みやび萬紅堂。
いらっしゃいませ。コメントはお気軽に。
DATE: --/--/--(--)   CATEGORY: スポンサー広告
スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
page top
DATE: 2010/02/24(水)   CATEGORY: MUKURO・地獄篇
MUKURO・地獄篇‐18 (光の魚)
 ホテルの一室。深い静寂(しじま)の中、灯りもない暗がりで、柳瀬 隆と三浦 望美の二人は小さく息を潜めながら、この深海のような世界でしばしの休息を取っていた。
 部屋のベッドで望美が仮眠を取っている間、柳瀬は椅子に深く腰かけて、見張りをする。いつ化け物どもがここに現れてもおかしくはないのだ。
 何事もなく時間だけが過ぎ、柳瀬にも少し睡魔が押し寄せてきた頃、カーテンの隙間から不思議な光が部屋に差し込んできたことに彼は気付き、恐るおそる、ゆっくりと窓に近付き、カーテンの隙間から外を覗き込んだ。
 そこには、光の魚がいた。
 蛍光色に発光する魚が、まるでそこが海であるかのように悠々自適に宙を泳いでいる。
 それも一匹ではない。
 幻想的な光景だった。数十匹の魚が、光を放ちながら泳ぐ姿は、神々しくもあった。
 まさかそれが破滅をもたらす悪魔だとは思えない。神の御使いであるような神聖さを持って、宙を浮遊している。
「こいつらは一体……」
 思わず漏れた言葉。もし神の御使いなのであれば、自分たちは、何かの罪で裁かれようとしているのか。それは一体何の罪で?
 そして柳瀬は思い直した。何の罪で? 人間がそれを問うか。もはや何の罪かもわからぬほど、人は罪を犯してしまったのではないだろうか。いくつもの罪を犯し続けた結果、今こうして罰を受けているのではないか。
「……地獄」柳瀬は誰に向けるでもなく言葉を紡いだ。「まるで世界は地獄と化した。しかし地獄とは罪人の落ちる場所ではないか。もしかしたら、人間はもうどうしようもないくらい、それこそ地獄に落ちても仕方ないくらいの罪を犯してしまったのではないだろうか。――だとしたら俺は、人間は、一体どうするべきなんだ? このまま自ら罪と罰を受け入れろとでも? あの化け物どもに苦痛ののちに八つ裂きにされ、見るも無惨な死体を晒し、喰われろというのか?」
 柳瀬は怒りと屈辱に体を震わせ、唇を噛んだ。
「これが人間の辿る運命なのか? 神は地上を一掃して、また世界を創り直すつもりなのか? ――俺は許さない。そんな横暴は、許せない。確かに人間は罪深い。罪を犯しながら生きているかもしれない。しかし、生きるということはそういうことではないのか? 人は罪を犯し、時に後悔し、自省し、また罪を犯す。罪を犯すことが、そしてその罪を償おうとすることが、生きることではないのか? だから人はいずれ死ぬのではないのか? 生とう罪を償うために、誰もが死という罰を受けるのではないのか? ――もし、ひとつの罪も犯さずに生きろというのなら、どうして最初からそう作らなかった? 生きることが罪というなら、その結果が今というなら、どうして俺たちに生を与えたんだ」
 柳瀬の頬を、涙が伝った。
「俺はお前に屈さない。お前が神だろうと運命だろうと俺は生きる。罪にまみても、それを償いながらでも、俺は生きる。罪を犯してきたのは、生きるためだ。罪を犯してまで生きてきたんだ。ここで諦められるか!!」
 その声が部屋中を震わせ、望美は目を覚ました。
 暗がりの中に立つ柳瀬の顔は、よく見えない。
「あ、後ろ!!」
 望美の声で振り向くと、透明な魚が柳瀬を狙っていた。
 ほとんどが透けているが、よく目を凝らせばそのシルエットが見える。
 柳瀬は手にしていた手製の木の槍を構え、宙に浮く魚に向けて勢いよく一突きした。
 木槍は浮遊魚をかすめる。柳瀬は立て続けに突きを放った。
 穂先が浮遊魚の体を貫いた。
 透明だった体は色を取り戻し、床に落ちた。
「大丈夫ですか?」
「ああ、何ともない」柳瀬は額の汗を拭った。「一応、部屋を変えよう」
 二人はホテルの一室をあとにした。

つづきを表示
スポンサーサイト
[ TB*0 | CO*2 ] page top
DATE: 2010/02/23(火)   CATEGORY: 雑記
映画の栄華。
いやー、映画ってホント良いものですねぇ~。


って最近よく思う。


音楽とかもだけれど、○○が良い、じゃなくて音楽総じて、映画総じて良いものだなって思うようになった。
そりゃ、前からそう思っていたんだけれど、心底、「嗚呼、いいなぁ…」って気付けば思っているのだ。

なんか楽しくなって顔が笑ってたりしていて自分でも気持ちが悪い(笑)

なんていうか、もう突き抜けて好きだって感じ。
自分はこの領域を水野晴郎の境地と呼ぶことにした。


いやー、映画ってホント良いものですねぇ~。


水野さん、今ならわかります。映画って素晴らしいですね!!
この気持ちはLIKEじゃなくLOVEになったってこと?





