みやび萬紅堂。
いらっしゃいませ。コメントはお気軽に。
DATE: 2010/01/31(日)   CATEGORY: MUKURO・地獄篇
MUKURO・地獄篇‐6 (知人)
 エンジン音が消えたことをきっかけに檜山 詩帆は目を覚ました。どうやら目的地に着いたらしい。
「俺はちょっと中の方を見てくるけど、君はどうする?」
 安生 三貴彦が指差す先には小さな雑居ビルがあった。そこに彼の知人がいるのだろうか?
「一緒に行きます」
「そうか。じゃあ、気をつけて降りて」
 ランドクルーザーの高い車高に、詩帆の脚では降りるのに軽く飛び降りなければならなかった。しかし三貴彦が手を差し伸べてくれたので、難なく降りることができた。小さなことまで気が付いてくれて、やはり頼りになると彼女は思った。
 ビルの中は当然のように荒れていた。地震で亡くなった人も多いのだろうな、そんなことを詩帆思った。しかし魑魅魍魎怪物化け物の類いは見当たらない。そういう意味では今のところ安全地帯であるようだった。
 三貴彦が入った事務所のような一室には、誰かがいるような様子はなかった。「誰もいないか」と彼が呟くのが聞こえた。ところが詩帆は何かがいるような気がしてならない。
「誰か、いないか?」
 三貴彦の問いは、虚空に消えた。
 上の階から物音が聞こえた。「上に誰かいるのか?」
「気をつけてください。また化け物かもしれないですし」
「わかってる。もしやつらがいたら、すぐさま逃げよう。車に飛び乗って、この場を離れることにしよう」
「はい」
 息を呑んで、ふたりは階段を昇った。
「誰かいないか?」
 人が倒れている姿が目に入った。三貴彦が駆け寄る。「駄目みたいだ、もう死んでる」
 彼は部屋に入った。そこもまた事務所として使われていたようで、書類らしきものが床に散らばっている。
 ――デスクの陰で何かが動いた。
 三貴彦はとっさに身構え、ゆっくりとそれに近付いていった。
 そこには――よく見知った後姿。
「大木、ここにいたのか?」
 三貴彦が知人と言っていた大木という男が彼であるらしかった。詩帆はそのことにほっとして、三貴彦に駆け寄った。「見つかったんですね」
「おい、大木。大丈夫か?」
 うずくまるようにしゃがんでいる大木の肩に、三貴彦が手をかけた。
 大木が振り向く。
 そこには、
 ――裂けたような巨大な口。
 サメを思わせるギザギザな歯には、血。
 三貴彦は後ずさった。
 目の前にいるのは確かに自分が知っている大木だが、しかしこれは、もはや大木ではない。
「詩帆ちゃん、逃げろ!!」
 その叫びに応じて、大木――だったもの――は人間とは思えぬ素早さで三貴彦に飛びかかった。
 せめてもの護身用にと、三貴彦は手に持っていた十徳ナイフの刃を立てて、大木の首筋に思いっきり突き立てた。血が噴出する。
 噴水のように溢れ出すおびただしい血に、三貴彦の手は真っ赤に染まった。
 しかしそんな刺し傷など通用しないのか、大木は大きな口でにやりと笑った。
 ――ここで死ぬかもしれない。
 初めて、三貴彦は限界を感じた。
「だったら死ぬ気で俺はあがく!!」
 ナイフをグッと横に引いた。大木の首の3分の1ほどが切断され、だが、それが些細なことであるかのように大木は笑っていた。
 三貴彦が全力で大木の体を蹴り飛ばし、駆け出した。おそらく自分では勝てない。だったらこの場から逃げ延びることに集中しなければ!
 大木が笑いながら追いかけてきた。その姿は不気味で、異様で、ホラー映画の一幕のようだった。
「詩帆ちゃん!」雑居ビルを抜けて、車に乗っている詩帆に合図した。「これを!!」
 三貴彦が手にしていたのは車のキーだった。それを詩帆に投げつける。詩帆は慌てて車のドアを開けてそれをキャッチしようとした。しかしそれは手元を滑り車内に転げ落ちた。
「早くエンジンを!!」
 三貴彦がすぐそこまで来ていた。その後ろには大木も。
 彼が車に乗ったらすぐ発進させなければならない。詩帆は焦った。
 キーが目に入り、慌てて手に取る。そして運転席に移動して、それを差し込んだ。エンジンがかかる。
「安生さん、早く! もうすぐ後ろに!! 逃げて!!」
 後部座席のドアを開けておいていた。三貴彦はそこを目がけてジャンプした。すぐ背後には大木の姿。
 詩帆は三貴彦を信じて、彼が乗るのを見届けることなくアクセルを踏み込んだ。猛スピードで発進する。後部座席で三貴彦が着地する音がした。どうやら間に合ったようだ。
「ニゲルノカ? ニゲルノカ?――ニゲルッテナンダ?」
 もういなくなっていたと思っていた黒オウムが車の屋根に止まっていた。
「大丈夫ですか?」
「ああ、一応」
 全身血だらけの三貴彦だったが、それは返り血らしく、どうも本人は無事のようだった。
「ダイジョウブ! ダイジョウブ!――ッテナンダ?」

