迷い娘と放蕩息子(その2/思春期娘と料理好き男)
違和感。本来はこの部屋に、いるはずのない、少女。
それが今どうしたことか自分の目の前に存在しているという、違和。それを智樹は感じていた。
「名前は?」
智樹は自分の部屋に連れ込んだ、もとい一時保護した少女に今さらながら名前を訊ねた。
「小夏。岩井 小夏」
「コナツ? それ、どういう字?」
「小さい夏って書いて小夏」
「ア・リトル・サマー?」
「ア・リトル・サマー」
なぜかとても本格的な発音で、「ア・リトル・サマー」を言い合う2人。第三者から見れば、おかしなことこのうえない。
「んー、で、ア・リトル・サマーはどこに住んでんの?」
「あたしの名前はア・リトル・サマーじゃなく小夏です。ア・リトル・サマーと書いて小夏だけど、ア・リトル・サマーではないです」
「わかった次から気をつけよう。ところで住所は?」
「そんなことよりお腹が空きました」
「急に図々しくなったな」智樹の家に着くまでに2人の中はだいぶ縮まったようだ。「仕方ない。とりあえずメシだな」
智樹は立ち上がり、キッチンへと向かった。
それに小夏がぴょこりとついていく。
「作るの?」
「うん。作るの」
「作れるの?」
「まあ、作れるよ」
「本当に?」
「本当に」
「おいしい?」
「それなりに」智樹は買ってきた豚肉ともやしを取り出した。「…たぶん」
「なに作るの?」
「もやし炒め。正確にはもやしと豚肉炒め」
「ふーん」
「とりあえず邪魔だからあっち行け。テレビでも観てなさい」
小夏がリビングへと向かっていくのを見届けると、智樹は料理を始めた。
「ジャジャーン」
智樹自慢のもやし炒めが大きな皿に載って小夏の前に現れた。
「ジャジャーン、て…」
「なんだよ、最近の10代はドライだなぁ。つーか中学生で合ってる?」
「うん。中二」
「中二かー。つーことは、えっと、12歳?」
「全然違う。先週で14歳」
「そうか、14歳か」
「計算できないの?」
「いや、ケアレスミスってやつ?」
「ありえない…」
「そう言うなよ、少女」
「早く食べないと冷めちゃいますよ?」
「ああ、そうだな。うん、食べようか」
もやし炒めと白いご飯を前に、2人は一緒に「いただきまーす」と手を合わせた。
満腹になった2人は同時にごろんと寝転がった。
まるで長年一緒に暮らしてきた兄と妹のような光景だ。
「どうだった?」
「……おいしかったです」
「なに? もっと大きな声で言えよ」
「おいしかったです」それを認めたくない様子の小夏。「意外にも」
「少しだけ余計だ」
「だって、まさかおいしいなんて誰が思うんですか?」
「段々と憎たらしいやつになってきたな」
「それこそ余計なお世話です」
「俺のお世話になっておいて何を言う」
「………」
「なあ、お前の家、どこなんだ?」
「秘密です」
「秘密ってなんだよ」
「レディーにはつきものなんです」
「レディーって歳かよ」
「それ失礼ですよ。乙女の心が傷付きました」
「乙女は許そう」
「それはどうもありがとうございます」
「では、あなたの住所はどこかな?」
「しつこいと女の子に嫌われますよ」
「でも家はあるみたいだな。『ない』から『秘密』になったんだから」
「これは尋問ですか?」
「答えないと拷問に変わるぞ?」
「……ヘンタイ」
「今変なことを想像したお前が変態だ」
「それがわかるのもヘンタイですね」
「そうかもな」
「ところで名前、なんていうんですか?」
「あれ? 教えてなかったか? 俺の名前は新藤 智明。新藤のシンは新しいで、ドウは工藤や伊藤と一緒。智明は『知る』に『日』って書いて智に明るいで明」
「ところで、智明さんは彼女いるんですか?」
「…唐突だな。どうして今日知り合った少女にそんなことを教えなきゃならないんだ」
「彼女がいるなら安心だけど、彼女いない歴イコール人生のような日々悶々ムラムラしている男だったらあたしの身が心配だから、です」
「思春期め。そうとう最初と印象が違うぞ」
「第一印象なんてほとんどの場合、役になんて立たないものですよ」
「13歳が言うねぇ」
「14歳です」
「そうだった」
「でも彼女いるかと思った」
「どうして?」
「キッチンにお酢があったから」
「それまた古風な理由だな」
「歳を召しているので、合わせてあげたんです」
「それは光栄ですな。俺は料理が趣味なんだよ」
「あら、女々しいんですね」
「それは褒め言葉じゃないぞ」
「あら、ごめんなさい」
「その言い方は勘にさわる。やめなさい」
「はーい。保護者ぶっちゃって」
「おい、聞こえてるぞ。――今は臨時の保護者みたいなもんだ。お前が家の住所を教えてくれるなら別だが」
「お風呂入りたいです」
「……は?」
「お風呂に入りたいです」
「あー、帰って入ったら?」
「今からじゃ帰れません」
「家どこだよ」
「岩手」
「………は!?」
「これでお風呂入っていいですか?」
「つーか岩手? 岩手なの? 東北の? マジで言ってる?」
「マジです。大マジです」
「…マジかよ。あー、わかった。えっと、じゃあ、家の電話番号教え――」
「お風呂は?」
「OK。そんなに強情張るならとりあえず風呂場に行って来い。ただしシャワーだけでいいよな?」
「仕方ないですね」
「ご理解いただけてよかったです」智樹は起き上がった。「着替え、いるよな? 大きいと思うけど、俺のTシャツとジャージ貸してやるよ」
「うん」
「男物でいいならパンツもあるけどな」
「ヘンタイ」
「冗談だって」
「でも、それでいいです」
「――え?」
「パンツも貸してください」
「え、いや、俺は全然構わないんだけど、本当にそれでいいのか?」
「いいから貸してください」
「わかった。お前、変なやつだな」
「智樹さんには負けると思いますよ」
「はいはい」
智樹はバスタオルと着替え一式を小夏に渡して、彼女を風呂場まで案内した。
そしてリビングに戻り、ベッドに倒れ込んだ。「マジで疲れた…。これからどうしよう?」
それが今どうしたことか自分の目の前に存在しているという、違和。それを智樹は感じていた。
「名前は?」
智樹は自分の部屋に連れ込んだ、もとい一時保護した少女に今さらながら名前を訊ねた。
「小夏。岩井 小夏」
「コナツ? それ、どういう字?」
「小さい夏って書いて小夏」
「ア・リトル・サマー?」
「ア・リトル・サマー」
なぜかとても本格的な発音で、「ア・リトル・サマー」を言い合う2人。第三者から見れば、おかしなことこのうえない。
「んー、で、ア・リトル・サマーはどこに住んでんの?」
「あたしの名前はア・リトル・サマーじゃなく小夏です。ア・リトル・サマーと書いて小夏だけど、ア・リトル・サマーではないです」
「わかった次から気をつけよう。ところで住所は?」
「そんなことよりお腹が空きました」
「急に図々しくなったな」智樹の家に着くまでに2人の中はだいぶ縮まったようだ。「仕方ない。とりあえずメシだな」
智樹は立ち上がり、キッチンへと向かった。
それに小夏がぴょこりとついていく。
「作るの?」
「うん。作るの」
「作れるの?」
「まあ、作れるよ」
「本当に?」
「本当に」
「おいしい?」
「それなりに」智樹は買ってきた豚肉ともやしを取り出した。「…たぶん」
「なに作るの?」
「もやし炒め。正確にはもやしと豚肉炒め」
「ふーん」
「とりあえず邪魔だからあっち行け。テレビでも観てなさい」
小夏がリビングへと向かっていくのを見届けると、智樹は料理を始めた。
「ジャジャーン」
智樹自慢のもやし炒めが大きな皿に載って小夏の前に現れた。
「ジャジャーン、て…」
「なんだよ、最近の10代はドライだなぁ。つーか中学生で合ってる?」
「うん。中二」
「中二かー。つーことは、えっと、12歳?」
「全然違う。先週で14歳」
「そうか、14歳か」
「計算できないの?」
「いや、ケアレスミスってやつ?」
「ありえない…」
「そう言うなよ、少女」
「早く食べないと冷めちゃいますよ?」
「ああ、そうだな。うん、食べようか」
もやし炒めと白いご飯を前に、2人は一緒に「いただきまーす」と手を合わせた。
満腹になった2人は同時にごろんと寝転がった。
まるで長年一緒に暮らしてきた兄と妹のような光景だ。
「どうだった?」
「……おいしかったです」
「なに? もっと大きな声で言えよ」
「おいしかったです」それを認めたくない様子の小夏。「意外にも」
「少しだけ余計だ」
「だって、まさかおいしいなんて誰が思うんですか?」
「段々と憎たらしいやつになってきたな」
「それこそ余計なお世話です」
「俺のお世話になっておいて何を言う」
「………」
「なあ、お前の家、どこなんだ?」
「秘密です」
「秘密ってなんだよ」
「レディーにはつきものなんです」
「レディーって歳かよ」
「それ失礼ですよ。乙女の心が傷付きました」
「乙女は許そう」
「それはどうもありがとうございます」
「では、あなたの住所はどこかな?」
「しつこいと女の子に嫌われますよ」
「でも家はあるみたいだな。『ない』から『秘密』になったんだから」
「これは尋問ですか?」
「答えないと拷問に変わるぞ?」
「……ヘンタイ」
「今変なことを想像したお前が変態だ」
「それがわかるのもヘンタイですね」
「そうかもな」
「ところで名前、なんていうんですか?」