つづきを表示
[ TB*0 | CO*4 ] page top
DATE: 2010/02/22(月)   CATEGORY: MUKURO・地獄篇
MUKURO・地獄篇‐17 (小さな希望)
 柳瀬は停止したエレベーターのドアを無理やりこじ開けようとしていた。どのボタンを押しても効果はなく、この異常な状況で誰かが助けに来てくれるとも思えない。どうにか自分たちの力で脱出しなければならなかった。
「どうです、開きそうですか?」
 柳瀬が両手に力を込めるが、うんともすんとも言わない。何の手ごたえもなかった。
「ダメだ。ちょっとの隙間も作れそうにない。せめて指が入る隙間さえ出来れば、もう少しやりようがあると思うんだが…」
「そうですか」
「天井の点検口も中からは開かない仕組みになっているようだし、一体どうすればいいのか」
 ガン、と鉄製のドアを力強く蹴りつけ、柳瀬は顔を歪めた。
「このまま、ずっと閉じ込められることになったらどうしよう…」
「そもそも何故停まったのかもわからないからな。単純に停電なのかもしれないが、もしかすればまた動き出す可能性だってある」柳瀬の口から溜め息が漏れた。「ただ、この状況で、今まで電気が供給され続けていた方が奇跡だったのかもしれない」
 二人は黙り込んでしまった。
もう何の手立てもないのか。ここで終わりなのか。今まで化け物相手に命懸けで闘い、生き延びてきたというのに、こんなところで終わりだというのか。
「……何か出来ることがあるはずだ」
 あらゆる思考を巡らせ、脳を余すことなくフル稼働させて、柳瀬は生き延びようとしていた。ここが自分の終わりではない。これまでもっと困難な敵とも闘ってきた。どうやっても勝てないような化け物と渡り合って、生き抜いてきた。――絶望するにはまだ早い!
「どうしてこうなっちゃったんだろう…」
 望美の手には携帯電話が握られていた。
 今までは必要不可欠だったモノ。どこへ行くにも必要だったし、誰と繋がるにも必要だった。これがなくては生きてはいけないと思っていた。
 しかし今、万能だと思っていたそれが何の役にも立ちはしない。電波は入らず、入っても誰が電話に出るだろうか。――何の意味もない。
「こんなもの!」
 携帯電話が壁に打ちつけられ、音を立てて床に落ちた。
カバーが外れ、電池パックが剥きだしになって転がったそれを拾い上げ、カバーを元に戻すと、柳瀬は携帯電話を望美に手渡した。
「希望を捨てちゃいけない。きっと俺たちは生き延びることが出来る。それは俺たちだけじゃない。他にも生き延びられる人は大勢いるはずだ。すぐには元通りにならないかもしれないが、そのうち復旧も進むだろう。そのとき、これがいるだろ? ちゃんと持ってなよ。それは希望だよ。今は何の役にも立たないかもしれないが、だからこそ希望なんだ。その携帯こそが俺たちの日常だろう? それがちゃんと役に立つ毎日がまた来るって信じよう。そいつを手放すってことは、俺たちの日常がもう戻ってこないと諦めるってことだよ。諦めたら、きっと助からない。信じなきゃ。生き延びれるって。強く、思うんだよ。生き延びてやるって。望みを捨ててはダメだよ。――だってそれが君の名前だろ?」
 こくん、と頷いて、望美は滲む涙を拭った。
「すみません。わたし、諦めません」
「ああ。一緒に頑張ろう」

 ドン!!

 大きな衝撃が二人を襲った。
 エレベーターは大きく揺れ、床が歪んだ。わずかに波打つようなカタチに変わっていた。
「なんだ……!?」

 ドン!!