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DATE: 2010/01/29(金)   CATEGORY: MUKURO・地獄篇
MUKURO・地獄篇‐5 (吸血蟲)
 乱雑に商品や棚が倒れてしまっているコンビニの店内。そこに三浦 望美は身を潜めていた。
 店の外にいるあの怪物を見てしまったら、とてもじゃないがここから離れることはできなかった。
 コンビニの外では男が助けを求めて叫んでいた。首筋から血がこぼれている。――その男の体には、巨大な、全長1メートルもあろうかという巨大なノミの化け物がくっ付いていた。そいつが男の首元からヂュウヂュウと血を啜っている。
 このノミの化け物は何匹もいて、この周辺にいる人間を無差別に襲っていた。襲われた人間はその血を吸われ、数秒で死に至る。恐るべき怪物であった。
 望美がコンビニで買い物をしているときに大きな地震があった。建物はまるごと揺さぶられ、商品は落下し、棚はあらかた倒れた。今思えばどうしてコンビニになど入ってしまったのだろうと後悔の念が溢れてくる。あの直後に巨大なノミどもが現れて、人々を襲うようになったのだ。最初は他にも店内に人はいたが、誰もが途中で我慢できなくなり店を出て、やつらの餌食となった。
 ――わたしは絶対にここを離れない。
 もはやこの店に入ってから数時間が過ぎている。このまま助かる見込みはないが、しかしだからといって今出てしまえば確実に死が待っているだろう。持久戦だ、そう自分に言い込ませて、望美は粘った。もしかすれば――もしかすれば、いつか事態は急転するかもしれない。ノミどもが場所を移動するかもしれないし、誰かが救助にきてくれるかもしれない。きっと自衛隊などが動いているだろう、そう望美は思いたかった。
 ドンドンドン!! 店の入口のドアが叩かれる音がした。自動ドアの硝子を必死になって叩く男の姿が見えた。店に残ったのが自分ひとりになったときに、望美は店のドアをロックして、商品を陳列する棚でバリケードを作ったのだ。
「おおおおおい!! 助けてくれ!! 中に入れてくれぇぇぇえええええ!!!!」
 男の悲痛な叫びが望美の耳に届いた。しかし今開けてしまったらやつらまでなだれ込んで来るかもしれない。――ドアは決して開けられなかった。
「おい!! 頼むから入れてくれ!! お願いだ!!」
 望美は両手で耳を塞いだ。
 ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。
 どうか許してください――望美は男に背を向け、何も見ていないというようにうずくまっていた。
「おおおおおい!! お願いだ――…」
 ヂュウウウウウウウウウウウ!!
 どうやら男は捕らえられ、あの気色悪い口で、全身の血をくまなく吸い取られてしまったようだ。望美はノミの化け物に見つからぬよう、棚の陰にひっそりと身を隠した。
 ――絶対にあんな死に方は嫌だ!!
 その思いに涙が頬を伝った。

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DATE: 2010/01/28(木)   CATEGORY: 雑記
黒夢。
奇妙な夢を見た。

半分は自分の記憶に拠るものだと思ったが、もう半分はどこから生まれたのか不明。
エロチックで、ホラーでエイリアンで、何だかスピーシーズみたいだなって目が覚めてから思った。

