みやび萬紅堂。
いらっしゃいませ。コメントはお気軽に。
DATE: 2011/06/30(木)   CATEGORY: MUKURO・煉獄篇
MUKURO・煉獄篇-18 (魔の侵攻/Black Knight)
 体育館の倉庫に忍び込むと何かの気配がした。雄大が咄嗟に身構える。その後ろに千紘は隠れた。
 だが、そこにいたのは先ほどの化け物の仲間ではなく、見知った顔だった。「……隆裕」
 佐々木 隆裕は倉庫の片隅で小さくうずくまっていた。天敵から身を隠す小動物のように怯えている様子だった。
「おい、隆裕」
 返事はない。
 雄大が隆裕に手を伸ばそうとしたそのとき、倉庫の外で轟音が響いた。
 おそらくブラックシェルスパイダーが校舎を破壊しながら体育館に侵入してきたのだろう。
 3人は息を潜めて、様子を窺った。
 ブラックシェルスパイダーの巨体が動くのが、音や振動から伝わってくる。
 気配が近付いてきているのがわかった。
 ドン。
 ブラックシェルスパイダーのゴツゴツとした脚が、倉庫の扉を破壊して中に這入る。――しかし巨大すぎる図体が災いして、ブラックシェルスパイダーはそれ以上は侵入して来られない様子だった。それでもミシミシと壁が悲鳴を上げている。時間の問題かもしれない。
 その場の3人それぞれがそのようなことを覚悟していたのだが、予想に反してブラックシェルスパイダーの侵攻は不意に止まった。
「なんだ……?」
 雄大が恐るおそる覗き込む。
 電池切れでも起こしてしまったかのように、黒い巨体は身動きひとつしていない。
 ――メキ。
 千紘は何かが罅割れているような小さな音を耳にした。最初は気のせいかとも思ったが、確かに聞こえる。
 メキメキ、メキメキメキ。
 ブラックシェルスパイダーの異変に気付いた雄大はゆっくりと後退していく。甲殻類を思わせる外皮、その腹部らへんに何かが起きていた。
 メキメキメキ。
 ブラックシェルスパイダーの腹部に亀裂が奔(はし)り、そこから何かが突き出した。
「あれは……」
 それは、まさしく産み落とされたといっていいだろう。ブラックシェルスパイダーの腹部の亀裂から黒い塊が産み落とされた。それは丸くうずくまっている状態から、ゆっくりと立ち上がった。シルエットは、まるで人のものだ。――しかし、外皮はブラックシェルスパイダー同様に甲殻類を思わせる黒くゴツゴツとしていて、刺々しい。西洋の甲冑を彷彿させる姿だ。巨大な槍と盾のようなものを手にしていて、さながら騎士の様相である。
 そう、異形の黒い騎士が3人の前に現れたのだった。