「あれ? 教えてなかったか? 俺の名前は新藤 智明。新藤のシンは新しいで、ドウは工藤や伊藤と一緒。智明は『知る』に『日』って書いて智に明るいで明」
「ところで、智明さんは彼女いるんですか?」
「…唐突だな。どうして今日知り合った少女にそんなことを教えなきゃならないんだ」
「彼女がいるなら安心だけど、彼女いない歴イコール人生のような日々悶々ムラムラしている男だったらあたしの身が心配だから、です」
「思春期め。そうとう最初と印象が違うぞ」
「第一印象なんてほとんどの場合、役になんて立たないものですよ」
「13歳が言うねぇ」
「14歳です」
「そうだった」
「でも彼女いるかと思った」
「どうして?」
「キッチンにお酢があったから」
「それまた古風な理由だな」
「歳を召しているので、合わせてあげたんです」
「それは光栄ですな。俺は料理が趣味なんだよ」
「あら、女々しいんですね」
「それは褒め言葉じゃないぞ」
「あら、ごめんなさい」
「その言い方は勘にさわる。やめなさい」
「はーい。保護者ぶっちゃって」
「おい、聞こえてるぞ。――今は臨時の保護者みたいなもんだ。お前が家の住所を教えてくれるなら別だが」
「お風呂入りたいです」
「……は?」
「お風呂に入りたいです」
「あー、帰って入ったら?」
「今からじゃ帰れません」
「家どこだよ」
「岩手」
「………は!?」
「これでお風呂入っていいですか?」
「つーか岩手? 岩手なの? 東北の? マジで言ってる?」
「マジです。大マジです」
「…マジかよ。あー、わかった。えっと、じゃあ、家の電話番号教え――」
「お風呂は?」
「OK。そんなに強情張るならとりあえず風呂場に行って来い。ただしシャワーだけでいいよな?」
「仕方ないですね」
「ご理解いただけてよかったです」智樹は起き上がった。「着替え、いるよな? 大きいと思うけど、俺のTシャツとジャージ貸してやるよ」
「うん」
「男物でいいならパンツもあるけどな」
「ヘンタイ」
「冗談だって」
「でも、それでいいです」
「――え?」
「パンツも貸してください」
「え、いや、俺は全然構わないんだけど、本当にそれでいいのか?」
「いいから貸してください」
「わかった。お前、変なやつだな」
「智樹さんには負けると思いますよ」
「はいはい」
智樹はバスタオルと着替え一式を小夏に渡して、彼女を風呂場まで案内した。
そしてリビングに戻り、ベッドに倒れ込んだ。「マジで疲れた…。これからどうしよう?」
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迷い娘と放蕩息子(その1/家なき子と猫舌男)
もういやだ――その思いが爆発する。
何もわかってもらえないなら、ここに居場所がないなら、もうこんなところにいられない。
走った。ただ走った。目的地はわからない。行けるとこまで行こう。
どこか、遠いところへ。
***
スーパーで今晩の食材を買った新藤 智明はレジ袋をぶらさげながら空を見上げ歩いていた。白い月が浮かんでいる。最近は暗くなるのも早くなった。冬が近付いているな、と智明は思った。
視線を前方に戻すと、小さい女の子が視界に入った。メガネをかけた、中学生くらいの少女。その目は赤く、泣いているように見えた。
(――どうかしたのか?)
そう思ったや刹那、智明の体にドンという衝撃があった。そのままバランスを崩して後方に倒れていく――。
智明はスローモーションにその一瞬を感じていた。視界には、さっきの少女。驚いたような顔をして、こちらを見ている。
目を開けると月が見えた。ぽっかりと浮かぶ、月。白い。まるい。星も見え始めていた。
「――ああ」
やっとの思いで声を出した。それに特に意味はない。ただ、どうしようもなく動くのがしんどかった。後頭部にズキズキと痛みがする。――あれ? 俺後ろに倒れたんだっけ?
「だっ 大丈夫ですか!?」
声の方を見遣ると、そこにはメガネの少女が心配そうにこちらを覗きこんでいた。智樹は少女が誰か思い出そうとして、そして初めて会ったことを思い出した。
(そうか。倒れる前に見えたあの子か)
「ごめんなさいッ!」
唐突な、謝罪。「え? なにが?」
「あの、わたしがちゃんと前を見ていなかったばっかりに……、その、ぶつかってしまって……」
ああ、自分はこの子にぶつかられて倒れたのか――と智樹は思いながら身を起こした。「大丈夫。なんともないよ」
「でも、5分くらい気を失っていたみたいで…」
(――5分。マジか…)
智樹は自分の後頭部に触れてみた。ズキン、と痛む。見事なコブが出来ていた。
「あー、でもホント大丈夫だから。ちょっとぶつけたとこ痛むけど、ちゃんと生きてるみたいだし」
「本当にごめんなさい」
(――うっ。涙かよ、こんなところで泣かれても……俺が困るって……)
「全然大丈夫だから、さ? ほら、泣かないで。事故なら仕方ないし。それに俺もぼーっとしてたから、キミが悪いってわけじゃないよ、ホント」
どうしても泣き止まない少女。どうしたらいいかわからない智樹。近くを過ぎていく人たちは好奇の目を向けていった。
その視線をひしひしと感じた智樹は仕方なく、少女を連れて自動販売機の前まで行った。
「何か飲む? 好きなの押していいよ」
「いやっ、そのっ、大丈夫ですからっ」
泣いているせいで途切れ途切れに答える少女。
「大丈夫の意味がわからないって。じゃあ適当に選んじゃうぜ? ミルクティー飲める?」
少女がコクンと頷いたのを見届けて、智樹はミルクティーのボタンを2回押した。ガタン、ゴトン、という音が2回繰り返されてミルクティーの缶が吐き出された。
「ほら、飲みなよ。それ飲んで落ち着いて」
少女は素直にミルクティーを受け取って、それに口をつけた。
智樹もそれに倣ってプルトップを引き起こし、口をつける。――熱かった。
「うわっ、あちッ! キミ、よく飲めるなぁ。俺が猫舌なのもあるけど」
くくく、と堪えるような笑い声が聞こえた。
智樹が少女を見遣ると笑ってはいけないと思いつつ我慢できないでいる笑顔があった。
「そんな笑うなよ」
智樹も一緒になって笑った。
「もう泣いてないな? そんじゃ帰るか。キミ、家どこ?」
それを聞いた途端に少女は黙り込んでしまった。さきほどまでの笑顔は欠片も存在していない。何か都合の悪いことでもあるかのようだった。
「いや、ごめんごめん。知らない人に家教えるの怖いよな。最近は変な人も増えてるみたいだし」
飲み終わった空き缶を自販機横のゴミ箱に放る。「でも、こんな時間だし送るよ。ちゃんとご両親にも会うし、住所聞き出して何かしようなんて考えてないから。キミとのこと説明しないといけないしね」
「……ない」
か細い声だった。
「え?」
「家なんてない」
「は?」
(これが噂の家なき子!?って古いか。――じゃなくて! え? つまり、まさか、この子って……家出?)
「それってどういう……?」
「あたしに家なんかないのッ!」
「あー、じゃあ、これからどこへ?」
「……わかんない」
「いや、わかんないって」
「だって決めてないんだもん」
「いや、決めてないって」
思ってもみなかった展開に動揺する智樹。
そのときどこかで、グゥ、と腹の虫が鳴いた。
「……お腹空いてる?」
「……うん」
少し考えて、というか悩んで、ズキズキ頭が痛む中どうにか思考を巡らして、智樹は仕方なくある結論に至った。
「本当に帰るとこない?」
「うん」
「…マジで帰る気ない?」
「家なんてないから」
「仕方ねーなぁ。俺ンち来る?」
沈黙。しばしの間。
若干の気まずい空気の中、やはり言うべきじゃなかったかと智樹は早くも後悔していた。
「でも……」
やっと破られた沈黙だが、少女はどうしようか悩んでいるらしい。それは智樹に警戒心を抱いているというよりも、そこまで世話になっていいものかと考えているふうだった。
「腹減ってるんだろ? とりあえず何か食べさせてやるから来いよ。キミの家のことはそれからにしよう!」
「……わかった」
こうして智樹はスーパーに買い物に行っただけなのに、後頭部には大きなコブを作って見知らぬ少女を家に連れ帰ることになったのだった。
何もわかってもらえないなら、ここに居場所がないなら、もうこんなところにいられない。
走った。ただ走った。目的地はわからない。行けるとこまで行こう。
どこか、遠いところへ。
***
スーパーで今晩の食材を買った新藤 智明はレジ袋をぶらさげながら空を見上げ歩いていた。白い月が浮かんでいる。最近は暗くなるのも早くなった。冬が近付いているな、と智明は思った。
視線を前方に戻すと、小さい女の子が視界に入った。メガネをかけた、中学生くらいの少女。その目は赤く、泣いているように見えた。
(――どうかしたのか?)
そう思ったや刹那、智明の体にドンという衝撃があった。そのままバランスを崩して後方に倒れていく――。
智明はスローモーションにその一瞬を感じていた。視界には、さっきの少女。驚いたような顔をして、こちらを見ている。
目を開けると月が見えた。ぽっかりと浮かぶ、月。白い。まるい。星も見え始めていた。
「――ああ」
やっとの思いで声を出した。それに特に意味はない。ただ、どうしようもなく動くのがしんどかった。後頭部にズキズキと痛みがする。――あれ? 俺後ろに倒れたんだっけ?