 再度、衝撃。
 二人は体勢を崩して、壁に体を打ち、エレベーターが大きく持ち上がるのを感じた。
「柳瀬さん!!」
 望美が大声をあげて指差す先には、衝撃でわずかに開いたドアがあった。腕が通るほどの隙間が出来ている。
「手伝ってくれ! 一緒にこじ開けよう!」
 柳瀬がドアの隙間に手をかけた。続いて望美もそれに倣い、全力でドアを引っ張った。
「開け開け開け開け――!!」
 ゆっくりとドアが開いていく。
「お願い、開いて!!」
 精一杯の力を込めて、ドアを押し開けていく。
 そして、ついに、人ひとり通れるぐらいほど幅が出来た。
「クソッ! これは、まずい」
 エレベーターのドアの向こうは壁。そして、半分ほど見えたドア。
 どうやらエレベーターはあと少しでどこかの階に到達するところだったらしい。
「どうにかして、このドアもこじ開けよう!!」
 そのドアを抜ければ、何階かのフロアに通じているはずだった。
 今、このエレベーターの下で何かが起こっている。あるいは、何かがいる。
「早くしないと、また衝撃が来るぞ」
 柳瀬は手に汗を握りながら、ドアに手をかけた。
 今度のドアは先程と違い、意外に緩く感じる。落ち着いてやれば、すぐに開けられそうだった。
「大丈夫、開けられそうだ。力を貸してくれ」
 望美の力が加わり、ゆっくりとドアは開いた。
「ほら、先に上がれ!」
 ドアが見えているのは胸より上の位置からだった。
 望美は両手をドアに引っ掛け、力いっぱいを両腕に込めて、フロアに這い上がった。
「柳瀬さん、早く」
「ああ」

 ドン!!

 衝撃にエレベーターが突き上げられ、先程より随分とドアの高さが低くなった。
「今のうちに!」
 柳瀬がエレベーターを脱け出した。と同時に、後方のエレベーターが落下していく。
 そこには虚空だけが残った。
つづきを表示
[ TB*0 | CO*2 ] page top
DATE: 2010/02/20(土)   CATEGORY: MUKURO・地獄篇
MUKURO・地獄篇‐16 (深夜行Ⅱ)
 急いで車内に戻った骸が見たのは、気を失っている詩帆の姿だった。
 解き放たれていたハンドル握り車の進路を固定する。詩帆の首には、ムカデに咬まれたあとがあった。おそらく、毒だろう。
 骸は車内にいるムカデを踏み潰し、詩帆を助手席に移動させた。そして運転席に座り、改めてハンドルを握る。フロントガラスの向こうでは、白く変わった巨大ノミの姿があった。
動く様子はなく、生気も感じられない。まるで化石のようであった。
 ピシリ、と巨大ノミの背中に亀裂が生じた。メキメキと罅(ひび)が入り、中から何かが飛び出す。――セミのような、巨大な虫だった。
 ノミの体は幼虫で、たった今 羽化を遂げ、成虫へ変態したというのだろうか。セミの体は白っぽく、体は柔らかそうである。
 それが薄い羽を小刻みに振るわせ始めた。その未熟な体で飛び立とうとしているのだろうか。
 そんな光景を眺めつつ、巨大セミ――巨大ノミの1.5倍ほどある――が今はまだ脅威ではないと考えて、骸は運転に集中した。今はただただこの場から早く逃れるだけである。また巨大ノミによる集中攻撃を受けたら持ちこたえることは出来そうにはなかった。
 走行を続けているうちに、道のところどころに、白いカタマリが見えるようになっていた。よく見ると、それは白い糸でぐるぐると巻かれているようである。
「何か、嫌な予感がする」
 骸は、この辺りに漂う邪悪な気配を感じ取っていた。何かがいる。
 夜の闇に紛れて、何かが視界の隅を這った。
 警戒を強めながら、骸は車を進ませる。
 三葉虫に似た生き物が宙を浮遊していた。
 そのとき、バックミラーが何か赤い光を捉えた。
「これは非常にまずいな」
 ランクルの背後には、巨大な、本当に巨大な蜘蛛がいた。その体躯は小さな家ほどあって、頭には無数の目が赤く光を放っている。
 ジュルル…と大きな牙から涎が垂れた。ジュッ、と音を立てて地面が溶けた。どうやら溶解液の唾液らしい。
 アクセルを全開まで踏み込む。加速。車が唸りを上げて走った。後方に迫り寄る巨大蜘蛛。
 ぞろぞろ。何だろうか、視界の隅に何かがかすめる。ぞろぞろ。小さな蜘蛛? 夜の闇を這いずる、それは子蜘蛛だった。―― 子蜘蛛といっても、体長1メートルはある大きさだ。
 エンジンが悲鳴を上げた。スピードは限界。しかし巨大蜘蛛との距離は拡がらず、むしろ縮まっている。
 暗がりの中、道の隅を蠢く子蜘蛛たち。後方には巨大な親蜘蛛。骸の背に、冷たいものが流れる。
 ランクルが、大きく進路を変えた。グチャ、という音が耳に届く。どうやら子蜘蛛の一匹を轢いたようだ。グチャ。また子蜘蛛が潰れる音がした。グチャ、グチャリ。
 グオオオオオオオオオオオオオオ――!!
 獣の咆哮が夜を劈(つんざ)いた。
 親蜘蛛が憤怒をあらわにして、その勢いはさらに増される。
「――!?」
 ドオオオオオン!!という轟音とともに、目の前に大きな足が現れた。
「これは……」