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DATE: 2011/06/28(火)   CATEGORY: 業宿しの剣
業宿しの剣(2)
 雨を切り裂いて兇刃が男を襲う。それは脳天に向かって、真っ直ぐ振り下ろされていた。
 それを男はするりとかわして、手にしていた刀で賊の腹を両断した。切り口から臓物が零れ落ちる。
 他の賊も集まってきた。そのひとりが野太刀をぶらさげて男を睨みつけている。
 その場に賊は五人いた。野太刀、直槍、手斧とそれぞれの武器を持っている。どの賊もいかにも荒れくれ者といった面構えである。
 雨は勢いを増していた。
 槍の穂先が突風のような勢いで男に向かって飛んだ。穂先が男の躰を貫いた――と思った次の瞬間には男の姿は見当たらない。男は跳んでいた。槍を繰り出した賊の肩を使って、高く宙を舞い、そのまま着地と同時に賊をひとり切り裂いた。
 横薙ぎに野太刀が振るわれた。
 勢いも速さもあったが、男はそれもかわした。男の刀が一閃する。男を襲った野太刀は地に落ちた。それを握った腕も一緒に転がった。
 鮮血が舞う。雨に混じって降り注いだ。
 恐るべき速さでさらに二、三人を斬り伏せる。誰もが男の剣速には追いつけなかった。
「素晴らしいッ!」
 そう発したのは賊のひとりで長髪の男だ。肌は雪のように白い。端整な顔立ちだった。
「お前さん、なかなかの強さじゃねえか。どうだ、ウチに入らないか? お前さんほどの腕があれば、どこの村でだって好き勝手ができるぜ?」
 男はいかにも興味なさげな表情(かお)をするだけで、何も答えはしない。
「どうも仲間になるつもりはないようだなぁ。――まぁ それはそれでいいんだ。なに、他の楽しみが増えただけさ」長髪の男はゾッとするほど冷たい視線を投げかける。「お前さんを斬る楽しみ、がな」
「――斬れればいいがな」
「ほう、言うねえ。俺様の名は鬼童丸。冥土の土産に覚えておけ!」
 鬼童丸と名乗った男が地面を蹴った次の瞬間、一気に跳んで間合いを詰めていた。風のような疾(はや)さである。
それに対して男の動きも機敏だった。落ちていた直槍を手に取り、思いっきり投げた。男の背筋が一瞬隆起した。強靭な筋肉だ。
 鬼童丸は自分に向かって飛んできた槍を軽々と避けた。腰から野太刀を引き抜いて、男に向かって刃を放つ。
 男は鬼童丸の一撃を刀で受け止めた。そして雨で泥濘(ぬか)るんだ地面の土を足で蹴り上げた。泥が鬼童丸に降りかかったが、防がれて顔にはかかっていない。
 野太刀が再び男を襲う。今度は連撃で、手を休まずに次々と刃が飛ぶ。男はすべての斬撃を防いでいたが、防一戦になってしまっていた。
 後ろに跳んだ。一間(2メートル弱)ほど一気に離れることで体勢を整えようとしたが、鬼童丸も一息でその間合いと詰めてくる。
 鬼童丸の野太刀から斬撃が放たれる。男は受けずにさらに後退して、それをかわした。
 そのとき、鬼童丸の袖の下から何かが飛び出した。――縄鏢(じょうびょう)だ。手投げに刃に縄を繋げたものである。それが一直線に男に飛んだ。
「破ッッ!!」
 轟くような気合いの一声を発したあと、男は電光石火の動きで大地を蹴った。鏢が男の躰に食い込む。――が、それでも男の勢いは衰えない。
 刀が一直線に飛んだ。
 鬼童丸がそれを野太刀で叩き落しにかかった。――同時に男が鬼童丸の懐(ふところ)に潜り込み、突き上げるように掌底を放った。掌底は鬼童丸の顎を捉える。強い衝撃が鬼童丸を襲った。意思に関係なく力が抜けていく。
 それでも崩れ落ちるのだけは堪えた。両脚が震えている。
 力の入らない脚で後方に跳んで距離をつくった。
「やるじゃねえか。俺をここまで追い詰めるとは、予想以上だぜ」
 鬼童丸の眼(まなこ)は血走っている。怒り心頭といった具合だ。
「お前、人ではないな」と男が云った。
「なぜだ」
「お前の背後に人とは違う気が渦巻いている」
「ほう――その頸(くび)の創痕(きず)。お前さん、もしや咎背負いか」
 男は何も云わない。
「せめて名前でも教えてくれよ。この鬼童丸、相手の名も知らぬまま引き下がれはしねえ」
「――新三(しんぞう)」
 ニヤリと笑ったあと、鬼童丸はふわりと浮かぶように跳躍して馬に乗った。
「新三か、覚えておく。また改めてお目にかかるのを楽しみにしてるぜ」
 鬼童丸は号令をかけて馬を走らせた。仲間の賊も引き上げていく。
 血にまみれた新三はそんな鬼童丸たちの姿を見詰めていた。
 気付けば、雨は上がっていた。

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DATE: 2011/06/21(火)   CATEGORY: 雑記
今月久し振りにCD買いました。
更新速度の低下が思いのほか早くきそうな……。

昨日も映画観に行っていて書く時間なかったです。「孫文の義士団」と「処刑剣」。
ほら、今月は他にも「ドリーム・ホーム」「アイ・スピット・オン・ユア・グレイヴ」「ビヨンド・アワ・ケン」「ブラック・スワン」「ゲンスブールと女たち」「レイキャヴィク・ホエール・ウォッチング・マサカー」「AV」って劇場に観に行ったし、横浜美術館やワシントン・ナショナル・ギャラリー展見たくて国立新美術館に行ってきたりしたし……?