「だっ 大丈夫ですか!?」
声の方を見遣ると、そこにはメガネの少女が心配そうにこちらを覗きこんでいた。智樹は少女が誰か思い出そうとして、そして初めて会ったことを思い出した。
(そうか。倒れる前に見えたあの子か)
「ごめんなさいッ!」
唐突な、謝罪。「え? なにが?」
「あの、わたしがちゃんと前を見ていなかったばっかりに……、その、ぶつかってしまって……」
ああ、自分はこの子にぶつかられて倒れたのか――と智樹は思いながら身を起こした。「大丈夫。なんともないよ」
「でも、5分くらい気を失っていたみたいで…」
(――5分。マジか…)
智樹は自分の後頭部に触れてみた。ズキン、と痛む。見事なコブが出来ていた。
「あー、でもホント大丈夫だから。ちょっとぶつけたとこ痛むけど、ちゃんと生きてるみたいだし」
「本当にごめんなさい」
(――うっ。涙かよ、こんなところで泣かれても……俺が困るって……)
「全然大丈夫だから、さ? ほら、泣かないで。事故なら仕方ないし。それに俺もぼーっとしてたから、キミが悪いってわけじゃないよ、ホント」
どうしても泣き止まない少女。どうしたらいいかわからない智樹。近くを過ぎていく人たちは好奇の目を向けていった。
その視線をひしひしと感じた智樹は仕方なく、少女を連れて自動販売機の前まで行った。
「何か飲む? 好きなの押していいよ」
「いやっ、そのっ、大丈夫ですからっ」
泣いているせいで途切れ途切れに答える少女。
「大丈夫の意味がわからないって。じゃあ適当に選んじゃうぜ? ミルクティー飲める?」
少女がコクンと頷いたのを見届けて、智樹はミルクティーのボタンを2回押した。ガタン、ゴトン、という音が2回繰り返されてミルクティーの缶が吐き出された。
「ほら、飲みなよ。それ飲んで落ち着いて」
少女は素直にミルクティーを受け取って、それに口をつけた。
智樹もそれに倣ってプルトップを引き起こし、口をつける。――熱かった。
「うわっ、あちッ! キミ、よく飲めるなぁ。俺が猫舌なのもあるけど」
くくく、と堪えるような笑い声が聞こえた。
智樹が少女を見遣ると笑ってはいけないと思いつつ我慢できないでいる笑顔があった。
「そんな笑うなよ」
智樹も一緒になって笑った。
「もう泣いてないな? そんじゃ帰るか。キミ、家どこ?」
それを聞いた途端に少女は黙り込んでしまった。さきほどまでの笑顔は欠片も存在していない。何か都合の悪いことでもあるかのようだった。
「いや、ごめんごめん。知らない人に家教えるの怖いよな。最近は変な人も増えてるみたいだし」
飲み終わった空き缶を自販機横のゴミ箱に放る。「でも、こんな時間だし送るよ。ちゃんとご両親にも会うし、住所聞き出して何かしようなんて考えてないから。キミとのこと説明しないといけないしね」
「……ない」
か細い声だった。
「え?」
「家なんてない」
「は?」
(これが噂の家なき子!?って古いか。――じゃなくて! え? つまり、まさか、この子って……家出?)
「それってどういう……?」
「あたしに家なんかないのッ!」
「あー、じゃあ、これからどこへ?」
「……わかんない」
「いや、わかんないって」
「だって決めてないんだもん」
「いや、決めてないって」
思ってもみなかった展開に動揺する智樹。
そのときどこかで、グゥ、と腹の虫が鳴いた。
「……お腹空いてる?」
「……うん」
少し考えて、というか悩んで、ズキズキ頭が痛む中どうにか思考を巡らして、智樹は仕方なくある結論に至った。
「本当に帰るとこない?」
「うん」
「…マジで帰る気ない?」
「家なんてないから」
「仕方ねーなぁ。俺ンち来る?」
沈黙。しばしの間。
若干の気まずい空気の中、やはり言うべきじゃなかったかと智樹は早くも後悔していた。
「でも……」
やっと破られた沈黙だが、少女はどうしようか悩んでいるらしい。それは智樹に警戒心を抱いているというよりも、そこまで世話になっていいものかと考えているふうだった。
「腹減ってるんだろ? とりあえず何か食べさせてやるから来いよ。キミの家のことはそれからにしよう!」
「……わかった」
こうして智樹はスーパーに買い物に行っただけなのに、後頭部には大きなコブを作って見知らぬ少女を家に連れ帰ることになったのだった。
過ぎったストーリー/SF/トワイライトについて(のつぶやき)。
ふと、あるストーリーを思いついた。
でも書こうか悩むなぁ。少々薄っぺらい気も。
まぁ、暇潰し作品として書いてみるか。
来月あたりにはもう少し力を入れて小説書きたいなぁ。
…でもサラっと書いた作品の方が評価が良かったりもする。謎。
何が違うのか、あとで考えてみよう。
SF作品をまた書いてみたいけれど、書くのを目的にすると案外浮かばない。
とりあえず作品にすることは忘れて、アイディアが現れるのを待とう。もう何作品か書けばSFジャンルのコツを掴めるような気がする。ジャンルレスを掲げている俺としてはSFもたくさん書きたいなぁ。
目標はSF長篇!
SFに限らず、来年くらいには本格的な長篇を書いてみたいと思う。あくまで希望。
長篇を書くにはやはり緻密なプロットが必要なのだろうか? 書き方を変えてみるのもいいかも。
最近は他の物書きの人といろいろ話してみたいと思うことが多い。
皆さんはどういう感じで小説を書いているのか。気になるなぁ。もっと他人の考え方も知ってみたい。
なぜか周りには小説を書く才能がある人が多いので、少しは話を聞かせてもらってその技術を盗んでやりたい。へっへっへ。
とりあえず最近は少しだけ読書意欲が上がっている。
あー、最近は本当に本を読んでいなかったので久し振りに何冊か読みたい。SFも読みたい。ディックとかギブスンとか読みたい。久し振りにJM観たいなぁ。俺のSF原点でもある映画。
ああ、今の俺は小説と映画を欲している!!
そういえば「トワイライト ~初恋~」って映画の続編やるんだね(すでに公開している?)。
一作目のCM観た限りでは音楽がとてもカッコイイ(エヴァ・ネッセンスかと思ったが、よくわからない)こと以外は全く興味なかったのだけれど、どうも続編「トワイライト・サーガ ニュームーン」がアメリカで凄い人気らしい。ちょっと気になるからDVD借りて観てみようかなぁ? 誰か観たことある人いないだろうか。
あー、面白い小説が書きたい。
でも書こうか悩むなぁ。少々薄っぺらい気も。
まぁ、暇潰し作品として書いてみるか。
来月あたりにはもう少し力を入れて小説書きたいなぁ。
…でもサラっと書いた作品の方が評価が良かったりもする。謎。
何が違うのか、あとで考えてみよう。
SF作品をまた書いてみたいけれど、書くのを目的にすると案外浮かばない。
とりあえず作品にすることは忘れて、アイディアが現れるのを待とう。もう何作品か書けばSFジャンルのコツを掴めるような気がする。ジャンルレスを掲げている俺としてはSFもたくさん書きたいなぁ。
目標はSF長篇!
SFに限らず、来年くらいには本格的な長篇を書いてみたいと思う。あくまで希望。
長篇を書くにはやはり緻密なプロットが必要なのだろうか? 書き方を変えてみるのもいいかも。
最近は他の物書きの人といろいろ話してみたいと思うことが多い。
皆さんはどういう感じで小説を書いているのか。気になるなぁ。もっと他人の考え方も知ってみたい。
なぜか周りには小説を書く才能がある人が多いので、少しは話を聞かせてもらってその技術を盗んでやりたい。へっへっへ。
とりあえず最近は少しだけ読書意欲が上がっている。
あー、最近は本当に本を読んでいなかったので久し振りに何冊か読みたい。SFも読みたい。ディックとかギブスンとか読みたい。久し振りにJM観たいなぁ。俺のSF原点でもある映画。
ああ、今の俺は小説と映画を欲している!!
