みやび萬紅堂。
いらっしゃいませ。コメントはお気軽に。
DATE: 2015/09/24(木)   CATEGORY: 雑記
***
世間ではシルバーウィークのなか、俺の休みは1日しかなかったので、連休を利用して小説を書き進める…なんてことは出来ず、唯一の休みも疲れてて特に何をしたわけでもありませんでした。連休ほしいよー。

それから「アントマン」面白かったので、おすすめです。
MCU入門に最適だと思えるほど、万人受けしそうな面白さ。ただ終盤がちょっとしたインタステラ―(笑)

あと全然読めもしてないのに、新しく本を買ってしまう性格をどうにかしたいです。これまで読んだ量より、積んでる冊数の方が多いって……。
そんな感じで映画や小説を糧に、また小説書く量を増やせたらいいなーなどと思います。でも一番増やしたいのは休み……。
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DATE: 2015/09/21(月)   CATEGORY: 業宿しの剣
業宿しの剣・序章(二)
 雨を切り裂いて兇刃が男を襲う。それは脳天に向かって、真っ直ぐ振り下ろされた。
 それを男はするりとかわして、手にしていた刀で賊の腹を掻っ捌いた。切り口から臓物が零れ落ちる。
 仲間の死に、他の賊が集まってくる。そのひとりが野太刀をぶらさげて男を睨みつける。
 その場に賊は五人いた。野太刀、直槍、片手斧とそれぞれの武器を持っている。どの賊も、いかにも荒れくれ者といった面構えである。
 雨は勢いを増していた。
 まずは、槍の穂先が突風のような勢いで男に向かって飛んだ。穂先が男の躰を貫いた――と思われた次の瞬間には男の姿は眼前から消えていた。どこにも見当たらない。男は跳んでいた。槍を繰り出した賊の肩を使って、高く宙を舞い、そのまま着地と同時に賊のひとりを切り裂いた。
 横薙ぎに野太刀が振るわれた。
 勢いも速さもあったが、男はそれもかわした。男の刀が一閃する。男を襲った野太刀は地に落ちた。それを握った腕も一緒に転がった。
 鮮血が舞い、雨に混じって降り注ぐ。
 恐るべき速さで、男はさらに二、三人を斬り伏せる。誰もがその剣速には追いつけない。圧倒的な強さであった。
「素晴らしいッ!」
 そう発したのは賊のひとりで長髪の男だ。肌は雪のように白い。端整な顔立ちだった。
「お前さん、なかなかの強さじゃねえか。どうだ、仲間にならないか? お前さんほどの腕があれば、どこの村でだって好き勝手ができるぜ?」
 男はいかにも興味なさげといった表情(かお)をするだけで、何も答えはしない。
「どうも仲間になるつもりはないようだなぁ。――まぁ それはそれでいいんだ。なに、他の楽しみが増えただけさ」長髪の男はゾッとするほど冷たい視線を投げつける。「お前さんを斬る楽しみ、がな」
「――斬れればいいがな」
「ほう、言うねえ。俺様の名は鬼童丸。――冥土の土産に覚えとけ!」
 鬼童丸と名乗った男が地面を蹴る。一瞬で間合いを詰めていた。風のような疾(はや)さである。
 それに対して男の動きも機敏だった。落ちていた直槍を手に取り、鬼童丸目がけて全力で投擲(とうてき)する。男の背筋が一瞬隆起し、強靭な筋肉が浮き彫りになる。
 鬼童丸は自分に向かって飛んできた槍を軽々と避けた。腰から野太刀を引き抜いて、男に向かって刃を放つ。
 男は鬼童丸の一撃を刀で受け止めた。足許がぬめる。衝撃でわずかに後退した。男が泥濘(ぬか)るんだ地面の土を足で蹴り上げる。泥が鬼童丸に降りかかったが、防がれて顔にはかかっていない。
 野太刀が再び男を襲う。今度は連撃で、相手を休ませまいと次々と刃が飛んだ。男はすべての斬撃を防いでいたが、防一戦になっていた。
 男が後ろに跳んだ。一間(2メートル弱)ほど一気に離れる。しかし男が体勢を立て直す前に、鬼童丸も一息でその間合いと詰めてくる。
 鬼童丸の野太刀から再び斬撃が放たれる。男は受けずにさらに後退して、それをかわした。
 そのとき、鬼童丸の袖の下から何かが飛び出した。――縄鏢(じょうびょう)だ。手投げの刃に縄を繋げたものである。それが一直線に男を狙う。
「破ッッ!!」
 轟くような気合いの一声を発したあと、男は素早く大地を蹴った。鏢が男の躰に食い込む。――が、それでも男の勢いは衰えない。
 刀が一直線に飛んだ。男が渾身を込めて投げていた。
 鬼童丸がそれを野太刀で叩き落しにかかった。――同時に男が鬼童丸の懐(ふところ)に潜り込み、突き上げるように掌底を放つ。掌底は鬼童丸の顎を捉えた。強い衝撃が鬼童丸を襲う。意思に関係なく力が抜けていく。
 それでも崩れ落ちるのだけは堪えた。鬼童丸の両脚が震えている。
 力の入らない脚で後方に跳んで距離をつくった。
「やるじゃねえか。俺をここまで追い詰めるとは、予想以上だぜ」
 鬼童丸の眼(まなこ)は血走っている。怒り心頭といった具合だ。
「お前、人ではないな」と男が云った。
「なぜだ」
「お前の背後に人とは違う気が渦巻いている」
「ほう――その頸(くび)の創痕(きず)。お前さん、もしや咎背負いか」
 男は何も云わない。
「せめて名前でも教えてくれよ。この鬼童丸、相手の名も知らぬまま引き下がれはしねえ」
「――新三(しんぞう)」
 と男が短く名乗った。
 ニヤリと笑ったあと、鬼童丸はふわりと浮かぶように跳躍して馬に乗った。
「新三か、覚えておく。また改めてお目にかかるのを楽しみにしてるぜ」
 鬼童丸が号令をかけ、馬を走らせた。仲間の賊もそれに続いて引き上げていく。
 血にまみれた新三は、鬼童丸たちの後ろ姿を見詰めていた。
 気付けば、雨は上がっていた。