それからやたら洪水ちっく。何故にあんなに水が溢れてきていたのか。

とりあえずスピーシーズ観たくなった。
シリーズ制覇してやるぜ!という勢いで今非常に観たい。

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DATE: 2010/01/28(木)   CATEGORY: 雑記
Q、散リユク僕ラ。
昨夜は久々に友人Sと会った。会おうと言っていて、延期されていた。
モスで昼を食べ、なぜかSはオーダーと違うものが出てきた(それに気付いた彼はレジに向かったら知り合い(の母)が店員だったらしく「S君?」と声をかけられていた)。その後はカラオケ。CROSSOが空いていなくて、テンション下降(主に俺の)。数時間歌う。そしてSと今後のことを話し合った。しかし問題は解決せず、我々の将来はとても不確かで、将来どころが現在もふわふわと海月のように揺らいでいて、妥協はしたくないけれど、それほどの情熱も持っていなくて、まるで思春期のように思い悩み、何がしたいのかわからないという結論で終わった。議題がそのまま結論になってしまったというから本当に一回りしただけで何も解決しなかったわけだけれども。

僕らのクエスチョンの答えはいつ出るのだろうか。

いつだって気付くのが遅くて、残るのは不安と焦燥。
Qに対するAがなくて、問題を前にして逃避して、しかし逃げ延びるのは無理で、どこかで現実が視界に入り込む。

自分たちが甘いってことはわかりきっていて、だからといって答えは出なくて、しかし甘えきってやろうとまでは思えない。色々なものに甘えている自分、しかし甘えたいわけではなくて、だけど甘えるしか出来ていない現状に苛立つ。自分自身に辟易。

逃げ切る勇気もなくて、向かい合う根性もないということなのかもしれないが。

いっそすべてを終わらせれたらな、いっそすべてを辞めれたらな。
自問自答の日々。終わらない問いかけ。見つからない答え。それなりに何とかやっていけない自分。ぐるぐるぐる。

ストレスで髪抜けそうって友人Tに言ったら、「少しくらいいいじゃん。フサフサなんだし」って言われた。
ごめん、T。君の毛髪のことは全然関係ないんだ。その、君がそんなにも自分の毛髪のことを気にしていたなんて。

ちなみにSはストレスで体に発疹が。

俺ってそんなストレスに参ってるわけじゃないんだな、って思う。
何もかも中途半端。ははは。
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DATE: 2010/01/27(水)   CATEGORY: MUKURO・地獄篇
MUKURO・地獄篇‐4 (安生 三貴彦)
 目の前に現れたのはイソギンチャクのような形状をした半透明の化け物。
 それは毒々しい紫色をしていた。ボディが透けて、わずかに向こう側が見える。まるでゼリーみたいな体だ。
 イソギンチャクの化け物の体内には、人間とおぼしき物体が収められていた。一見して男だとわかるが、その顔まではよくわからない。
 それもそのはず、男の顔は半分溶けてしまっていたのだ。
 あのうねうねと動く触手で男を捕まえたのだろうか? と詩帆は思った。そしてあのゼリー状の体に吸収されてしまうのか。
 考えるだけで寒気がした。即刻この場を立ち去った方が賢明だ。
「気持ち悪い」
 ふと口から滑り出た言葉だった。紫のイソギンチャクの姿が、溶けかけの男の姿が、この場を包み込む何ともいえぬ臭気が、そのどれもが気持ち悪く、吐き気を催すほどだった。
「キモチワルイ」
 オウム返し。
「キモチワルイ!! キモチワルイ!!――ッテナンダ?」
 忘れていた存在。背後に付きまとう黒いオウム。
 それが詩帆の言葉を反芻するように、叫んだ。
「しっ 静かにして!」
「シズカニシテ――ッテナンダ?」再度オウム返し。「シズカニシテ!! シズカニシテ!!――ッテナンダ?」
 構内に残響する言葉。詩帆の体中から嫌な汗が吹き出た。
 ゆっくりと振り返ると、イソギンチャクの紫色のいやらしい触手が彼女の方を向いていた。
「やばい!!」
 詩帆は全力で走り出した。とりあえず駅から出よう! このままでは自分も殺される!
「ヤバイ!! ヤバイ!!――ッテナンダ?」
 オウムが言葉を繰り返しながら付いてくる。しかし今はそんなことどうでもいい。この場から逃げられれば、他は何でもいいのだ。
「おい、こっちだ!!」
 急に声が聞こえた。駅の出口の先に、誰かが立っている。「早く!! 乗れ!!」
 男は背後に停まっていた車に乗り込んだ。後部座席のドアが開いており、そこを目指して詩帆は全身全霊で駆け抜けた。
 まるで野球のヘッドスライディングのような飛び込みで後部座席に滑り込んだ。
「車を出すぞ!」
 力強くアクセルが踏み込まれ、ランドクルーザーは発進した。街中どこも荒れ果てた悪路だが、それでもパワフルにそれらを乗り越えて、車は直進を続けた。――どうにか助かったようだ。
「大丈夫?」
 運転席から発せられた声は低く、優しかった。
「はい。――もう何がなんだかわからなくて、わたし混乱しちゃって」
「当然だよ。急に街中が悪魔の棲み処になってしまったかのように、化け物どもが現れ、人を襲い、まるでここは地獄だ。誰もが何が起きたかなんてわかっていない。この理解の範疇を超えた状況にパニックしてる。何もわからなくて、当然だよ。俺だって何がなんだかさっぱりわからない」
 落ち着きがあるその声は頼もしく、わずかながら詩帆を安心させた。男は安生 三貴彦と言った。山登りが趣味の、フリーのライターだった。以前は山岳誌の編集部に勤めていたこともあるようだが、数年前にそれを辞め、しばらくは自由気ままに全国を回り、世界を回り、好き好きに山を登っていたらしい。
「これから、どこへ行くんですか?」
「わからない。この異常事態は、どの程度の範囲で起こっているのだろう。この街でだけなのか、国規模なのか、それとも世界中で起こっているのか。TVもラジオも、携帯電話も何もかもが使えなくなっている。どうにかして、もっと情報が欲しいと俺は思ってる。――ちょっと知り合いのところを訪ねてみようかと思うんだけど、君も一緒に行くかい?」
 またひとりになるということなんて、考えたくもなかった。「お邪魔でなければ」
「ただ、アイツが生きていればいいんだけどな」
 その一言は、詩帆の意識を少し現実に戻させた。――そういえばお母さんはどうしているだろう? お父さんはどうしているだろう? 弟は? 友達は? 今この状況で誰もが死んでいる可能性があるのだ。自分の周りだけが生き延びているなんて、楽観的なことは考えていられないほど、今置かれている状況は深刻なのだ。
「あの、家族のことが心配なんですけど……」
「――ん? ああ、そうだろうね。俺の用が済んだら、君の家まで送ってあげるよ」
「ありがとうございます」
「それにしても疲れたろ? 着くまで眠っていたらいい。何かあったら起こすから」
 気が昂っているせいもあり全然眠くはなかったが、確かに疲れてはいた。今まで感じたことがない疲労感。詩帆は少しでも休めればと瞼を下ろした。彼女の予想とは裏腹に、すぐに睡魔は彼女を夢へと誘った。