そういえば「トワイライト ~初恋~」って映画の続編やるんだね(すでに公開している?)。
一作目のCM観た限りでは音楽がとてもカッコイイ(エヴァ・ネッセンスかと思ったが、よくわからない)こと以外は全く興味なかったのだけれど、どうも続編「トワイライト・サーガ ニュームーン」がアメリカで凄い人気らしい。ちょっと気になるからDVD借りて観てみようかなぁ? 誰か観たことある人いないだろうか。
あー、面白い小説が書きたい。
コピー人間
ゴールデンウィークも残すところあと2日。五木 双と有川 都がこうして一緒にいられるのも明日までだった。
「双君、明日には帰っちゃうんだね」
都が寂しそうな表情で言った。
「ああ。ずっと一緒にいてあげたいけど、俺にも仕事があるし。残念だけど帰らないと」
双と都は遠距離恋愛だった。同じ大学ということで付き合い始めた2人だが、大学卒業後、都は地元の会社に就職し、科学者を目指していた双は本格的な研究をするため東京へと進んだ。それからもう3年。双が都を養えるようになったら一緒に暮らそうと言っているが、それはいつのことになるやら。本当は今すぐにでも都が今の仕事を辞め、双のところへ行きたいのと思っているのだが、現在は未曾有の大不況、そして就職難だった。少しばかり貯金があることはあるが、それが尽きるまでに仕事を見つけられる自信もなかった。
「うん、わかってる」
「アルフレッド・ベスターの小説みたいに、人間にはジョウントできる能力が備わっていればいいんだけどね」
「ジョウント?」
「つまりはテレポーテーションってことかな」
「へぇ~。それがあったら会いたいときにすぐに会えちゃうね! それか双君が2人いてくれればいいのに。仕事に行く双君とわたしと一緒にいてくれる双君」
「そうだね。――いや、待てよ?」
「どうしたの?」という都の問いにも答えず、双は慌てた様子で「ちょっと出掛けてくる」とだけ言い残し、去ってしまった。
***
「久し振りだな、双」
脂ぎった長髪を後ろで束ねた、薄汚れたといってもいい男が椅子にもたれかかっていた。
双はその男に近寄った。何日も風呂に入っていないのか、ひどく臭う。
「よう、マモー」
「変なあだ名で呼ぶな」
「別にいいじゃないか。お前の数少ない友人なんだから」
マモーはひどく濃いクマを従えた鋭い眼で、双のことを見遣った。「それで、何の用だ?」
「お前の研究の成果が知りたいんだ」双はゴクリと喉を鳴らした。「もし実験段階にあるのなら、俺を使ってくれないか?」
「……お前、正気か?」
「ああ。俺はマジだよ」
***
もう帰りの新幹線の時間まで数時間ほどだというのに、双は帰ってきていなかった。せっかく一緒にいられる貴重な時間だというのにどこへ行ってしまったのか。都は悲しいような苛立たしいような、いろいろな気持ちがないまぜになった落ち着かない心情で双を待っていた。
ガチャリ。玄関のドアが開いた音がした。
「やあ、都。ごめんごめん!」
「ごめんじゃないわよっ! 急にいなくなったりして、そのまま帰ってこないし! 心配だし不安だし一体何してたの!? せっかく一緒にいられる時間も、もうほとんどなくなっちゃったじゃん!!」
「それが…今日帰らなくてもよくなったんだ」
「――え?」
「ジャジャーン! って効果音も古いかな? 見てよ、俺がもうひとり!」
都は自分の目を疑った。確かにそこにいるのは2人の双。そっくりさんでも双子でもなく、まさしく瓜二つの、双のクローン人間でもあるかのような双がそこには立っていた。
「え? え? それってどういう? どっちが双君?」
「まぁ、どっちも俺なんだけど、ずっと都と一緒にいたのは俺の方かな」
「じゃあ、そっちのは?」
「俺のコピー」
「コピー? それってつまり、クローン人間ってこと?」
「惜しいけど、正確には違うかな? クローンって正確にはオリジナルとは違う存在だし、そもそも年齢に差が出ちゃうから。そうだな、これはコピー・クローンってところ?」
「いや、意味がわかんないよ」
「こいつは体はもちろん性格も全く同じなんだ。それどころが記憶も一緒。俺の友人に人間のコピーを作る研究をしているやつがいるんだけど――ちなみにそいつはコピーを作ることで人間は不死の存在になれるとかなんとか言って研究してるんだけど――そいつに力を貸してもらって自分のコピーを作っちゃった」
「えー!! なにそれ、信じられない…」
「うん。俺もちょっとこの現実が信じられないくらいだよ。まさか本当に成功するとは」
「じゃあ、双君は帰らなくていいの? これからはずっとわたしと一緒にいてくれるの?」
「ずっと一緒だよ。向こうの研究のことは、このコピー君に頼むことにしたから。何もかも同じなんだから研究には全く差し支えないし」
「そっか! 嬉しい!」
***
双と都が一緒に暮らし始めて1年が経った。双も地元で安月給ながら仕事を見つけ、2人で幸せな毎日を送っている。裕福な生活ができなくとも、それは2人にとっては些細なことのようだ。
ヴヴヴヴヴ……
双のケータイがヴァイヴした。誰だろう? 電話に出てみる。「もしもし?」
「…俺だけど」
「ああ、君か。研究の方はどう? はかどってる?」
「それは順調だよ。――ところで今まで何度かお願いしたけれど、たまには交代してくれいなかな? 研究はとても有意義だし、やりがいがあるのだけれど、俺もたまには都に会いたいよ」
「それだと君を作った意味がないじゃないか」
「でも――…」
「その話は今度にしよう。俺もこっちの仕事にやっと慣れてきたところなんだから。お前はこっちの仕事はやったことないだろ? せっかく給料も少し上がりそうなのに、何もかも未経験者がやったら台無しだろ? もう少し安定したら、機を見て交代しよう」
双は通話を切った。
***
「ただいまー」
「ああ、おかえり」
都は仕事から帰ってくるや否や双に抱きついた。「今日も疲れたー」
「はは、お疲れさま」
「…あれ? 双君、ゴハンの準備は?」
「え?」
「えー、今日は双君の番でしょー? 早く終わるからゴハン準備して待ってるよって言ったの双君じゃん。今夜は鍋だって楽しみにしてたのに――あっ! もしかして買い物にも行ってない?」
「あー……ごめん!! 今日はちょっといろいろあってすっかり忘れてた!! 今すぐ買ってくるよ!!」
「えー、だったら別にいいよ。じゃあ今日はどっかに食べに行こっか?」
「そうだね。ゴハン忘れてて本当にごめん」
「双君が何か忘れるって珍しいよねー。まぁ、許してやろう! その代わり双君の奢りで!」
「いいよ。何が食べたい?」
「おお、安月給のくせして安請負いしますなぁ~」
「今日は“いろいろ”あった代わりに、お金はあるんだ。今日の俺はいつもとは違うよ」
「じゃあ、贅沢しちゃうぞー?」
「仰せのままに」
都は双の腕を取って外に出た。そのとき彼の口元がにやりと歪んだが、それは誰も知らないことだった。
「双君、明日には帰っちゃうんだね」
都が寂しそうな表情で言った。
「ああ。ずっと一緒にいてあげたいけど、俺にも仕事があるし。残念だけど帰らないと」
双と都は遠距離恋愛だった。同じ大学ということで付き合い始めた2人だが、大学卒業後、都は地元の会社に就職し、科学者を目指していた双は本格的な研究をするため東京へと進んだ。それからもう3年。双が都を養えるようになったら一緒に暮らそうと言っているが、それはいつのことになるやら。本当は今すぐにでも都が今の仕事を辞め、双のところへ行きたいのと思っているのだが、現在は未曾有の大不況、そして就職難だった。少しばかり貯金があることはあるが、それが尽きるまでに仕事を見つけられる自信もなかった。
「うん、わかってる」
「アルフレッド・ベスターの小説みたいに、人間にはジョウントできる能力が備わっていればいいんだけどね」
「ジョウント?」
「つまりはテレポーテーションってことかな」
「へぇ~。それがあったら会いたいときにすぐに会えちゃうね! それか双君が2人いてくれればいいのに。仕事に行く双君とわたしと一緒にいてくれる双君」
「そうだね。――いや、待てよ?」
「どうしたの?」という都の問いにも答えず、双は慌てた様子で「ちょっと出掛けてくる」とだけ言い残し、去ってしまった。
***
「久し振りだな、双」
脂ぎった長髪を後ろで束ねた、薄汚れたといってもいい男が椅子にもたれかかっていた。
双はその男に近寄った。何日も風呂に入っていないのか、ひどく臭う。
「よう、マモー」
「変なあだ名で呼ぶな」
「別にいいじゃないか。お前の数少ない友人なんだから」
マモーはひどく濃いクマを従えた鋭い眼で、双のことを見遣った。「それで、何の用だ?」
「お前の研究の成果が知りたいんだ」双はゴクリと喉を鳴らした。「もし実験段階にあるのなら、俺を使ってくれないか?」
「……お前、正気か?」
「ああ。俺はマジだよ」
***
もう帰りの新幹線の時間まで数時間ほどだというのに、双は帰ってきていなかった。せっかく一緒にいられる貴重な時間だというのにどこへ行ってしまったのか。都は悲しいような苛立たしいような、いろいろな気持ちがないまぜになった落ち着かない心情で双を待っていた。
ガチャリ。玄関のドアが開いた音がした。
「やあ、都。ごめんごめん!」
「ごめんじゃないわよっ! 急にいなくなったりして、そのまま帰ってこないし! 心配だし不安だし一体何してたの!? せっかく一緒にいられる時間も、もうほとんどなくなっちゃったじゃん!!」
「それが…今日帰らなくてもよくなったんだ」
「――え?」
「ジャジャーン! って効果音も古いかな? 見てよ、俺がもうひとり!」
都は自分の目を疑った。確かにそこにいるのは2人の双。そっくりさんでも双子でもなく、まさしく瓜二つの、双のクローン人間でもあるかのような双がそこには立っていた。
「え? え? それってどういう? どっちが双君?」
「まぁ、どっちも俺なんだけど、ずっと都と一緒にいたのは俺の方かな」
「じゃあ、そっちのは?」
「俺のコピー」
「コピー? それってつまり、クローン人間ってこと?」
「惜しいけど、正確には違うかな? クローンって正確にはオリジナルとは違う存在だし、そもそも年齢に差が出ちゃうから。そうだな、これはコピー・クローンってところ?」
「いや、意味がわかんないよ」
「こいつは体はもちろん性格も全く同じなんだ。それどころが記憶も一緒。俺の友人に人間のコピーを作る研究をしているやつがいるんだけど――ちなみにそいつはコピーを作ることで人間は不死の存在になれるとかなんとか言って研究してるんだけど――そいつに力を貸してもらって自分のコピーを作っちゃった」
「えー!! なにそれ、信じられない…」
「うん。俺もちょっとこの現実が信じられないくらいだよ。まさか本当に成功するとは」
「じゃあ、双君は帰らなくていいの? これからはずっとわたしと一緒にいてくれるの?」
「ずっと一緒だよ。向こうの研究のことは、このコピー君に頼むことにしたから。何もかも同じなんだから研究には全く差し支えないし」
「そっか! 嬉しい!」
***
双と都が一緒に暮らし始めて1年が経った。双も地元で安月給ながら仕事を見つけ、2人で幸せな毎日を送っている。裕福な生活ができなくとも、それは2人にとっては些細なことのようだ。
ヴヴヴヴヴ……
双のケータイがヴァイヴした。誰だろう? 電話に出てみる。「もしもし?」
「…俺だけど」
「ああ、君か。研究の方はどう? はかどってる?」
「それは順調だよ。――ところで今まで何度かお願いしたけれど、たまには交代してくれいなかな? 研究はとても有意義だし、やりがいがあるのだけれど、俺もたまには都に会いたいよ」
「それだと君を作った意味がないじゃないか」
「でも――…」
「その話は今度にしよう。俺もこっちの仕事にやっと慣れてきたところなんだから。お前はこっちの仕事はやったことないだろ? せっかく給料も少し上がりそうなのに、何もかも未経験者がやったら台無しだろ? もう少し安定したら、機を見て交代しよう」
双は通話を切った。
***
「ただいまー」
「ああ、おかえり」
都は仕事から帰ってくるや否や双に抱きついた。「今日も疲れたー」
「はは、お疲れさま」
「…あれ? 双君、ゴハンの準備は?」
「え?」
「えー、今日は双君の番でしょー? 早く終わるからゴハン準備して待ってるよって言ったの双君じゃん。今夜は鍋だって楽しみにしてたのに――あっ! もしかして買い物にも行ってない?」
「あー……ごめん!! 今日はちょっといろいろあってすっかり忘れてた!! 今すぐ買ってくるよ!!」
「えー、だったら別にいいよ。じゃあ今日はどっかに食べに行こっか?」
「そうだね。ゴハン忘れてて本当にごめん」
「双君が何か忘れるって珍しいよねー。まぁ、許してやろう! その代わり双君の奢りで!」
「いいよ。何が食べたい?」
「おお、安月給のくせして安請負いしますなぁ~」
「今日は“いろいろ”あった代わりに、お金はあるんだ。今日の俺はいつもとは違うよ」
「じゃあ、贅沢しちゃうぞー?」
「仰せのままに」
都は双の腕を取って外に出た。そのとき彼の口元がにやりと歪んだが、それは誰も知らないことだった。
添付メール
ヴァイヴレーション。
震えるケータイのサブディスプレイを覗いてみると夏子だった。
『ただいまー。
仕事疲れたー。これからゴハンにする!