 ドオオオオオン!!

 大地が罅割れた。
 地に下ろされたその足から四方八方に地割れが起こり、その断層のひとつに巨大蜘蛛は落ちていくのが見えた。しかし、助かったと思うにはまだ早い。今この車の進路の先にもまた、大きな断層が待ち構えているからだ。
 今から停まれるか!?――全力でブレーキペダルを踏み込み、運転席のドアを開けた。骸は手元にあった骨刀を地面に突き刺す。彼の腕に凄まじい衝撃が奔った。強い力で引っ張られ、腕がもげそうなほどだ。
 それでも彼は堪えた。
 前輪が断層の割れ目に入り込み、車体が落下する直前で、車は停止した。

つづきを表示
[ TB*0 | CO*2 ] page top
DATE: 2010/02/18(木)   CATEGORY: MUKURO・地獄篇
MUKURO・地獄篇‐15 (深夜行)
 モスグリーンのランドクルーザーが、まるでグランドキャニオンを思わせる崖沿いを走ってした。ハンドルを握る詩帆は、この車の持ち主の不在を案じていた。
 ――安生 三貴彦は無事なのだろうか。
 そして隣、ランドクルーザーの助手席に乗っている男を見遣った。
 骸と名乗る男。見た目は美形だが、氷の刃を思わせる冷たい双眸。何を考えているのかわからない無表情。どうにも不気味だった。しかしそのミステリアスな雰囲気が、また彼に似合ってもいた。並の女ならば彼の醸し出す妙な色気にゾクッとしてしまうかもしれない。
「このままどこへ行くの?」
「わからない」
「わからないって――そんな、無責任な」
「今はまだわからない。しかし進んでいればいずれ道は見えるはずだ」
 何を言っているのかわからなかった。考えが読めない。
「――あれって」
 詩帆は、闇が覆い尽くす黒い空に、白く輝くはためきを見た。
 それはオーロラだった。天空をはためく光のカーテン。
 しかしなぜこんなところにオーロラが? これも怪異の一部なのだろうか。
 幻想的な白光が、詩帆の行く先を示しているかのようだった。
 自然とアクセルを踏み込む足に力が入り、オーロラ目掛けてランクルは加速した。
「あなた、何者なの?」
 ふと疑問が滑り出た。
「俺は骸だ」
「それは聞いたわよ。名前じゃなくて、どういう人間かってこと。どうしてあの化け物たちと渡り合えるの?」
「それは――俺がやつらを倒す力を持っているからだ。やつらが何なのかを知っている。やつらに対抗する術を知っている。俺はやつらの目的を阻まなくてはならない」
 それは詩帆の質問の答えとは言えなかったが、しかし彼女にはもっと気になることがあった。「やつらが何なのか、知ってるの?」
「ああ。やつらは――」
 ダン。
 強い衝撃が車を襲った。
 ダン。
 車体が大きく揺れる。
 ダン、ダン。
 何か大きなものが、車にぶつかってきているのは明らかだった。
「きゃっ――」
 フロントガラスの向こう側に、大きな虫がひっついていた。
1メートルはあるであろう、ノミだ。
「運転を続けろ」
 ダン。
 ノミがその力強い跳躍で、車体に体当たりをしてくる。
 ダン。
 ボディがへこんだ。
 ダン。
 逃れられたと思った恐怖が、再び、別のカタチを擁して襲ってきている。
 この悪夢はいつまで続くのか。この地獄はどこまで続いているのだろうか――…
「しっかりとハンドルを握るんだ」
 骸の掌(てのひら)が、ハンドルを握る詩帆の手の上に重ねられた。
「キィィェェェェエエエ!!」
 ノミの口が、四方に割れてグワっと開き、奇声を上げた。
 詩帆は映画で観たエイリアンの口を連想し、恐怖で全身が硬直してしまった。
「冷静さを失うな」
 カーウィンドウを降ろし、骸が車外に乗り出す。
「ちょ、ちょっと! 何するつもり!?」
「化け物退治だ」
 骸は手を肩に当てた。指先がズブリと皮膚を突き破って、体内に入り込んだ。
 ズブブブブブ……。指は肉を裂いて、深く体内に潜っていく。そして腕までが体を突き進み、彼の手が何かを掴んだ。
 彼は肩から何かを引き抜いた。骨のような、白く、長い――あれは、骨?
「……それ、何なの?」
「俺は骨刀(コツトウ)と呼んでいる」
 あれが、人面蜂を屠り、怪猿の腕を斬り落とした、武器。
 彼の、武器なのか。
 彼は一体――骸とは一体“人”なのか? 本当に我々の味方なのか?
「ちゃんと前を見て、運転を続けろ」
 骸は車を飛び出て屋根に登った。車体のひっついていたノミどもが彼を注視した。
 握られた骨刀をフロントガラスの巨大ノミに突き立て、骸は怪虫の体を真っ二つに切り裂いた。ギョイイイ――
 フロントガラスに赤く、どろどろとした液体が撒き散らされ、視界が塞がれるのを見て、詩帆は慌ててウォッシャー液を吐き出させ、ワイパーを動かした。それでもガラスの汚れは除去しきれてはいなく、悪い視界の中で、彼女は少しの余所見も出来なくなった。
 屋根に乗っている骸は、車体にひっつくノミを次々と薙ぎ払っていた。闇の中から現れる、無数の怪虫。薙いでも薙いでも現れる。
「キリがないな」
 骨刀がノミの背中に突き刺さる。グチュ、という不快音に続いて、血が溢れた。それはこの虫が吸い取った、人間の血かもしれない。
 そこで今までと違ったことが起こった。避けた巨大ノミの背中から、何かが這い出てきたのだ。
それはムカデのようだった。怪虫の傷口からウヨウヨとムカデが這い出てくる。
「まずいな」
 這い出てくる無数のムカデの一部が、詩帆のいる車内に侵入していった。
「キャアアアア!!」
 続く叫び声。
 車が大きく揺れた。
 定まらない不安定な走行。
 骸はノミを数匹蹴飛ばして、車内に向かって大声をあげた。
「大丈夫だ、運転に集中しろ!」
 その言葉は詩帆の耳には受け入れられはしなかった。