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DATE: 2010/01/26(火)   CATEGORY: 雑記
心の中はザザ降り、ザザ鳴り。
凄くショックなことがあった。
敬愛するミステリー作家、北森 鴻さんが心不全で亡くなられたらしい。

北森 鴻さんは比較的最近読むようになった作家だったのだけれど、文章の読みやすさ、引き込まれる構成、魅力的なキャラクターと三拍子揃った小説を書く作家で、冬狐堂シリーズや蓮杖那智フィールドファイルシリーズなどは古美術や民俗学について深い造詣があり、とても好みの作品が多い作家だった。
48とまだ若く、今後もたくさんの作品を生み出ていくだろうと期待していた作家だったのだが、亡くなられて非常に残念に思う。本当に。

昨年の栗本 薫さんもショックだったけど、栗本さんはすでに癌との闘病があったし、北森鴻は突然過ぎてショックは大きい。ああ、マジかよ。
最近は訃報が多い。作家に限らず、たとえば音楽界とか。まだ若いのに亡くなられている方多いなぁ。

北森鴻さんのご冥福を祈ります。
本当に面白い小説に出会わせてもらいました。憧れもありました。ありがとうございます。

まだ読んでいない本も多いので、これからもゆっくり読んでいこうと思う。
北森さんはもう亡くなられたけれど、そこから生まれた作品たちには今後もお世話になっていきます。