実はママからハンバーグと唐揚げをもらったのだ~♪』
メールを読むと諒二はグウ、と腹の虫が鳴いた。
『おかえり。
いいなー、俺も食べたいなぁ。
羨ましいぜ!』
自分もパスタでも茹でようか。
再びケータイが振動した。メール着信。
『じゃあ、送ってあげようか?
メールに添付するからちょっと待って~。』
現実世界の物体を情報化(サイバライズ)して電子物に変換するサイバティック・コンバートには少々時間がかかる。通称「取り込む」と呼ばれる対象物の解析にはハンバーグと唐揚げ程度ならば約3分ほどだろう。
『あ、じゃあ俺がそっち行けばよくない?』
夏子にメールをして、諒二はケータイに付属しているサイバライズ・レンズを自分に向け、サイバティック・コンバートを始めた。
***
夏子は諒二からメールをもらってから10分ほど待っていた。
突然ケータイが鳴る。この着信は諒二だった。
『添付ファイル有り』
夏子がそれを開くと、ケータイのサイバライズ・レンズから光線が放たれた。電子物に変換されたものを現実の物体に再変換することをリアライズという。リアライズはサイバライズに比べていくぶんか速く行われるので、諒二が再構築されるのもすぐだった。
徐々にカタチが構築されていく。まず諒二の頭が現れた。
ドンッ。
物が落ちる大きな音がした。
「夏子、久し振り」
諒二が気さくな声で言った。遠距離恋愛をしているふたりが会うのは2ヵ月ぶりだ。
「諒二…」
夏子はうまく声が出なかった。
「ごめん。容量オーバーしちゃったみたい」
夏子の目の前に現れた諒二の体は上半身だけだった。
添付ファイルの容量を超過してしまったせいで、中途半端に送信されてきてしまったようだ。
「だっ、大丈夫!?」
「うーん、とりあえず急いで送り返すか救急車呼んでくれる?」
諒二の体の断面からドクドクと流れる血液によって、夏子の部屋は赤く染められていくのだった。
震えるケータイのサブディスプレイを覗いてみると夏子だった。
『ただいまー。
仕事疲れたー。これからゴハンにする!
実はママからハンバーグと唐揚げをもらったのだ~♪』
メールを読むと諒二はグウ、と腹の虫が鳴いた。
『おかえり。
いいなー、俺も食べたいなぁ。
羨ましいぜ!』
自分もパスタでも茹でようか。
再びケータイが振動した。メール着信。
『じゃあ、送ってあげようか?
メールに添付するからちょっと待って~。』
現実世界の物体を情報化(サイバライズ)して電子物に変換するサイバティック・コンバートには少々時間がかかる。通称「取り込む」と呼ばれる対象物の解析にはハンバーグと唐揚げ程度ならば約3分ほどだろう。
『あ、じゃあ俺がそっち行けばよくない?』
夏子にメールをして、諒二はケータイに付属しているサイバライズ・レンズを自分に向け、サイバティック・コンバートを始めた。
***
夏子は諒二からメールをもらってから10分ほど待っていた。
突然ケータイが鳴る。この着信は諒二だった。
『添付ファイル有り』
夏子がそれを開くと、ケータイのサイバライズ・レンズから光線が放たれた。電子物に変換されたものを現実の物体に再変換することをリアライズという。リアライズはサイバライズに比べていくぶんか速く行われるので、諒二が再構築されるのもすぐだった。
徐々にカタチが構築されていく。まず諒二の頭が現れた。
ドンッ。
物が落ちる大きな音がした。
「夏子、久し振り」
諒二が気さくな声で言った。遠距離恋愛をしているふたりが会うのは2ヵ月ぶりだ。
「諒二…」
夏子はうまく声が出なかった。
「ごめん。容量オーバーしちゃったみたい」
夏子の目の前に現れた諒二の体は上半身だけだった。
添付ファイルの容量を超過してしまったせいで、中途半端に送信されてきてしまったようだ。
「だっ、大丈夫!?」
「うーん、とりあえず急いで送り返すか救急車呼んでくれる?」
諒二の体の断面からドクドクと流れる血液によって、夏子の部屋は赤く染められていくのだった。
蛇足的説明と不足的実力について。
「忍び寄る腐臭」を無事に載せることが出来ました。
書いていて、何かしっくりくるものがなかったのですが、でも「面白い」とコメントを頂けてとても嬉しいし読んでくださった皆様にはそれはそれは感謝しています。
ただ今回は文章に対しての自己評価が低いので、次回は自分自身も満足できるものを書きたい!
さて、それはそれとして、作中に出てくる「ん、この手が気になるのかい?」の一文が説明に欠けているとのご指摘を受けたので、不本意ながら少し説明をさせてもらいます。
ご指摘くださった方は「手」が何かの仕草をしているように思われたようなのですが、実はこの「手」はのちの回想的語りで説明されていて、つまりは「手」に「指」が足りないということなんです。
手紙を書こうとした「私」の「手」から「指」が取れて落ちてしまった。それで「指」が欠けていることを「君」が気にしているように「私」は思った――と何ともわかりにくい説明(笑)
「ん、この手が気になるのかい?」から「指」のエピソードまで、「私」が遠回りして話すのでわかりにくくて申し訳ありません。実は書いているときに、伝わりにくいかも…と思いつつそのままにしてしまいました!! ええ、全てはこの匡介が悪いのです。お詫びにこの腹を掻っ捌いて――!!…え? そんなの気持ち悪くて見たくない? ああ、重ねて申し訳ありません。私が至らぬばかりに失態続きで…。
この「君」に相当する猫はどうもずっと「指」の存在が気になっていたようで、あとで他の取れた「指」を咥えて持っていってしまうという(笑)
別にそういう細かな伏線を張っていたわけではありませんが、もしかしたら無意識に伏線を張っていたのかもしれないです。才能っておそろしい。
まぁ、仮にもし才能なんてものがあったとして、それを発揮できていなければ宝の持ち腐れ。実力が足りないってことなのでしょう。自分のスペックをフルに発揮できる、そんな人間に僕はなりたい。
今後、あえてわかりにくく表現することもたまにはありますが、不本意なわかりにくさは己の未熟が招くことなので、極力そうはならないよう鋭意努力、日々精進したいと思います。
まだ半熟どころが生卵な自分ですが、今後もお付き合いくださると大いに嬉しいです。
書いていて、何かしっくりくるものがなかったのですが、でも「面白い」とコメントを頂けてとても嬉しいし読んでくださった皆様にはそれはそれは感謝しています。
ただ今回は文章に対しての自己評価が低いので、次回は自分自身も満足できるものを書きたい!