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DATE: 2015/09/14(月)   CATEGORY: MUKURO・黙示録篇
MUKURO・黙示録篇-11 (宴のはじまり)
 暗闇があった。上も下もわからない。真の暗黒だった。
 そこに薄っすらと光が差し込んだ。深い闇の中から、ゆっくりと月が姿を現す。大きな月。
 月の手前に巨大な丘のシルエットが浮かび上がった。遠方には塔がある。天を衝くほど高い塔は、その終わりが見えない。塔の先端は闇に埋もれている。
 月明りで浮かび上がる、塔と丘の輪郭が交わり合うところに何かがあった。――人影だ。
 その数は七つであった。
 七つの人影が丘の上に立っている。
 その風貌は月明りの逆光になっていて、見えない。
 ただ、中央に立つ者の双眸が赤く輝いていた。その赤はひどく禍々しい。
 よく見ると人影の並ぶ丘が蠢いている。それは人の丘だった。人で築かれた丘だった。死屍累々と積まれた人の山。死者と生けるものがない交ぜになって積まれている。屍の間から苦痛にうめく者の腕が伸びていた。両脚のない者は、転がり落ちないように必死に屍を掴んでいる。四肢がなく、身動きができない者もいた。
 丘の麓から真っ赤な河が伸びている。先ほどまでは気付かなかった河だ。
 赤い河は足許まで続いていた。そのとき初めて、河水が血であると理解した。あの丘の、死者と生者から流れ出る血が大河となって続いているのだと。
 そのとき巨大な影が月を覆った。
 それは獣だった。赤き獣。赤き竜――

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DATE: 2015/09/13(日)   CATEGORY: 雑記
リトライ。
「業宿しの剣・序章」の第1話を公開しました。これは過去に掲載した「業宿しの剣」の第1話の加筆修正版です。
ちなみにこれは2011年の作品。4話まで書いたあと放置していたけれど、すでに4年も前……。

「業宿しの剣」を再開しようと思い立ったのは、単純に時代劇っぽいものが書きたくなったということが大きいです。それとMUKUROだけやっているのもなかなかつらいという理由もあり、息抜きとして、別のものが書きたかったわけです。
…で、再開するとしても「業宿し~」の構想(そんなものあったとしてだが)なぞすっかり忘れてしまっているので、すでに書いている分を足掛かりに、新しいものとして書こうと決めました。それに当たって、すでに公開している部分に多少手を入れて、新しい物語との辻褄合わせをしておこうという考えがあります。――といっても、読み返してみれば、思っていたより話が進んでいなかったので、辻褄合わせをする箇所がほぼなかったのですが。(読み返す前のイメージでは、もう少し先まで書いているつもりでした。)

