疲れてるんだ。とりあえず今は寝たい」
「そうか」明らかに川津はつまらなそうだった。仲間だと思っていた人間に裏切られたといった表情を浮かべた。「まあ仕方ないよな。外の世界から来たばっかだもんな」
「外の世界」という言葉が耳に残る。ここではホテルを隔てて内と外では世界が違うのだ。ここにはここのルールがある。その結果が、いま目にしている光景なのかもしれない。完全に心が麻痺している。しかしながらこれが、彼らの恐怖や不安から逃れるすべとも考えられた――それでも許されることではない。飯沼は、ここでは自分は異物なのだと理解した。
 ここには長くいられないかもしれないな、と彼は思った。<キャッスル>のルールには馴染めそうもない。

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