さて、それはそれとして、作中に出てくる「ん、この手が気になるのかい?」の一文が説明に欠けているとのご指摘を受けたので、不本意ながら少し説明をさせてもらいます。
ご指摘くださった方は「手」が何かの仕草をしているように思われたようなのですが、実はこの「手」はのちの回想的語りで説明されていて、つまりは「手」に「指」が足りないということなんです。
手紙を書こうとした「私」の「手」から「指」が取れて落ちてしまった。それで「指」が欠けていることを「君」が気にしているように「私」は思った――と何ともわかりにくい説明(笑)
「ん、この手が気になるのかい?」から「指」のエピソードまで、「私」が遠回りして話すのでわかりにくくて申し訳ありません。実は書いているときに、伝わりにくいかも…と思いつつそのままにしてしまいました!! ええ、全てはこの匡介が悪いのです。お詫びにこの腹を掻っ捌いて――!!…え? そんなの気持ち悪くて見たくない? ああ、重ねて申し訳ありません。私が至らぬばかりに失態続きで…。
この「君」に相当する猫はどうもずっと「指」の存在が気になっていたようで、あとで他の取れた「指」を咥えて持っていってしまうという(笑)
別にそういう細かな伏線を張っていたわけではありませんが、もしかしたら無意識に伏線を張っていたのかもしれないです。才能っておそろしい。
まぁ、仮にもし才能なんてものがあったとして、それを発揮できていなければ宝の持ち腐れ。実力が足りないってことなのでしょう。自分のスペックをフルに発揮できる、そんな人間に僕はなりたい。
今後、あえてわかりにくく表現することもたまにはありますが、不本意なわかりにくさは己の未熟が招くことなので、極力そうはならないよう鋭意努力、日々精進したいと思います。
まだ半熟どころが生卵な自分ですが、今後もお付き合いくださると大いに嬉しいです。
「忍び寄る腐臭(下)」
さあ、話を戻そうか。
私はそんなナイトのことを思い出して気付いた。これはあのときの臭いに似ているってね。そう、腐臭だ。何かが腐っているような、おぞましい悪臭だよ。
それに気付いた私は、急に怖くなって部屋の中を調べた。どこかで何かが腐っているんじゃないか。部屋には腐るようなものなどなかったし、そんなはずないと思っていたのだけれど必死になって調べた。もしかしたらどこかから忍び込んだネズミか何かが死んで腐っているんじゃないかとも思ったのだが、結局何も見つからなかった。しかし翌日になるとその腐臭はさらに強まっていた。
腐臭の原因は何か――。考えても考えても何も思い浮かぶことはなく、臭いだけが強くなる一方。もはや寝室では寝ることすらできなくなっていた。私は寝床をリビングルームに移した。
場所を移したのは正しい選択だったようで、私はしばらく腐臭から解放された。大きな屋敷だし、部屋も広い。自室を放棄したとしても何ら問題はなかった。ただソファで寝ることになってしまったが。両親の部屋は辛いことを思い出し過ぎるし、ゲストルームは随分と誰も入っていなく埃まみれになっているだろうことは容易に想像できた。そもそも今となっては客人など誰も訪れないし、ずっと掃除する必要もなかったのだから仕方ないことだった。しかしソファも慣れてしまえば問題はなかった。住めば都、むしろ居心地が良いくらいだった。
だが、それもひとときの安息にしか過ぎなかったのだ。時間が経つにつれ、あの臭いはリビングにまで侵食してきていた。気付けば自室を使っていた頃よりも強い腐臭に、私の嗅覚は麻痺も寸前になっていた。
原因は何か。私は屋敷中を調べて回った。
しかし残念なことにその原因となるようなものは何も見つけることが出来なかった。一体何が起きているのか、私には全くわからず、ただただ悪臭に耐え、苦痛な時を過ごすしかなかった。
ん、この手が気になるのかい?
いつからだったろうか、耳元で何か羽音のようなものが聴こえるようになった。疲れのせいか、視界に何かチラつくものもあった。この頃の私は生ける屍も同然、何も感じず、ただ無感に、無感に、全ての苦痛から逃れる為に無感になるよう徹した。五感を殺し、心を殺した。それは死んでいないだけの、まさに生ける屍だった。
そんなときだよ、君の声がしたのは。
私はふと君の声に気付いて、周りを見回したが、そこには何も見えなかった。そのまま屋敷の中を探し回ったが、どこにも君の姿はなかった。その頃の君は、まだ私に警戒心を抱いていたのかな? まぁ、こんな風貌だし、仕方ないことなのだろう。それともただシャイなだけかもしれないが。あるいはその両方かな?
それで、そのときは君のことを見つけることは出来なかったが、私は自分の意識がこの体に戻ってきた気がしたんだ。それまで私の心はどこか遠くに行ってしまっていたようで、それがこの体に帰ってきたようだった。そう思うと、今までの自分は何をしていたのだろう? と思った。もう臭いは気にならなくなっていた。いや、そんなことなど忘れてしまっていた。何十年も銅像にでもなっていたような気分だった。それかずっと化石になっていて、発掘されたような、久し振りに空と太陽を見た、そんな気分だろうか。
久し振りに本を読もう、そう思った。
そういえば久しくあの書店員に手紙を書いていなかった。気付けば、大量の手紙が溜まっていた。きっと返信がないことを心配してくれたのだろう。
私はペンを執った。便箋に向かい、文字を綴った。長らく書いていなかったらか、何度も字を間違えた。それを黒く塗りつぶす。黒く。黒く。でも、そんな手紙など読ませるわけにはいかないと思い、新しい便箋を取り出した。また間違えた。それどころが文字にすらなっていなかった。線が踊るように連なっているだけの、暗号にすら見えない書面。どうしたことだろうか。書かないというのは、これほどまで書けなくするものなのか。
私は力を込めて、しっかりと文字を書こうとした。
ぼとり、と何かが落ちた。
何だろうと見てみると、それは指のようだった。
それは私の指だった。
理由はわからないが、私の指は取れてしまったのだ。痛みはなかった。出血もなかった。人差し指を失ったのは大きいが、まあ右手にはまだ4本指が残っていると思い、私は書くのを続けようとした。だけれど無理だった。書けなかった。もはや何を書こうとしていたのかもわからなくなっていた。
私は再び何もしない生活に戻っていた。ただただ時間が経つのを待っていた。だいぶ前から少食になっていて、新しく食材を買わなくてもしばらくは大丈夫に思えた。卵などは腐っているようにも見えたが、きっと死にはしないだろうと思って気にせず食べた。
そんなときだったよ、君と出会ったのは。
最初は、何か懐かしい感じがした。たぶんきっとそれは、君がナイトに似ていたからなんだろうな。旧友に会ったような、そんな気分だったよ。
ナイトのことはずっと苦い思い出だったが、君のおかげでそんな思いからも解放されたようだ。ナイトは生きていたという気持ちになっているのかな? それで罪悪感から逃れられたのかもしれない。君とナイトは違うのにね。
もう何日も寝ていないのだけれど、今夜はよく眠れる気がするよ。
おや? 誰かが来たようだ。
誰だろう? 少し席を外させてもらうね。
限界に向かい、覗き穴を覗くと、そこにはひとりの女性の姿があった。若くて、はつらつとしていそうな女性。容姿も魅力的だった。
見覚えはないのだが、私には彼女が誰なのかすぐにわかることが出来た。例の書店の、彼女だ。イメージしていた姿そのままで、どうにも間違えはないだろう。
どうしよう、と私は思った。開けて会うべきだろうか。しかしこの醜悪な顔を見せたくはない。彼女は傷のことを知っているし、おそらくそんなことなど気にせず、こんな私にも気さくに接してくれるだろう。そういう確信があってもおそろしい。失望されたくないという思いがふつふつと湧いてきた。
しかしせっかく来てくれたのに、いつまでも外で待たせるわけにもいかない。私は勇気を振り絞って、彼女に会うことにした。
私は解錠し、ドアを開けた。「こんにちは」
言ってから、もしかしたら「こんばんは」だったろうかと思った。思えば時間など関係のない生活をしていて、今が昼なのか夜なのかさえわからない。外は暗くなっているように見える。
私はにこやかに挨拶をしたつもりなのだが、彼女は無言だった。というよりかは言葉を失っているように見えた。
やはり私の醜い顔に怖気づいてしまったのだろうか。彼女の予想以上に、醜い姿だったのかもしれない。もしかしたら化け物や怪物に見えているのだろうか。
「あの――」
何か言おうと、しかし何を言うでもなく口を開いた。そのとき、ボトリ、と何かが地面に落ちた。
見下ろしてみると、そこには白い何かが落ちていた。小さく、そしてよく見ると動いている。
蛆虫だった。あの、ナイトの死肉を喰らっていた蛆だった。小さくも、おぞましい姿で蠕動(ぜんどう)をしていた。
私は思わず叫びそうになった。が、どうにか堪えた。彼女と初めて会えたというのに、そのときの印象が絶叫などというのは最悪に他ならない。
――しかしなぜ蛆虫が?
そんな疑問が私の脳裏をよぎると同時に叫び声が聴こえた。
一瞬、誰が叫んだのかわからなかったが、それは他の誰でもなく目の前の彼女だった。
突然落ちてきた蛆虫に彼女が驚き、そして恐怖してもおかしくはない。むしろ当然だろう。彼女は当たり前のことながら女の子なのだ。
私は大丈夫だよ、となだめようと彼女に歩み寄った。
しかし彼女はそんな私を突き飛ばし、泣き叫ぶように走り去ってしまった。
何もそこまで怖がることはないと思うのだが…。
私は突き飛ばされて転んでしまったので、起き上ろうとしたがうまく起き上ることが出来ない。あれ、おかしいな――そう思いながら何度か起き上ろうとしてみたが、駄目だった。一体どうしてしまったのだ。
もう何もかもがわからなくて、泣きたくなった。
ああ、私が何をしたというのだ――? これほどまでの仕打ちを受けなければならないようなことを、私はしたのか!! 神よ、私が何をしたのだ!? これは何の罰なのだ! 試練か? 私はそれほど強くはない。試練を与えるならそれは相手を間違えている!!
声にならない叫びだった。
そのとき、私は気付いた。さきほどからどうしても起き上れないのは、腕が片方無いせいだ。よく見てみると私の下敷きになっているではないか! それに足も! 足首から下が折れてしまっている。折れた先が地面に転がっているのが見えた。
嗚呼!!
溢れ出る涙を拭おうと残っている手を顔にこすりつけた。ぐちゅ、という音とともに指が転げ落ちた。
どうなっているのだ!! どうなっているのだ!!