つづきを表示
[ TB*0 | CO*2 ] page top
DATE: 2010/02/16(火)   CATEGORY: MUKURO・地獄篇
MUKURO・地獄篇‐14 (変化)
 化け物へと変貌した男を殺したあと、互いの自己紹介を終え、柳瀬 隆は今後の行動について説明した。グロテスクな外観(ヴィジュアル)と、桁外れの凶暴性を持ってはいるが、化け物どもは確かに殺せる。仲間を集めて救助が来るまで抵抗しようというのが柳瀬の考えだった。いずれ自衛隊か、あるいは諸外国の軍のようなものが救援に駆けつけると柳瀬は睨んでいた。
「だったらもっと仲間を増やさないと。2人だけじゃすぐにやられちゃいますよ」
「うん。きっと、すでにどこかに同じような考えを持って集まっている人間がいると思うんだ。だからその人たちと合流することさえ出来れば…」
 ――そのときだった。停まっていたランドクルーザーから聞き慣れない音が耳に届いた。
「……なんだ?」
 ぐわっと、車体が持ち上がった。――玉虫色に光る、脚が生えていた。
 まるで蜘蛛のような姿。望美の悲鳴が辺りを駆け巡った。
「逃げよう」
 柳瀬が望美の腕を引っ張った。
 車体から生えた長い脚は、目測でも2メートルはあり、それはアシダカグモを連想させる。
 てらてらした脚を器用に這わせ、蜘蛛の化け物になったランクルが2人を追った。その動きは速く、獲物を追う一流ハンターだ。
「やばい! 追いつかれる!」
 ボンネットが開いた。牙のようなものが見える。それはまるで口だ。
 涎(よだれ)らしきものを垂れ流しながら、化け物は望美のすぐ背後にまで近寄った。
 前方にホテルが見え、柳瀬たちはそこに飛び込む。ランクルは車体を強く壁にぶつけた。長い脚がここでは邪魔になったようだ。
 腰をかがめるように脚を開き、体勢を低くして、化け物はホテルのフロントに侵入した。
「走れ走れ!!」
 柳瀬は階段を駆け上り、望美をそれに必死についていく。化け物はまたもや大きな体はひっかかって、階段を昇ることが出来ない。
 2階に辿り着くと柳瀬はエレベーターのボタンを押した。焦る気持ちがボタンを何度も押す。押す押す押す。早く来い――…
 階段からは化け物の呻き声、そして壁が崩れるような音。
 このままでは無理やりにでも化け物はここまでやってくるかもしれない。
「早く来いよ!」
 苛立って叫ぶのと同時に、エレベーターのドアは開いた。
「早く!」
 望美も言われるままに乗り込む。
 最上階のボタンと「閉」のボタンが続けて押され、ドアは閉まった。
「――ふぅ」
 柳瀬が安堵の息を漏らす。望美も釣られて脱力し、その場にしゃがみ込んだ。
「ん?」
 エレベーターの灯りが点滅し、そして消えた。ふっと闇が湧く。
 辺りが静寂に包まれた。
 エレベーターは停止した。