当初のテーマは、なかなかスケールが大きすぎて、自分の力量では扱いきれそうにないと思ったので、もっとコンパクトに、扱える程度のスケールで書こうと思っています。壮大で複雑なものはやはり大変だというのは、MUKUROでイヤというほどわかりました。
アイディア自体はシンプルでも、スケールが大きいと筋も複雑化していく傾向があるらしいので…。

ちょっとした息抜き程度にやっていくつもりですが、新「業宿しの剣」もよろしくお願い致します。
ただし、旧版が今の自分よりも文章が上手い気がするので、違和感なく続きを書けるのかだけが心配だったり…。がんばります…。

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DATE: 2015/09/12(土)   CATEGORY: 業宿しの剣
業宿しの剣・序章(一)
 蕭条(しょうじょう)と雨が降っていた。杪秋(びょうしゅう)の冷たい雨である。
 その中を一人の男が歩いている。笠で顔は見えない。腰には刀を帯びていて、その姿は雨に溶け込みそうな雰囲気であった。気配を殺し、己と雨とが一体となっていた。
 長い道中の末に村が見えてきたので、男は村で一番安そうな宿に入った。「空きはあるか」
「大丈夫ですよ。今お部屋にご案内します。しかしこの雨の中を歩いてこられて大変だったでしょう」
 宿の主人は少ない稼ぎ相手の客を前に饒舌になっていて、いつまでも一人で喋っていそうであった。
「この部屋か。――あとは構わない。ありがとう」
「そうでございますか。何かご入用になりましたらお気軽にお声をかけてくださいませ」
「ああ、そうさせてもらう」
 男は笠を取って、壁に立て掛けた。同じように刀も置いた。
 男の瞳には愁いがあった。それに加え野性味のある顔立ちのせいで、悲壮感が漂っている。男の頸(くび)には創痕(きず)があった。まるで過去に斬り落とされたかのように、頸を一周して深い創痕がついている。
 雨のせいか、創痕が疼いた。
(――いや、違うな)
 遠くの方で馬の蹄の音が聞こえた。それも複数だ。数にして、十はいる。男は窓の隙間から外の様子を窺った。
 しばらくして、村の入口から荒々しい男たちが馬で侵入(はい)ってくるのが見えた。
「これは面倒なことになりそうだ」
 と男が呟く。
 男たちの数は十より遥かに多い、二十はいた。どれも野蛮そうで、下卑た面構えである。
 雨の中を男たちは馬に跨ったまま、家屋の戸を次々と突き破り中に侵入っていく。――明らかに匪賊だった。
「ゆっくり休むことも出来ねえのか」
 男は立て掛けておいた刀を腰に差して、二階の部屋から出ておりた。。
「どうかしましたか?」
 宿の主人が尋ねる。外の異変に気付いていないらしい。
「――いや、少し外に出てくる」
「この雨の中をですかい?」
「すぐに戻るよ」
 戸を開けて、男が宿の外に出た。
 すでに賊たちの略奪は始まっていた。男の呻き声と女に悲鳴が聞こえてくる。――男は宿の前、道の真ん中に仁王立ちして、待った。
 すぐに賊の一人が男の存在に気付いて、馬に跨ったまま男の目の前まできて大声をあげた。
「なんだテメェは!!」
 馬の上にいるのは、顔の半分が髭で覆われた男で、手には山刀らしきものを握っている。
「馬から降りろ」
「なんだと?」
「馬から降りろ、と云った。馬には何の罪もない」
「何をいってやがるんだ、こいつは。たたっ斬ってやる!」
 髭の男が馬を走らせて、男に突っ込んでいった。
 それを男はスッとかわす。もう少しで馬の蹄に踏まれ、運が悪ければ死に至るところである。
 だが次の瞬間には、上から山刀が降ってくる。
 フッ――
 男の姿が消えた。
 忽然と、まるで霧散したかのように、髭男の視界から消え失せてしまった。
「なんだぁ!?」
 そのとき、グッと腕に重いものを感じた。
「随分と鈍(のろ)い動きで斬りかかってくるものだな」
 その声は、なんと髭男の山刀の上から発せられていた。
 ほんの一瞬で、男は素早く跳び、髭男の山刀の上に着地していたのである。
「―――!?」
 髭男は驚きのあまり声も出せない。
 そこに男の一閃が奔(はし)った。髭男の頭がごろんと地に落ち、首からは血が噴き荒れた。馬は首なしの躰を乗せたまま走り続けている。
 斬ると同時に山刀から跳んでいた男が地面に着地した。
 水溜りの泥水がわずかに跳ねた。
 男は刀を片手に、鋭い双眸で、ほかの賊を捜す。――残る賊は何人か。
 蕭条と雨は降り続いていた。杪秋の冷たい雨であった。