東京が主な活動拠点になってるけど、住んでるのは東京じゃないので移動も時間かかったりしちゃうんで、帰ってもシャワー浴びて寝なきゃ翌日が~~な生活で、なかなか書くのに時間充てられないというか、単にスケジュール組むのが苦手なだけなんですけれども。

今月少なくとももう1本映画観に行くのとLIVE観に行くのが控えてるんで、うわーこれは大変だーって感じで今からてんやわんや。
それに、来月も、観に行きたい映画あるし。行きたい美術館もあるし。Oh....

ペース落としたくないんですけど、部屋にいるとき脳の回転速度が落ちてて何も浮かんでこなくて大変です☆
うあー ほんと煉獄篇が展開に予想外の変更起こってるのも、――もう処理落ち状態です!!(白目)

煉獄篇を優先的にα・βの方も更新したいんですけど、あーうー。。

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DATE: 2011/06/19(日)   CATEGORY: MUKURO・煉獄篇
MUKURO・煉獄篇-17 (DEVIL SIDE)
 彼は人気のない街を彷徨っていた。
 化け物たちが喰い荒らした跡が残っている。つまりは人の屍とその一部。
 死臭漂う中を男は歩いた。生き残るために、何人かの人間を囮に使いもした。騙して化け物に襲わせることもあれば、身動きを出来ないようにして化け物を引き寄せている間に逃げることもあった。
 罪悪感は、ない。
 秩序(ルール)が喪失われた世界に、倫理は必要だろうか。弱肉強食と化した世界にも、道徳(モラル)は必要だろうか。――そんなものを守っていれば、死ぬ。
 それで死ぬようなやつは、ただの馬鹿だ。死んだら何にもならない。
 善悪に迷って死ぬよりは、悪としてでも生きる方がよっぽどまともだ、と思う。
 ――俺は簡単にやつらの“餌”にはならねえ。
 彼は知り合いを殺した。放っておいてもどうせ死ぬ運命だったろうが、殺してやった。嫌なやつだったが、殺してみて、何の感動もなかった。きっと元々が生きている価値もないやつだったのだ。目の前を飛ぶうざったい虫を叩き潰しても、何も思わないのと一緒だ。彼にとって、殺した男はその程度の存在だった。
 そして彼は知った。
 全てが崩壊を始めているこの世界では、好きに生きた方がいいのだと。
 ――どうせいつ死ぬかわからねえんだ。楽しんだ方が勝ちだ。
 どこかからすすり泣く声が聞こえる。あたりを見回すと小さな男の子がいた。彼は少年に近付く。どうやら足を挫いているようだった。
「いてぇのか?」
 彼は少年に声をかけた。
「立てるか?」
 手を差し伸べる。少年は彼の手を掴んで、ゆっくりと立ち上がった。
「一人か?」
「……うん」
「親は?」
 そう尋ねられて、少年はなにかを思い出したように涙を浮かべ始める。
「やられたのか。あの化け物どもに」
 ぼろぼろと涙が零れた。だが、声は上げまいと必死に抑え込んでいる。少年は、小さく頷くので精一杯だった。
「そうか。一緒に来るか?」
「……どこに、行くの?」
「さあな。――もうこの世に安全なとこなんて、ありゃしねえよ」男はあたりを見回した。破壊された街。それは言葉にするなら廃街といったところだろうか。「どうする?」
「………行く」
「じゃあ、来い」
 そう言って彼が歩き出したので、少年は追いかける。挫いた足が痛かったが我慢した。彼は少年のことを気遣って速度を合わせてやるつもりはないようだった。ついて来れるなら、来い。そう言わんばかりだ。
 それでも少年は必死について行った。他に頼るあてもない。今の少年には彼が頼みの綱だった。それに縋るように追った。