こうなると益々、夢枕獏さんのシリーズは完結するのか不安。
あー、どうか健康だけは、健康だけは気をつけて、長生きしてください。

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DATE: 2010/01/25(月)   CATEGORY: MUKURO・地獄篇
MUKURO・地獄篇‐3 (地震)
 ベッドの揺れを感じて、檜山 詩帆は目を覚ました。
「なっ なに?」
 地震だろうか? 眠っているときは確かに揺れを感じたのだが、目を覚ました今は何も感じない。それともあれは夢だったのか。詩帆は何とも言えぬもやもやとした感情に体を包まれ、どうにもすっきりしなかった。
 次の瞬間。
 ゴゴゴゴ…、と大きな音とともに激しい揺れが起こった。まるで大巨人に揺さぶられるように部屋が揺れ、次々と物が倒れた。あまりの恐怖に詩帆は布団に潜った。
 地震は長く続いた。しかしそのうち激しかったのは最初の1分足らずで、その後小さな揺れが十数分続いた。ニュース番組を観ようとTVを点けたのだが、そのには何も映し出されず、ただただ砂嵐は吹き荒れるばかりだった。ザザ、ザザ、ザザ――
 誰かに状況を聞こうと思い、携帯電話を開いたが、結局誰にかけても繋がらなかった。一体何がどうなっているというのか。
 不意に、外で物凄い音が聞こえたので窓を覗いた。すると詩帆の住んでいるアパートが浮いていた。――何が起きているのか!?
 巨人。詩帆のその瞳に映ったのは、巨人。巨人がアパートを持ち上げている。ふと、修学旅行で行った奈良の大仏を連想したが、別段似ているわけでもなかった。しかし、全く似ていないわけでもない。そして何となくアラスカの神のようなものも連想した。
 巨人がアパートの中を順序に覗いているのを見て、詩帆はカーテンを閉めて布団に包まった。もし見つかってしまったそのときは――どうなってしまうのだろう?
「ああ、どうしよう? どうしたらいいの?」
 今まで感じたことのないほど大きな恐怖。理解を超えた存在に、現状に、恐怖で泣き叫ぶなど少しもふさわしくなかった。あまりに常軌を逸していて、むしろ恐怖による混乱と現実味のない冷静さが同居していた。「死にたくない」。詩帆は そう呟いた。
「シニタクナイ――シニタクナイ?」
 言葉が反復した。しかし詩帆の声ではない。
「えっ?」
 身近で聞こえた声に、詩帆は布団から頭を出して部屋を見た。
 そこには、黒い羽をした、オウムのような鳥が佇んでいた。大きな嘴(くちばし)。生気のない眼。「シニタクナイ?」
 悲鳴を上げるところだった。しかしそれをあと一歩のところで呑み込んで、眼前のオウムをよく見た。――いつの間にここに?
「シニタクナイ――ッテナンダ?」
 首を傾げるオウムの姿は、本当に言葉の意味を考えているように見えた。実際はどうなのだろう? そう考えているうちに震動とともにドンという音が耳に響いた。
「もしかして!!」
 詩帆はカーテンの隙間から外の様子を窺った。地上だ。どうやら巨人から解放されたらしい。詩帆は急いで着替えて外に出た。
「モシカシテ!!――ッテナンダ?」
 黒いオウムがあとをついてきていた。特に害はないので追い払うような真似はしなかったが、一般的なそれより倍は大きいので目立つのが気になった。どこに行ってしまったのか、巨人の姿は見当たらない。
 街は荒れ果てていた。アスファルトが割れ、断層のようになっている箇所もあった。
 あの揺れは巨人のものかと思っていたが、実際に地震は起きていたようである。
「ああああああああああああ!!!!」
 男の叫び声が響いた。
 駅の構内からだった。悲鳴は反響して、詩帆の耳に否応なく忍び込む。
 ――怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!!
 一体、そこでは何が起きているのか。
 確かめたいが、それを上回る恐れ。恐怖心。
「す、少しだけ覗いて、無理なら逃げよう…」
 意を決して、詩帆は駅の構内へ静かに忍び入った。