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DATE: 2015/09/11(金)   CATEGORY: MUKURO・黙示録篇
MUKURO・黙示録篇-10 (救出)
 男に飛びかかった宗二郎は、そのまま男に馬乗りになり、何度も何度も己の拳を殴りつける。男は反撃しようと試みるも、宗二郎は脇に落ちていた手のひら大のコンクリート片を掴み、男の側頭部に叩き込んだ。どろっと血が溢れる。宗二郎の両の拳は、痛々しく血が滲んでいた。
 男の横で、犯されていた半裸の女が宗二郎を見つめていた。その目に恐怖の色が浮かんでいることはひと目でわかった。コンクリート片が手から離れ、音を立てて地面に転がった。先ほどまで憎悪の黒き炎を宿していた宗二郎の双眸はどこか虚ろで、突然世界に興味を失ったかのようだった。

「おい、大丈夫か」

 それが女と宗二郎どちらに向けての言葉なのか、自分自身でもよくわからないままに舘岡が声をかけた。宗二郎が振り向く。その眼には微塵も光が感じられない。舘岡は言葉に詰まった。
 そんなとき「これを」と飯沼が自分の上着を脱いで、女に手渡した。女の顔は恐怖と混乱でこわばっていた。明らかに動揺しているが、無理もないことだと舘岡は思った。知り合いか見ず知らずか、どちらにせよこの女はひとりの男に無理やり犯され、そして自分を犯していた男が次の瞬間には頭から血を流して倒れている。これだけ変貌を遂げてしまった世界の住人でも、そう簡単には呑み込めない状況だ。それでも女は飯沼の気遣いに、多少ながら安堵の表情を見せていた。「おねえさん、名前は?」
「呉……頼華」
 名前を教えていいものだろうか。――そんな躊躇(ためら)い混じりの声だった。
「頼華サンね。俺は舘岡っす。……その、なんていうか、大丈夫っすか?」
 頼華は小さく頷いた。心の傷はともかく、体に大きなケガはないようだった。とはいえその顔は殴られたのか大きく腫れあがっている。
 舘岡に続いて、飯沼も名乗り、頼華に手を差し伸べた。彼女はおそるおそるといった感じで飯沼の手をとり、ゆっくりと立ち上がる。それを宗二郎は眺めていたが、その姿は心ここにあらずといった様子だった。さっきまで野獣のように男に襲いかかっていたとは思えない。
「さて、どうしますか……」
 困った舘岡は、飯沼に助けを求める。だが、飯沼も困った表情を浮かべるだけだ。
「おねえさんは、どこから?」
 頼華は、自分たちが拠点としているホテルである<キャッスル>のことを教えた。同時に自分を犯した男――井岡との関係も簡単に説明した。関係といっても、同じ建物で避難生活を送っている以外の関係はない。特に親しいわけではなかった。
「うう…」
 かすかな呻き声を耳にして、舘岡は井岡を見遣った。意識があるわけではないが、死んでいるというわけでもないらしい。飯沼が脈を診る。そして「生きてる」と呟いた。正直なところ、舘岡はてっきり死んでいるかと思っていた。なかなかタフなやつらしい。――すぐに手当てしなければ、結局死ぬかもしれないけどな。
「行こうぜ」
 舘岡が飯沼に声をかける。
 彼からは「ああ」と気のない返事が戻ってきただけだった。