ミャア、と猫の鳴き声がした。
ああ、君か。さっきから何がどうなっているのかわからないんだ。助けてくれ。
私の叫びが聴こえなかったのか、彼は私の取れた指を咥(くわ)え、そのままどこかへと去ってしまった。
そのまま私は取り残された。
自分では身動きが出来ず、しかし誰も助けには来てくれない。
長いこと時間が過ぎたはずなのだが、何の空腹感もなかった。痛みも、暑さも寒さも感じない。大体にして今がどんな季節かもわからかった。
このまま私は朽ち果てるのを待つしかないのだろうか。
それともすでに私は朽ち果ててしまっているのだろうか。
目の前にはひどく黒ずんだ鼻が転がっていた。
もう二度とこの腐臭に悩むこともなくなるだろう。
私はそんなナイトのことを思い出して気付いた。これはあのときの臭いに似ているってね。そう、腐臭だ。何かが腐っているような、おぞましい悪臭だよ。
それに気付いた私は、急に怖くなって部屋の中を調べた。どこかで何かが腐っているんじゃないか。部屋には腐るようなものなどなかったし、そんなはずないと思っていたのだけれど必死になって調べた。もしかしたらどこかから忍び込んだネズミか何かが死んで腐っているんじゃないかとも思ったのだが、結局何も見つからなかった。しかし翌日になるとその腐臭はさらに強まっていた。
腐臭の原因は何か――。考えても考えても何も思い浮かぶことはなく、臭いだけが強くなる一方。もはや寝室では寝ることすらできなくなっていた。私は寝床をリビングルームに移した。
場所を移したのは正しい選択だったようで、私はしばらく腐臭から解放された。大きな屋敷だし、部屋も広い。自室を放棄したとしても何ら問題はなかった。ただソファで寝ることになってしまったが。両親の部屋は辛いことを思い出し過ぎるし、ゲストルームは随分と誰も入っていなく埃まみれになっているだろうことは容易に想像できた。そもそも今となっては客人など誰も訪れないし、ずっと掃除する必要もなかったのだから仕方ないことだった。しかしソファも慣れてしまえば問題はなかった。住めば都、むしろ居心地が良いくらいだった。
だが、それもひとときの安息にしか過ぎなかったのだ。時間が経つにつれ、あの臭いはリビングにまで侵食してきていた。気付けば自室を使っていた頃よりも強い腐臭に、私の嗅覚は麻痺も寸前になっていた。
原因は何か。私は屋敷中を調べて回った。
しかし残念なことにその原因となるようなものは何も見つけることが出来なかった。一体何が起きているのか、私には全くわからず、ただただ悪臭に耐え、苦痛な時を過ごすしかなかった。
ん、この手が気になるのかい?
いつからだったろうか、耳元で何か羽音のようなものが聴こえるようになった。疲れのせいか、視界に何かチラつくものもあった。この頃の私は生ける屍も同然、何も感じず、ただ無感に、無感に、全ての苦痛から逃れる為に無感になるよう徹した。五感を殺し、心を殺した。それは死んでいないだけの、まさに生ける屍だった。
そんなときだよ、君の声がしたのは。
私はふと君の声に気付いて、周りを見回したが、そこには何も見えなかった。そのまま屋敷の中を探し回ったが、どこにも君の姿はなかった。その頃の君は、まだ私に警戒心を抱いていたのかな? まぁ、こんな風貌だし、仕方ないことなのだろう。それともただシャイなだけかもしれないが。あるいはその両方かな?
それで、そのときは君のことを見つけることは出来なかったが、私は自分の意識がこの体に戻ってきた気がしたんだ。それまで私の心はどこか遠くに行ってしまっていたようで、それがこの体に帰ってきたようだった。そう思うと、今までの自分は何をしていたのだろう? と思った。もう臭いは気にならなくなっていた。いや、そんなことなど忘れてしまっていた。何十年も銅像にでもなっていたような気分だった。それかずっと化石になっていて、発掘されたような、久し振りに空と太陽を見た、そんな気分だろうか。
久し振りに本を読もう、そう思った。
そういえば久しくあの書店員に手紙を書いていなかった。気付けば、大量の手紙が溜まっていた。きっと返信がないことを心配してくれたのだろう。
私はペンを執った。便箋に向かい、文字を綴った。長らく書いていなかったらか、何度も字を間違えた。それを黒く塗りつぶす。黒く。黒く。でも、そんな手紙など読ませるわけにはいかないと思い、新しい便箋を取り出した。また間違えた。それどころが文字にすらなっていなかった。線が踊るように連なっているだけの、暗号にすら見えない書面。どうしたことだろうか。書かないというのは、これほどまで書けなくするものなのか。
私は力を込めて、しっかりと文字を書こうとした。
ぼとり、と何かが落ちた。
何だろうと見てみると、それは指のようだった。
それは私の指だった。
理由はわからないが、私の指は取れてしまったのだ。痛みはなかった。出血もなかった。人差し指を失ったのは大きいが、まあ右手にはまだ4本指が残っていると思い、私は書くのを続けようとした。だけれど無理だった。書けなかった。もはや何を書こうとしていたのかもわからなくなっていた。
私は再び何もしない生活に戻っていた。ただただ時間が経つのを待っていた。だいぶ前から少食になっていて、新しく食材を買わなくてもしばらくは大丈夫に思えた。卵などは腐っているようにも見えたが、きっと死にはしないだろうと思って気にせず食べた。
そんなときだったよ、君と出会ったのは。
最初は、何か懐かしい感じがした。たぶんきっとそれは、君がナイトに似ていたからなんだろうな。旧友に会ったような、そんな気分だったよ。
ナイトのことはずっと苦い思い出だったが、君のおかげでそんな思いからも解放されたようだ。ナイトは生きていたという気持ちになっているのかな? それで罪悪感から逃れられたのかもしれない。君とナイトは違うのにね。
もう何日も寝ていないのだけれど、今夜はよく眠れる気がするよ。
おや? 誰かが来たようだ。
誰だろう? 少し席を外させてもらうね。
限界に向かい、覗き穴を覗くと、そこにはひとりの女性の姿があった。若くて、はつらつとしていそうな女性。容姿も魅力的だった。
見覚えはないのだが、私には彼女が誰なのかすぐにわかることが出来た。例の書店の、彼女だ。イメージしていた姿そのままで、どうにも間違えはないだろう。
どうしよう、と私は思った。開けて会うべきだろうか。しかしこの醜悪な顔を見せたくはない。彼女は傷のことを知っているし、おそらくそんなことなど気にせず、こんな私にも気さくに接してくれるだろう。そういう確信があってもおそろしい。失望されたくないという思いがふつふつと湧いてきた。
しかしせっかく来てくれたのに、いつまでも外で待たせるわけにもいかない。私は勇気を振り絞って、彼女に会うことにした。
私は解錠し、ドアを開けた。「こんにちは」
言ってから、もしかしたら「こんばんは」だったろうかと思った。思えば時間など関係のない生活をしていて、今が昼なのか夜なのかさえわからない。外は暗くなっているように見える。
私はにこやかに挨拶をしたつもりなのだが、彼女は無言だった。というよりかは言葉を失っているように見えた。
やはり私の醜い顔に怖気づいてしまったのだろうか。彼女の予想以上に、醜い姿だったのかもしれない。もしかしたら化け物や怪物に見えているのだろうか。
「あの――」
何か言おうと、しかし何を言うでもなく口を開いた。そのとき、ボトリ、と何かが地面に落ちた。
見下ろしてみると、そこには白い何かが落ちていた。小さく、そしてよく見ると動いている。
蛆虫だった。あの、ナイトの死肉を喰らっていた蛆だった。小さくも、おぞましい姿で蠕動(ぜんどう)をしていた。
私は思わず叫びそうになった。が、どうにか堪えた。彼女と初めて会えたというのに、そのときの印象が絶叫などというのは最悪に他ならない。
――しかしなぜ蛆虫が?
そんな疑問が私の脳裏をよぎると同時に叫び声が聴こえた。
一瞬、誰が叫んだのかわからなかったが、それは他の誰でもなく目の前の彼女だった。
突然落ちてきた蛆虫に彼女が驚き、そして恐怖してもおかしくはない。むしろ当然だろう。彼女は当たり前のことながら女の子なのだ。
私は大丈夫だよ、となだめようと彼女に歩み寄った。
しかし彼女はそんな私を突き飛ばし、泣き叫ぶように走り去ってしまった。
何もそこまで怖がることはないと思うのだが…。
私は突き飛ばされて転んでしまったので、起き上ろうとしたがうまく起き上ることが出来ない。あれ、おかしいな――そう思いながら何度か起き上ろうとしてみたが、駄目だった。一体どうしてしまったのだ。
もう何もかもがわからなくて、泣きたくなった。
ああ、私が何をしたというのだ――? これほどまでの仕打ちを受けなければならないようなことを、私はしたのか!! 神よ、私が何をしたのだ!? これは何の罰なのだ! 試練か? 私はそれほど強くはない。試練を与えるならそれは相手を間違えている!!
声にならない叫びだった。
そのとき、私は気付いた。さきほどからどうしても起き上れないのは、腕が片方無いせいだ。よく見てみると私の下敷きになっているではないか! それに足も! 足首から下が折れてしまっている。折れた先が地面に転がっているのが見えた。
嗚呼!!
溢れ出る涙を拭おうと残っている手を顔にこすりつけた。ぐちゅ、という音とともに指が転げ落ちた。
どうなっているのだ!! どうなっているのだ!!