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DATE: 2011/06/17(金)   CATEGORY: MUKURO・煉獄篇
MUKURO・煉獄篇‐16 (Si vis pacem,para bellumⅢ)
 朱色の甲冑を着た鎧武者がいる。
 野坂は思考が追いついていかない。――どういうことだ?
 鎧武者は大きく一歩前へと進み出る。
 野坂は機関拳銃――M9を握り締めた。
「ヌシは我に対峙する気か」
 それは、先ほどの頭に直接響いた声と同じものだった。
「ヌシは我に挑もうというのか」
 あと少しで引き鉄にかけた指に力を入れれば銃口が火を噴く。――だが、その少しがなかなか出来ない。凄まじいまでの威圧感に圧倒されて、野坂は身動きひとつ取れなくなっていた。額から伝った汗が頬を通って床に落ちる。
「相手になろう」
 そう言って、鎧武者が腰の刀を抜いた。
 戦慄。それは戦慄というしか言葉が見当たらない。野坂の躰を突き抜けたのはまさしく戦慄であった。鎧武者から発せられている大気を震わせるほどの気迫(オーラ)が、抜刀とともに一気に増したのだ。
 野坂は立っているだけでも辛かった。膝を突いて倒れ込んでしまいたいほどに体力を消耗している。それだけの気迫なのである。
 鎧武者がまた一歩前に出た。
 刀が正眼に構えられる。
 それと同時に引き鉄は引かれた。
 自分の意思かどうかもわからないほど、野坂はこのときのことを覚えてはいない。ただ引き鉄を引いて、銃弾が放たれた。連続して銃口が火を噴く。M9の装弾数は25発である。発射速度は約1,185/分。一瞬でその全弾を撃ち尽した。
 矢継ぎ早に放たれた銃弾を鎧武者は全てまともに受け止めた。弾が甲冑にめり込む。だが、それでも倒れることはなく刀は依然として正眼の構えである。野坂は恐怖に打ちのめされそうだった。心が折れかけている。
 そのときだった。野坂の耳に亮太郎の声が聴こえてきたのは。
 視界に亮太郎の姿が見えると無意識に野坂は叫んでいた。「逃げろ!」
 咄嗟に腰の拳銃――シグサワーP220に手をかけ、鎧武者に照準を合わせる。そして引き鉄を引いた。銃弾が一直線に空気を裂いて、螺旋を描きながら鎧武者の面頬にヒットする。
 そのときにはもう野坂は走っていた。
 あれは倒せないと本能が語っている。生き延びるためには逃げるほかはない。
「――ヌシ、逃げるのか!」
 鎧武者が野坂を追った。
 野坂は途中で亮太郎を抱き上げ、LIVのところまで駆け抜けた。そのまま運転席に飛び乗ってエンジンをかける。タイヤが地面と摩擦した。車体が前に進み出す。
 追いつけないと察した鎧武者が刀を投擲した。
 刀はまるで弓矢のように真っ直ぐに飛んでLIVの装甲に突き刺さったが、その程度では軽装甲機動車は止められない。
 こうして、野坂と亮太郎は駐屯地を脱出した。