つづきを表示
[ TB*0 | CO*2 ] page top
DATE: 2010/02/14(日)   CATEGORY: MUKURO・地獄篇
MUKURO・地獄篇‐13 (MUKURO)
 キィィィイイーーー!!
 片腕を奪われた猿が怒りと痛みに叫んだ。牙を剥き出し、明らかな敵意を持って突如現れた男に対峙する。腕は血を撒き散らした。
「下がっていろ。遠くにも行くな」
 ぼそりとそう男が呟いた。あまりに小さく呟いたので、詩帆はそれが自分に言われていることだと気付くのに数秒かかった。
 ヴヴヴヴヴヴ――…
 周囲に集まっていた人面蜂が耳障りな羽音を上げ、素早い動きで、大きな毒針を男に向け、襲いかかった。
 男は手に持つ白い剣――のようなもの――で宙を薙ぐ。
 たちまち人面蜂はその体がバラバラになって地面に落ちた。そんな姿にも体は動いていて、詩帆は思わず後ずさる。
 風を切る音。剣が宙を薙いた。人面蜂の体が崩れる。見えない、速度。顔だけになった人面蜂が憎らしげに男を睨めつけた。
 次々と襲いかかる人面蜂を男は迎え撃ち、そのたびに人外の叫びが辺りに響き渡る。――救世主。彼が何者かはわからないが、その言葉が詩帆の脳裏に浮かんだ。
 その光景はまるで悪夢で、頭だけに、胴だけに、脚だけになった人面蜂だったものが地表で蠢めいている。その中心で、涼しい顔をしている男はまさに救世主。あるいは地獄の貴公子なのか。どちらにせよ、詩帆にとっては今現在唯一の希望であった。
 残る人面蜂の様子が変わった。その顔についている人間さながらの眼球がぐるぐると回転し始めた。ぐるぐるぐるぐるぐるぐる――…
「な、なにあれ……」
 突如として人面蜂の顔に、縦一閃に、亀裂が生じた。
 バキバキバキィィィ――嫌な音を立てて顔が割れる。割れた顔はまるで大きな口のようで、内部からはピンクの触手はうねうねと這い出てきていた。
 思わず詩帆は怖気に震えた。
 より禍々しく変貌した人面蜂に、男は構わず向かって行く。手にした剣を振りかざし、人面蜂の割れた顔を捉えた。顔の割れ目に、抉るように剣を突き立てられる。人面蜂の悲鳴。人外の悲鳴。耳を劈(つんざ)く。鼓膜が破れそうだった。
 人面蜂は内部から赤黒い液体を垂れ流して、動きをやめた。
 残った人面蜂は目の前の男には勝てぬと思ったのか、逃げ帰るようにどこかへと飛んでいってしまった。
「キイイイイ――!!」隻腕の猿が怒号を上げた。「……キ、サ、マ」
 猿の頭部がメキメキと隆起し、その体毛の下から角らしきものが皮膚を突き破って現れた。猿の体は倍に膨れ上がり、背中には蝙蝠のような羽。その姿は――まさに悪魔!!
「イヅレ、オマエ、ヲ、コロス――」
 悪魔の成長した猿は、その大きな、漆黒の翼を広げ、宙に飛び立った。
 バサッバサッという翼が風を切る音が耳に届いた。
「ギョオオオオオオオオ――!!」
 野太い、悪魔の咆哮が辺りを包み込み、詩帆の全身にもビリビリと響いた。
 悪魔は詩帆と男を一瞥すると、空の向こうへと消えてしまった。詩帆はほっと胸を撫で下ろし、ゆっくりと男に近付く。「あの、あなたの名前は?」
「俺の名か? 俺の名は――骸」


つづきを表示
[ TB*0 | CO*0 ] page top
DATE: 2010/02/13(土)   CATEGORY: 雑記
映画のこと。
「Dr.パルナサスの鏡」を観に行った。
ダークナイトでジョーカー役を演じたヒース・レジャーの遺作。
撮影途中でヒース・レジャーが急死したのち、彼と親交があったジョニー・デップ、ジュード・ロウ、コリン・ファレルが役を引き継ぎ、それぞれの鏡の中の世界でトニー役を熱演。

ヒース・レジャー!