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DATE: 2015/09/09(水)   CATEGORY: MUKURO・黙示録篇
MUKURO・黙示録篇-9 (もうひとつの世界)
 そもそもは物資の調達という話だった。なのに今は瓦礫の上で男に犯されている。なんでこんなことになっているんだろう? 抵抗を諦めた呉 頼華(よりか)はぼんやりとそんなことを思う。当然のことながら、力では敵わなかった。助けを求めて叫んだが、ここでは誰の耳にも届かない。頼華の顔は殴られたせいで腫れ上がり、加えてあふれる涙と洟(はなみず)で見る影もない。
 頼華を犯している男――井岡忠児は、瓦礫の上に寝かせられていた頼華を立たせ、壁に手をつかせた。井岡がバックから突いた。殴りすぎたせいで、腫れてしまった女の顔を見ていてもつまらない。それに背後から攻めた方が、征服感があって興奮した。すんなりと挿入できたことからも、おそらく処女ではないのだろうが、頼華は“部屋”に入ることを拒否していた。守ってもらっている分際で、どうして拒否権があると思うんだ? バカ女め。井岡はこういう女が大嫌いだった。だが、無理やり犯すとなれば話はべつだ。むしろこういう女の方が、犯しがいがある。鼻持ちならない女の心をへし折るのは実に楽しい。今後は自分専用の奴隷にしてやろうと決めていた。城田が許せばの話だが。

 ***

 雲の上まで続く、石造りの巨大な塔が見えている。2人はあの石塔からやってきたという話だった。正確には、塔は「もうひとつの世界」と繋がっていて、そこから塔を渡ってこちらの世界に辿り着いたということだった。正直、容易には理解できない話だった。「もうひとつの世界」とはなんだ?という思いがある。けれど実際に化け物が現れ、世界がこうなってしまった以上、どんなに信じがたく、突飛な話だったとしても否定することはできそうにない。黒川宗二郎は2人の話を信じるほかなかった。
「向こうの世界はどんなふうなんだ? こっちの世界とはどう違う?」
 宗二郎の問いに、「向こう側」の住人のひとりである舘岡が答える。
「んー、たぶん基本的にはあんま変わらないっすね。――と言ってもこっちの世界はすでにこんな感じだったから、あまり比べようもない気がするけど」舘岡が荒れ果てた街を示してそう言う。「俺には違いがよくわからないっす」
 舘岡とともに「向こう側」からやってきた飯沼が補足する。
「俺も大きな違いは見受けられないですね。あまり詳しいことまで知っているわけではないですが、そもそも向こうの世界がこちらの世界を模しているという話でした」
 飯沼の言葉を聞いて、宗二郎が疑問を口にした。「話っていうのは、誰の?」
「なんて説明したらいいのか正直わからないんですけど、いま何が起きているのかということについて、いちばん詳しい人でしょうか」
 飯沼の脳裡に浮かぶのは、闇のように黒い髪と血の通っていないかのような白い肌を持つ男。
「正直、俺らもよくわかってないんすよ。俺もほんとは死んでいるって話だし」
「死んでる?」
 向こう側の世界は、いわゆる死後の世界であるらしいということ、その世界では死者たちが生前の生活をリピートしながら、魂の転生を待っているらしいことを舘岡が説明した。本人もよく理解してはいないようなので、宗二郎も掘り下げて訊くことを遠慮した。ただ、舘岡と飯沼は本来肉体を持たないエネルギーの塊のような存在で、突如現れたあの化け物たちもそもそもは感情のエネルギーから生まれたという話は興味深かった。より正確にいえば、欲望のエネルギー。それが世界の飽和量を超えてしまったために、充満したエネルギーがカタチを持つようになり、欲望のままに、言い換えれば本能的に、暴れまわっているということらしい。理解(わか)るような理解らないような、宗二郎は自分が話を把握できている自信がない。
「でも、あんたたちには肉体があるように見えるが」
「そこのところもよくわかんないんすよねー。向こう側は元々“そういう”世界だったというなら、肉体がない存在でもよかったかもしれないっすけど、こうしてこちら側に来ちゃったら肉体がないらしい俺たちってどうなってんのか。実際触れちゃいますしね、黒川さんにも」
 舘岡が黒川の肩をポンと叩いた。確かに触れることは可能だと3人が再確認した。
「欲望のエネルギーが飽和状態になって、世界が弾けたということのようなんです。世界のかたちが歪んでしまったというか、それと同時に世界の律というものまで変化してしまった、とか。今では世界の理(ことわり)が捻じれて、生者も死者も混じり合った世界になってしまっているということだと思います。……これ、うまく伝わってますか?」
「あまりに概念的で、理解は難しい。けど少しは理解できた気がする。あくまで気がするだけだが」
 2人の話によれば、「もうひとつの世界」からやってきた人間はほかにもいるらしい。けれど塔を“渡り”終えたときに、こちらの世界で巨大な黒い犬に襲われ、全員がバラバラになってしまったとのことだった。
「ほかの人たちが助かったかどうかもわかんないんすよ。とりあえず俺らは逃げ延びて、その先で黒川さんに出会ったという感じっす」
 そのとき、どこかから悲鳴が聞こえた。女のものだった。そう遠くはない。3人は悲鳴がした方へと進んだ。急ぎつつ、でも物音を立てないようにゆっくりと。
 何度か短く呻き声が聞こえ、その後、肉を打つような音が小さく響いた。宗二郎は2人と目を合わせたあと小さく頷き、建物の陰からそっと覗き込んだ。視線の先には、ひとりの男が女を後ろから犯している光景があった。荒れ果てた無法の世界では珍しくない光景だが、宗二郎は全身の血が沸騰したかのような強い怒りで染まっていた。彼の脳裡には、救えなかった今村冴子の姿があった。眼前で犯され、そして化け物に殺された女。護ると誓ったはずなのに、護れなかった女。――冴子。
 宗二郎は無意識に、駆け出していた。