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DATE: 2011/06/15(水)   CATEGORY: 業宿しの剣
業宿しの剣(1)
 蕭条(しょうじょう)と雨が降っていた。杪秋(びょうしゅう)の冷たい雨である。
 その中を一人の男が歩いている。笠で顔は見えない。腰には刀を帯びていて、その姿は雨に溶け込みそうな雰囲気であった。つまり気配を殺して、己を雨と一体とさせていた。
 長い道中の末に村が見えてきたので、男は村で一番安そうな宿に入った。「空きはあるか」
「大丈夫ですよ。今お部屋にご案内します。しかしこの雨の中を歩いてこられて大変だったでしょう」
 宿の主人は少ない稼ぎ相手の客を前に饒舌になっていて、いつまでも一人で喋っていそうであった。
「この部屋か。――あとは構わない。ありがとう」
「そうでございますか。何かご入用になりましたらお気軽にお声をかけてくださいませ」
「ああ、そうさせてもらう」
 男は笠を取って、壁に立て掛けた。同じように刀も置いた。
 男の瞳には愁いがあった。それに加え野性味のある顔立ちのせいで、悲壮感が漂っている。男の頸(くび)には創痕があった。まるで過去に斬り落とされたことでもあるかのように、一周して深い創(きず)がついている。
 雨のせいか、創が疼いた。
(――いや、違うな)
 遠くの方から馬の蹄の音が聞こえてきた。それも複数だ。数にして、十はいる。男は窓の隙間から外の様子を窺った。
 村の入口から荒々しい男たちが馬で侵入(はい)ってくるのが見えた。
「これは面倒なことになりそうだ」
 と男が呟く。
 男たちの数は十より遥かに多い、二十はいた。どれも野蛮そうで下卑た面構えである。
 雨の中を男たちは馬に跨ったまま、家屋の戸を次々と突き破り中に侵入っていく。――明らかに匪賊だった。
「ゆっくり休むことも出来ねえのか」
 男は立て掛けておいた刀を腰に差して、宿をおりていった。
「どうかしましたか?」
 外の異変に気付いていないらしい主人が云った。
「――いや、少し外に出てくる」
「この雨の中をですかい?」
「すぐに戻るよ」
 戸を開けて、男が宿の外に出た。
 すでに賊たちの略奪は始まっていた。男の呻き声と女に悲鳴が聞こえてくる。――男は宿の前にある道の真ん中に仁王立ちして、待った。
 すぐに賊の一人が男の存在に気付いて、馬に跨ったまま男の目の前まできて大声をあげた。
「なんだテメェは!!」
 馬の上にいるのは、顔の半分が髭で覆われた男で、手には山刀らしきものを握っている。
「馬から降りろ」
「なんだと?」
「馬から降りろ、と云った。馬には何の罪もない」
「何をいってやがるんだ、こいつは。たたっ斬ってやる!」
 髭の男が馬を走らせて、男に突っ込んでいった。
 それを男はスッとかわす。もう少しで馬の蹄に踏まれ、運が悪ければ死に至るところである。
 だが次の瞬間には、上から山刀が降ってくる。
 フッ――
 男の姿が消えた。
 忽然と、まるで霧散したかのように、髭男の視界から消え失せてしまった。
「なんだぁ!?」
 そのとき、グッと腕に重いものを感じた。
「随分と鈍(のろ)い動きで斬りかかってくるものだな」
 その声は、なんと髭男の山刀の上から発せられていた。
 ほんの一瞬で、男は素早く跳び、髭男の山刀の上に着地していたのである。
「―――!?」
 髭男は驚きのあまり声も出せない。
 そこに男の一閃が奔った。髭男の頭がごろんと地に落ち、首からは血が噴き荒れた。馬は首なしの躰を乗せたまま走り続けている。
 斬ると同時に跳んでいた男が地面に着地した。
 水溜りの泥水がわずかに跳ねた。
 男は刀を片手に鋭い双眸を前に向け、賊を捜す。――残る賊は何人か。
 蕭条と雨は降り続いていた。