ジョニー・デップ!

ジュード・ロウ!

コリン・ファレル!

こんな豪華なキャスティングを見逃すわけにはいかないでしょう。
絵本のような世界観で、映像が凄かった。3Dならもっと凄かったんだろうなって思う(3Dと2Dで同じCMを観たんだけど、やはり3Dだと違うんだなぁって思った)。
キャラクターは個性的。内容は説明しがたいけど、色々なものが詰まってるように感じた。童話を大人風にアレンジしたような感覚があって、凄く色々な視点から観れる作品だと思う。それぞれの人にとっての、それぞれの「Dr.パルナサスの鏡」が存在するんではないだろうか。

一度ではなく、繰り返して観たい映画。



つづきを表示
[ TB*0 | CO*0 ] page top
DATE: 2010/02/12(金)   CATEGORY: MUKURO・地獄篇
MUKURO・地獄篇‐12 (邂逅-Ⅱ)
 太陽はその姿を隠そうとしていた。夕陽に染まる空のグラデーションは、いつもなら綺麗なはずなのに、今日は不気味に色付いている気がした。
 いたるところで暗がりが繁り始めた。世界は魑魅魍魎の異形が街を蔓延るようになってから、最初の夜を迎えようとしていた。


 濃い霧の中、ヴウウウン…という羽音を耳にしながら、檜山 詩帆はその夜を迎えた。
 車ごと断層による崖からの転落後、安生 三貴彦の姿はない。どこへ消えてしまったのだろうか? そして無事なのだろうか? 詩帆の心に不安が募る。
 彼女は、残されたランドクルーザーの中にいた。車は横転していて、走らせることはできなかったが、この闇の中で、身を隠す場所にはなった。外では人面蜂たちが蠢いている。自分の居場所だけは、悟られるわけにいかなかった。彼女は息を殺し、機を待った。


 ゴウンゴウン、という音で目が覚めた。どうやらいつの間にかに眠ってしまっていたようだ。
 この状況でよくもまあ眠れるな、と詩帆は自嘲気味に笑った。
 ゴウンゴウン。何の音だろう?
 気付けば車内が揺れている。――地震?
 ゴウンゴウン。いや、揺れているのは車だけだった。
 暗闇に紛れていて気付かなかったが、詩帆の目の前には顔があった。大きな、猿の顔。
 猿が、車を揺さぶっていた。ゴウンゴウン。傾いた車体が地面を打っていた。
「なっ なに?」
 猿は人間さながらの笑みを浮かべ、詩帆を見つめた。
 その下半身、毛むくじゃらの中に、大きな隆起。太く、硬く、はち切れんばかりにそそり立つペニス。
 明らかに猿は欲情していた。
 何に?――詩帆に。人間の牝に。
 ハッハッハッ。荒い息遣いが聞こえてきた。
 窓硝子一枚を隔てて、猿が詩帆に欲情している。
 ――犯される。
 ――猿に、犯される。
 本能が警鐘を鳴らす。逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ――!!
 ガタガタと震える体。言うことを聞かない。
 動かない、動けない。
 今までにない、恐怖。
 ただ殺されるより怖い。肉を引きちぎられるより恐ろしい。
 動かない、動けない。
 あのケモノに犯されるのか?
 ケダモノだ。ケダモノに犯される女。
 嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ――…
 襲いかかる恐怖の中、やっとのことで手が車のドアに届いた。
 猿が詩帆の動きにピクリと反応した。
 急がなくては――犯される!!
 思い切ってドアを開けた。そして車から這い出ると一目散に駆け出した。
 ヒぃーッ! ヒぃーッ!
 奇怪な鳴き声が響いた。猿が興奮しながら追いかけてくるのがわかる。
 ヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴ――…
 人面蜂の羽音。近い。――もう無理かもしれない。
 詩帆の心に諦めの色が浮かんだ。
 絶望――このまま自分はあの猿に犯されて、人面蜂の気味の悪い触手に捕らえられ、最終的には死ぬのか。やつらに殺されるのか。それとも化け物の仔を孕ませられるのだろうか。
 何にせよ、希望はなかった。
 猿の毛むくじゃらの腕が、詩帆の腕を掴んだ。
 ――終わりか。
「ヒィギャアアアアアアアアア!!」
 絶叫。生温かいものが顔にかかった。
 ――血?
 詩帆の腕には、毛むくじゃらの猿の腕。――が、ぶらさがっていた。
「……腕?」
 腕だけだった。腕が切断され、血を撒き散らしながらぶらさがっている。
 詩帆は顔を上げた。
 目の前に男がいた。
 黒髪の、陶磁器のように滑らかで、白い肌をした、無機質で、美しい顔。
 血が通っているのかというほどに白く、青く、生気がない。
 男は無表情のまま、手には何かを握っていた。白い剣のようなものだ。
「――大丈夫か、女?」
 その声は氷のような冷たさで、しかし雪のような温かさを併せ持っていた。