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DATE: 2010/01/23(土)   CATEGORY: MUKURO・地獄篇
MUKURO・地獄篇‐2 (浮遊魚)
 柳瀬 隆は朝起きて、信じられぬものを目にした。カーテンを開け、窓の外に目を遣ると、そこには一匹の魚が浮遊していた。
「――な!!」
 もちろんそこに水があるわけではなく、彼の部屋は2階で、目の前の魚は何とも生々しく、まさか偽物だとも、何か仕掛けがあるようにも見えなかった。まるでそこが海の中であるかのように、それは悠々自適に泳いでいたのである。
 彼は恐るおそる、ゆっくりと窓を開けてみた。もしかすると気付けば水中に自分はいた、などという血迷った幻想を本気にしてしまいそうだった。しかし窓硝子が隔てていたものは室内の澱んだ空気と冷たい外気だけだった。新鮮な空気が部屋に入り込むのを柳瀬は頬を撫ぜるわずかな風で感じた。
 一体、何なのだ――?
 内に湧き出る不可解な疑問。それを嘲笑うかのように魚が部屋に入り込んできた。別段人間を恐れるわけでもなく、そこらの石と変わらぬくらいに見ているのかもしれない。
 柳瀬はその魚に触れてみようと思った。逃げられぬよう、ゆっくりと近付いて、その背後に忍び寄った。そっと手を伸ばし、その指先に神経を集中させた。
 ――バクン。
 浮遊する不思議な魚に柳瀬が触れるその直前。目の前の魚は、新たに現れた魚に一呑みされてしまった。最初に見たのは、名前はわからなくとも、漠然と魚をイメージしたときに脳裏に描かれるような、そんな普遍さも伴った形(デザイン)の魚だった。それに対して新たな浮遊魚は、ウツボやアナゴのように細長く、緑色の眼を持ち、攻撃的な牙のある口をしていた。どことなくグロテスクな印象は、柳瀬に深海魚を連想させた。
 ギザギザの牙の隙間から赤いものが漏れ出した。喰われた魚の血だということはすぐにわかったが、その血はふわふわとゆるやかに宙を漂って、水中ではない水中のような空間に柳瀬は順応し始めていた。――この魚たちにとってここは水中も同然なのか。
 しかし目の前の深海魚は自分のことを認識しているのだろうか。そう思ったそのとき、ぼんやりと発光する緑の双眸に、柳瀬は見られた気がした。視線が絡み合う。宙を浮く魚と目が合うなどと何とも奇妙な心地ではあるが、他の魚を一呑みしてしまう姿、その攻撃的なヴィジュアルに、脂汗が滲み出た。
 息を呑み、深海魚の様子を窺っていたのだが、魚は急に部屋を飛び出して、どこかへと行ってしまった。柳瀬は思わず脱力して、その場に座り込んだ。すると突然夜になったかのように部屋が暗くなった。
「……なんだ?」
 窓の外には、巨大な魚が回遊していた。今までの魚は一般的なサイズだったのだが、今度のやつはおそろしく巨大だった。鯨ほどあるかというくらいの巨体。しかしその姿は鯨ではなく、ごく一部しか見えないのだがどことなくマグロに似ていた。
 息を殺して、窓のカーテンを閉めた。もうどうすればいいのかわからない。何もかもが理解を超えていた。街はどうなっているのだろう? 他の人はどうしているのだろう? 柳瀬の思考がぐるぐると巡る。
 ズズ…と床が動いた気がした。驚いてヒッと小さく悲鳴を漏らし、その床をよく見てみると、暗がりの中で眼のようなものが爛と光った。それはカレイかヒラメのような姿をした魚だった。柳瀬にはカレイとヒラメの違いがいまいちわからなかったが。
「うわっ!」
 床を這う薄平な魚が、シャッと牙を見せて飛びついてきた。柳瀬は噛まれた痛みにしゃがみ込むと、右足の親指が失くなっていた。ちょっと噛まれたくらいだと思っていただけに、柳瀬は驚きで言葉を失った。そしてじわじわと恐怖が忍び寄る。
「うわああああああああああああ!!」
 奇声を発しながら柳瀬は走った。ニュッと魚があとを追う。柳瀬は手当たり次第に物を投げるが、するりと避けて魚は追った。柳瀬の頬に涙が伝う。もう助からない――彼はそう確信した。
「あああああああああ――!!」
 ゴルフクラブが入ったバッグにぶつかった。ふと目に入ったアイアンを掴んで、全力で振り下ろした。それが魚の頭部に見事命中して、ぐちゃりと肉が潰れる音が耳に届いた。もう一度アイアンを振り下ろした。ぐちゃり。もう一度。ぐちゃり。もう一度もう一度もう一度もう一度もう一度……。繰り返し繰り返しアイアンを振り下ろし続けた。気付けば目の前には原型のなくなった、もはやグロテスクな肉の塊が床に落ちているだけだった。


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DATE: 2010/01/21(木)   CATEGORY: MUKURO・地獄篇
MUKURO・地獄篇‐1 (異変)

 それは何の前触れもなく、しかし予定されていたかのように当然のように、突如訪れた。




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DATE: 2010/01/13(水)   CATEGORY: 雑記
孤独のコ!!
コミュニケーションが苦手で友達が作れない人がいっぱい出るマンガを読んで、自分と重なる部分が多々あり、ていうかこれは俺だ!! と思い、かなりダウナー効果が発揮されました。
マンガだからそんな人でも友達出来るけど、現実はそうもいかないんだからねっ!!(泣)

そもそもキャラクターがカッコイイし、可愛いし、ちょっと変われば人気者じゃないか。

フィクションなんて、所詮フィクションだいっ!!





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