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DATE: 2011/06/13(月)   CATEGORY: Étube 9-α
Etube 9-α(1)
 街は活気づいていた。太陽が大都市コルビジュを照らし、建物が大きな影を作る。
 コルビジュは他では見られないほど、建物が大きく、都市として進んでいる。生活には機械(マーキナー)が多く取り入れられており、独自の発展を遂げたのがコルビジュだ。
 コルビジュの東の入口である、雄々しいレリーフで意匠されたゴート調の“大我の門”から入って最初に見えるイノス教会。その屋根を巧みな身のこなしで走る少年がいた。
 少年の前を素早い影が走る。少年はそれを追っているようだった。
 その影はネコだ。軽妙な身のこなしの黒ネコである。少年はそのネコを捕まえようとしているらしい。――ネコの首には翠(みどり)の石がぶらさがっている。北方で採れる女翠(メスイ)という宝石だ。「翠玉(スイギョク)の女王」と呼ばれるほど美しい石である。
 ただ、実際には女王と呼ばれるほど高価なものでもない。その美しい翠に対してそう呼ばれるのだが、北方では採れる数も少なくはないので流通価格もそこそこであり、全く手の出せないという種類の宝石ではなかった。
 少年がどうしてその女翠をぶらさげた黒ネコを追っているのか?
 実は少年はコルビジュの街で何でも屋として生活を営んでいる。両親はいない。少年を育ててきた父は数年前に流行り病で死んだ。母のことは知らない。少年が物心をついたときにはもういなかったからだ。
 少年に残されたのは小さな家と短剣だけ。以来、少年は何でも屋として自力で生活をしている。
 その短剣というのは、ドラゴンの血を受けしラズーリ族に代々伝わるものだと聞かされているが、そもそもドラゴン自体が御伽噺の存在だし、自分がラズーリ族の末裔だということを信じてはいなかった。
 それにラズーリ族はドラゴンの血を浴びて以来、髪と瞳が青くなったと謂われている。
 少年の髪と瞳は黒だ。伝説のラズーリ族のものとは違う。
 それでも短剣にはラズーリ族のものだと主張しているかのように、中央に青の宝珠(オーヴ)が填め込まれていた。
 黒ネコが屋根から飛び降り、しなやかに着地する。
 少年もそれを追って跳んだ。高さは十数リーツ(1リーツ=約1メートル)ほどある。だが、少年は跳んだ。そして転げながら着地して、再び走り出す。
 黒ネコがイノス教会の中に入っていった。
「どこに行きやがった!」
 息を切らしながら少年も教会に入ったが、黒ネコの姿は見えない。
 代わりに、そこには少女の姿があった。
「誰?」
 透き通る声が少年の耳に届いた。
 変わった首飾りをした、栗色の髪の少女が少年に近付こうとする。
「何をしているの?」
 荒々しく入ってきた少年を責め立てるわけでもなく、純粋な興味本位から尋ねているようだった。
「ネコを見なかったか? 黒いネコが入ってきたはずなんだけど」
「ネコ?」
「そいつを捜してるんだ」
「――あ、その子じゃない?」
 少女が指差した先に、女翠をさげた黒ネコが確かにいた。
「もう逃がさないぞ」
 少年がじりじりと追い詰めていった。
 黒ネコもじわりじわりと後退して、壁に追い寄せられる。
 ――だが、一瞬の隙を見つけてネコは駆け、少年の脇をするりと抜いた。
「しまった!」
 少年が腕を伸ばしたときにはもう遅く、逃がしたネコを追おうと振り返ると先ほどの少女がネコを抱き上げていた。
「可愛いネコね」
 少女がネコを撫で、少年を見遣った。
「ねえ、この子を捕まえたかったんでしょう?」
「……あ、ああ」
「じゃあ、受け取りにきてよ」
 少女は無垢な笑顔を浮かべて、少年にそう言った。
 あまりのあどけなさに、少年はなぜか怖気づくものを感じながら少女に近寄る。
「わたしの名前はシーラっていうの。あなたは?」
「おれはブラウ」少年はシーラの腕の中からネコを抱き上げながら言った。「ブラウ・ラズーリ・イノツェンツ」
 ネコがミャアと鳴いて、女翠の宝石がわずかに揺れた。
 これが少年と少女の出会いであり、機械仕掛けの運命の歯車が動き出した瞬間でもあった。

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DATE: 2011/06/11(土)   CATEGORY: MUKURO・煉獄篇
MUKURO・煉獄篇‐15 (Si vis pacem,para bellumⅡ)
 意識が朦朧としていた。先ほどまであった激痛は遠退いている。躰のどこかを怪我しているはずだが、今は何より寒かった。
 視界がぼやける。自分の手が見えた。指の本数が合わない。それは欠損(うしな)ってしまったからなのか、視界がぼやけているのせいなのかわからない。――いや、多い。5本以上はある。きっと、視界がぼやけているせいなのだろう。
 それから赤が見えた。手が赤に染まっていた。これは……血だ。血で手が汚れ、て、どこかから、血が、溢、れ、てい、る……確か、俺は……あの、ばけ、ものに………さむい。しぬ、のか……お、れは、しぬのか………?
 そのとき何かが聴こえた。
 そう、おれに、もっと、ちから、があれば……。なか、まを、たすけられ、たのに……
 ――………か?
 お、れが、もっと、つよ、ければ………
 ――汝は何を欲する?
 な、んだ……?
 ――汝、力を欲するか?
 ち、から……?
 ――汝、力を欲するか?
 ちか、ら、ほし、い……
 ――汝、生を望み、力を欲するか?
 いき、たい……
 ――汝、生を渇望し、力を欲するのだな?
 おれは、いきたい。そ、して、ちから、が、ほしい………
 ――その願望(のぞ)み、我が叶えてやろう。