つづきを表示
[ TB*0 | CO*2 ] page top
DATE: 2010/02/10(水)   CATEGORY: MUKURO・地獄篇
MUKURO・地獄篇‐11 (邂逅-Ⅰ)
 突如現れた浮遊魚を殺して、家を飛び出た柳瀬 隆は外の異変を知って驚愕した。
 まるで世界が地獄に変わってしまったかのような惨状である。
 異形の化け物がそこら中に蔓延(はびこ)り、人を襲い、喰らっていた。それに人々は恐怖し、悲鳴を上げ、泣き叫び、無抵抗のままに引き裂かれ、弄ばれるかのように殺されていった。
「一体、この世はどうしてしまったんだ。地獄の蓋が開いたとでもいうのか?」
 柳瀬はどこまでこの地獄が続くのだろうと考えた。想像もつかない。自分はどうしたらいいのか、どうするべきなのか、他の人々同様に、彼もまた生きる指針を失ってしまったのである。
 ――しかし、彼は生を諦めたわけではなかった。
 きっと何か解決策がある。今は何も思いつかなくても、それがわかるまで生き延びなくては。力強く、そう思った。
 まずは武器が必要だと思い、彼は近くの建物を物色して、モップの柄を削って即席の槍を作った。まるで原始人だと自分を笑いながら、必死に削り鋭い穂先を作った。
 化け物は殺せる――それを実践したからこその確信。
 柳瀬は基本は逃げ、いざとなったら化け物を殺すという方針を立てた。
 本当に殺せるのかはわからない。先ほど自分が殺せたのは単なる偶然なのかもしれない。そんな危惧もあったが、何もせず指をくわえて殺されるのだけは真っ平だった。だったらどんなに些細であっても、自分は最後まで抵抗してやる。そう心に決めた。
 しばらくは目的なく彷徨っていた。あの化け物どもに対抗するには仲間が必要だと感じたが、ほとんどの人間はすでに化け物どもに捕らえられてしまっていて、助けることもできなかった。しかし中には懸命に逃げ延びている人間も見ることができたので、その希望は捨てなかった。ただ自力で生き延びた人間は他人を信用していないらしく、近付けすらできなかったが。
 そんなとき、一台の車が見えた。モスグリーンのランドクルーザーだ。
 もし車を持っている人間を仲間にできればなんと心強いものか! 柳瀬は車のあとを追った。
 するとランドクルーザーは急に曲がって、横転してしまった。
 ――何かあったのか?
 警戒しながら車に近付く。
 女が倒れていた。
 彼女が起き上がる。
 体中を地面に打ってしまったようだった。
 彼女は横転したランドクルーザーを見つめていた。
 背後には、男の影。――男?
 あれは――人間ではない。
 化け物だった。
 やつらの仲間だった。
 眼が飛び出るように伸びて、うねうねと動いていた。
 それはレウコクロリディウムのようであった。
 カタツムリに寄生する、レウコクロリディウムという生物を柳瀬は知っていた。
 寄生したカタツムリの目――触角に移動して、膨れ、脈動させることによってカタツムリの触角を芋虫に擬態させ、鳥に食べられるように仕向けるといった寄生虫だった。
 男の眼は、そのレウコクロリディウムに寄生されたカタツムリを思わせる。
 そして口からはピロピロとピンク色をした細い触手が何十本も蠢いていた。
 柳瀬は覚悟を決めて彼女に駆け寄った。
 彼女は背後にいる化け物に気付いて、声を上げた。
 渾身の力を込めて、柳瀬は手に持つ槍で化け物の顔面を貫いた。
 彼女がこちらを振り向いた。
 彼女は――三浦 望美といった。

つづきを表示
[ TB*0 | CO*4 ] page top
Copyright © みやび萬紅堂。. all rights reserved. ページの先頭へ
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。