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DATE: 2015/09/07(月)   CATEGORY: 雑記
リアリティーのある文章。
いま、藤沢周平の『隠し剣 孤影抄』を読んでいます。
これは様々な秘剣が出てくる短編集。この中の一編「宿命剣鬼走り」の冒頭で、鶴之丞という男が果し合いの末に死ぬのですが、その鶴之丞の遺体が家に運ばれたあとのさりげない文章に憧れを感じました。


卯女と千満太は、遺体から血に濡れた鉢巻と襷をはずそうとしていた。鉢巻も襷も濡れて結び目が固くなり、二人は解くのに苦労していた。


この「(血に)濡れて結びが固くなり」という表現に圧倒的なリアリティーを感じます。ちなみに卯女は鶴之丞の妻、千満太は弟。
自分だったら血の量や色で凄惨さをつまらなく表現してしまう気がするけれど、この思いつくようで思いつかない、絶妙な表現はさすがだな、と思わずにはいられません。この一文に、どうしようもなく死を感じるのです。大げさではない、現実味のある死の描写だなーと思わされました。

藤沢周平は中学のときに『たそがれ清兵衛』を読み、そのときはあまり面白さがわからなかったのですが、最近になってまた読んでみたらなかなか面白い。たぶん当時は剣劇が読みたかったのだと思う。でも、藤沢周平はそこに至るまでの過程が面白いわけですよね。ほかにも五味康祐の短編も過程こそが面白く、斬り合いは案外サクッと終わる。昔はそこの面白さに気付けなかったんだなぁ、と最近になって思うようになりました。
藤沢周平、孤影抄で3冊目。少し前に『秘太刀馬の骨』を手にとってから、また読むようになりました。『隠し剣 孤影抄』と『秘太刀馬の骨』は秘剣をめぐる話という点では同じで、藤沢周平のひとつのフォーマットなのかな、と思うのですが、そのうちほかのものも読みたいと思ってます。でも その前に『隠し剣 孤影抄』とその姉妹編『隠し剣 秋風抄』を読まなければ。

自分はどちらかといえば、動きを細かく描写するタイプですが、大事なところをあえて省略する技はぜひ覚えたい。
MUKUROはアクションを重視としたものなので全部に使うことはできないけれど、どっかでこの技を使ってみようかな。

最近は疲れがとれなくて、休日もなんとなく過ごしてしまいがちですが、そろそろ小説を書くことに復帰したいです。
先週までは色々と慌ただしかったけれど、やっと生活が落ち着いてきた気がします。

それに先日、妹が後輩たちと一緒にやった美術展を覗いたこともあって、自分の中の創作意欲を刺戟されました。
たとえ下手でも面白いものはあると気付いたので、たとえ下手でも面白いものを書きたいです。

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