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DATE: 2011/06/09(木)   CATEGORY: MUKURO・煉獄篇
MUKURO・煉獄篇‐14 (Si vis pacem,para bellumⅠ)
 死屍累々という言葉がぴったり合うような光景が目の前に広がっていた。
 野坂は亮太郎を連れて、自分が属している自衛隊駐屯地に辿り着いたが、そこでは銃弾が飛び交った痕跡(あと)と無数の屍で溢れていた。
「これは……」
 あまりの様相にさすがの野坂も言葉が出ない。いかに見たこともない化け物が地上に溢れ返ったとはいえ、ここは比較的安全な場所だと思っていた。――あの化け物を前に、我々人間はどれほど無力なのだろう……
 恐るおそる建物の中に入ってみる。引きずられたような血の痕跡が床に続いていた。
「誰も生き残ってはいないのか……?」
 建物の中は静まり返っていた。人の気配も、化け物の気配も感じられない。すでに化け物どもに、完全に喰い荒らされたあとのようにも見える。
 野坂は声をあげて誰かいないか呼んだ。返事はない。相変わらず野坂と亮太郎、二人以外に物音を立てるものは感じられなかった。
 横たわっている屍とともに拳銃が落ちていることに気付いた野坂はそれを手に取り、弾倉を確認した。中は空で、全弾撃ち尽している。「……武器が必要だな」
 野坂は亮太郎を連れて武器庫に向かった。かなりの量の銃火器がなくなっていた。誰も彼もが化け物どもに対抗するため武器を持ち去っていったのだろう。それでも全てがなくなっていたわけではなく、とりあえず拾った拳銃に9mmパラベラム弾の詰まった弾倉を入れた。9mmパラベラム弾のパラベラムとはラテン語の「Si vis pacem,para bellum」からきている。意味は「汝平和を欲さば、戦への備えをせよ」という警句であり、すなわち平和を維持するためには高い軍事力を以(も)って敵に攻撃をさせないような社会を目指すべし、という内容だ。だが、今の野坂にとってはこれは違う解釈となるだろう。彼はこれから平和を得るために戦いに備え、そして戦って自らの手で平和を得なければならないのだ。
 野坂は拳銃を腰に差し込み、今度は通称M9(エムナイン)と呼ばれている9mm機関拳銃を手にする。弾倉を確認してからM9はスリング(ベルト状の吊り紐)が付いているので肩にかけた。
「ひとつの駐屯地が全滅してるんだ。ひとりが持ち歩ける程度の火器で、化け物どもに抵抗できるとは思えない。ここにあるものを出来るだけ多く持っていきたいと思っているから、これから自動車(くるま)を探しに行こう」
 亮太郎は野坂の言っている意味がよくわからなかったが、それでも素直に頷いた。
 駐屯地には破壊されていた車両も多かったが、その中には無事なものもあった。しかも好都合なことにキーが挿さったままである。その車両は軽装甲機動車、野坂たちは略称のLAV(ラヴ)と呼んでいるが、軽装甲機動車という名の通り装甲に覆われた軍事車両である。装甲車ではあるが、その名称と防衛省内での愛称が「ライトアーマー」であることからもわかるように、軽量化され機動性にも富んでおり身を護りながらの移動に適している。まさに打ってつけの車両だった。
 運転席に乗り込んだ野坂はLAVを武器庫の近くまで動かして停めた。そして出来る限りの火器と弾薬を車内に放り込む。これには微力ながら――野坂は危ないと言ったのだが――亮太郎も手伝った。
 そして銃火器の大体を積み終わったとき、どこかから物音がして野坂は瞬時に身構えた。スリングで肩からさげたM9を構えて、周囲を見回す。
 ――まさか、生存者がいるのか?
 野坂はわずかな希望に懸けて、危険を覚悟に再び建物の中へと足を踏み入れた。

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DATE: 2011/06/08(水)   CATEGORY: 雑記
試行/思考 錯誤。
keep out of pond



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