ミャア、と猫の鳴き声がした。
ああ、君か。さっきから何がどうなっているのかわからないんだ。助けてくれ。
私の叫びが聴こえなかったのか、彼は私の取れた指を咥(くわ)え、そのままどこかへと去ってしまった。
そのまま私は取り残された。
自分では身動きが出来ず、しかし誰も助けには来てくれない。
長いこと時間が過ぎたはずなのだが、何の空腹感もなかった。痛みも、暑さも寒さも感じない。大体にして今がどんな季節かもわからかった。
このまま私は朽ち果てるのを待つしかないのだろうか。
それともすでに私は朽ち果ててしまっているのだろうか。
目の前にはひどく黒ずんだ鼻が転がっていた。
もう二度とこの腐臭に悩むこともなくなるだろう。
個人的な返信。
特に意味はないけれど、思ったことについて。
○見た夢のこと。
・鯉がいた。巨大な鯉。その鯉の魚体は虹色に輝いていた。「ああ、これがニジマスか」とか何かわけわからないことを思った。ニジマスと鯉は違うよ、全然違う。最初に鯉って思っただろうに。そのあとに牛の顔が描かれた鯉がいた。牛の体は七色だった。その後ろには浮世絵風の人も描かれていた。あれは天然なのか、誰か鯉に刺青を入れたのか。そしてふと視線を上げると、そこには熊がいた。巨大な。灰色の。直観的にグリズリーだと思った。日本には生息していないはずだが? グリズリーと目が合った。熊と目が合ったら逸らしてはいけなかったのではなかったろうか。視線を合わせたまま、ゆっくりと後退した。グリズリーはゆっくりと近寄って来る。少し速足で下がる。グリズリーは加速した。俺は走った。グリズリーも走った。明らかに向こうが速い。逃げられない。そこで目が覚めた。
・物置のようなところにいた。たくさんある物の隙間を覗くとその向こうに女性が立っていた。女性は誰かと話していた。相手は見えない。女性の声。姉だ、と直感的に思った。小さい声で何かを呟いている。内容は聞こえない。くぐもった声で羅列されるように発せられる言葉に呪詛のようなイメージを抱いた。声の主(姉)がこちらの気配に気付いたのか、こちらに意識を向けたのがわかった。相変わらず姿は見えない。ただ割れた鏡の破片が地面に散らばっていて、そこに姉の目が映っていた。目。目。目。目目目…。「大丈夫」と自分に言い聞かせる。向こうにこちらが見えているわけではない。見つかったら無事では済まない気がした。しかし、近くにいた自分の彼女は依然として隙間から向こうを窺っている。見つかれば命ないというのに! 焦った。だが、声を出すわけにもいかなかった。あちらの意識はこちらに向いたままだ。彼女を止めようと思った。でも、彼女に何の変化もない。自分が心配するようなことはないのか、と思い再び隙間に目を遣った。目が合った。今度は確実に、姉と目が合った。驚いて、とっさにあとずさる。次の瞬間、肩のあたりからニュッと2本の腕が伸びてきた。気付いた時には後ろから抱きかかえられるように引っ張られ、闇の中に自分は消えた。そこで目が覚めた。(※ちなみに自分には姉などいない。夢の中の登場人物は全員フィクションだった。自分すら意識こそは俺自身だったけれど、見た目は思い返してみると知らない人だった。さらに言えば日本人ですらなかった。パツキンパツキン)
○気になるアーティストのこと。
・LIV MOON。元宝塚のへヴィメタル歌手らしい。ジャンルはクラシックとへヴィメタルが融合したシンフォニック・メタルというもの。メタルでソロって珍しい気がする。12月のデビューアルバムが楽しみ。
・HANGRY & ANGRY。ヴィジュアル系ユニットの2人組。へヴィなサウンドにエレクトロというデジタル色をミックスした“デジタル・グランジ”と呼べるジャンルを開拓、したとかどうとか。その正体は吉澤ひとみと石川梨華、だとかどうとか。楽曲はまだ聴いていないけれど、そのうち聴いてみよう。デジタル・グランジとやらに興味がある。ちなみに俺が見た画像の2人はダーティ・ペアみたいだった。
○CMを観るたびに思うこと。
日本の自給率を上げよう!的なCMでアナタの自給率は? とか尋ねているけれど、個人の自給率はまた違うじゃないか意味合いが、と思ってしまう。国産のものを食べたら個人の自給率が上がるわけじゃなかろうに。上がるのは日本の自給率上昇への貢献度じゃないか。個人の自給率を上げるには、それは自給自足生活をしろということではないのか。何となく言いたいことは察するが、間違った日本語をさも正しいかのように使うのはどうなのだろう? それとも俺の認識が誤りなのだろうか。
・鯉がいた。巨大な鯉。その鯉の魚体は虹色に輝いていた。「ああ、これがニジマスか」とか何かわけわからないことを思った。ニジマスと鯉は違うよ、全然違う。最初に鯉って思っただろうに。そのあとに牛の顔が描かれた鯉がいた。牛の体は七色だった。その後ろには浮世絵風の人も描かれていた。あれは天然なのか、誰か鯉に刺青を入れたのか。そしてふと視線を上げると、そこには熊がいた。巨大な。灰色の。直観的にグリズリーだと思った。日本には生息していないはずだが? グリズリーと目が合った。熊と目が合ったら逸らしてはいけなかったのではなかったろうか。視線を合わせたまま、ゆっくりと後退した。グリズリーはゆっくりと近寄って来る。少し速足で下がる。グリズリーは加速した。俺は走った。グリズリーも走った。明らかに向こうが速い。逃げられない。そこで目が覚めた。
・物置のようなところにいた。たくさんある物の隙間を覗くとその向こうに女性が立っていた。女性は誰かと話していた。相手は見えない。女性の声。姉だ、と直感的に思った。小さい声で何かを呟いている。内容は聞こえない。くぐもった声で羅列されるように発せられる言葉に呪詛のようなイメージを抱いた。声の主(姉)がこちらの気配に気付いたのか、こちらに意識を向けたのがわかった。相変わらず姿は見えない。ただ割れた鏡の破片が地面に散らばっていて、そこに姉の目が映っていた。目。目。目。目目目…。「大丈夫」と自分に言い聞かせる。向こうにこちらが見えているわけではない。見つかったら無事では済まない気がした。しかし、近くにいた自分の彼女は依然として隙間から向こうを窺っている。見つかれば命ないというのに! 焦った。だが、声を出すわけにもいかなかった。あちらの意識はこちらに向いたままだ。彼女を止めようと思った。でも、彼女に何の変化もない。自分が心配するようなことはないのか、と思い再び隙間に目を遣った。目が合った。今度は確実に、姉と目が合った。驚いて、とっさにあとずさる。次の瞬間、肩のあたりからニュッと2本の腕が伸びてきた。気付いた時には後ろから抱きかかえられるように引っ張られ、闇の中に自分は消えた。そこで目が覚めた。(※ちなみに自分には姉などいない。夢の中の登場人物は全員フィクションだった。自分すら意識こそは俺自身だったけれど、見た目は思い返してみると知らない人だった。さらに言えば日本人ですらなかった。パツキンパツキン)
○気になるアーティストのこと。
・LIV MOON。元宝塚のへヴィメタル歌手らしい。ジャンルはクラシックとへヴィメタルが融合したシンフォニック・メタルというもの。メタルでソロって珍しい気がする。12月のデビューアルバムが楽しみ。
・HANGRY & ANGRY。ヴィジュアル系ユニットの2人組。へヴィなサウンドにエレクトロというデジタル色をミックスした“デジタル・グランジ”と呼べるジャンルを開拓、したとかどうとか。その正体は吉澤ひとみと石川梨華、だとかどうとか。楽曲はまだ聴いていないけれど、そのうち聴いてみよう。デジタル・グランジとやらに興味がある。ちなみに俺が見た画像の2人はダーティ・ペアみたいだった。
○CMを観るたびに思うこと。
日本の自給率を上げよう!的なCMでアナタの自給率は? とか尋ねているけれど、個人の自給率はまた違うじゃないか意味合いが、と思ってしまう。国産のものを食べたら個人の自給率が上がるわけじゃなかろうに。上がるのは日本の自給率上昇への貢献度じゃないか。個人の自給率を上げるには、それは自給自足生活をしろということではないのか。何となく言いたいことは察するが、間違った日本語をさも正しいかのように使うのはどうなのだろう? それとも俺の認識が誤りなのだろうか。
「忍び寄る腐臭(上)」
もう何日も眠れぬ日々が続いている。私を苦しめるものの正体が何なのか、それすらもわからないまま苦悩は続き、忍び寄る恐怖に苛まされている。
この苦しみを理解していただけるだろうか。話したところで何が変わるわけでもないが、しかし、少しはこの憂鬱を払うことができるかもしれない。
もう私の精神は限界に達しようとしている。今話さなければ今後はこのような機会に恵まれないかもしれないし、だからこうして話そうと思う。
そう長くはならないと思うが、時間はあるのだろう? 今飲み物でも用意しよう。楽にしていてくれ。
さて、話を始めようか。
始まりは数日前のことだった――。
***
最初に、私のことを話しておいた方がいいだろう。その方があとあとになっていちいち説明をする手間がかからないと思う。必要なことだけ、簡単に話そう。
私の持つ広大な土地と屋敷は、両親が遺したものだ。両親は起業家として成功し、莫大な財産を築きあげた。しかしその若くしての成功の代償なのか、私の両親はまた若くしてその命を落とした。交通事故だった。その事故には私も巻き込まれた。そのとき両親は即死したが、私はかろうじて一命を取り留めた。そして今は両親の遺産で生活している。この莫大な遺産さえあれば、私は一生働かずに済むだろう。そしてその事実は私を救ってくれた。
私はあの事故のとき死にこそしなかったが大怪我を負ってしまった。そのときの傷痕は今も残っている。そのうち最も酷いのが顔一面を覆うほどの傷痕だ。知人友人が今の私を見ても、おそらく私が誰だかわからないだろう。醜く変貌した人相のおかげで、人は私を避けるようになった。無理もない、まるで化け物の顔なのだから。そして私も人を避けるようになった。
幸い両親の遺産で屋敷を出ることなく暮らすことができた。極力人と会わず、部屋に籠って生活をした。趣味といえばもっぱら読書だった。近所の大きな書店から毎週何冊かの本を送ってもらっている。
そしてもうひとつの密かな楽しみは、そこの書店に勤めるひとりの女性との文通だ。外の世界との接点がほとんどない私が、書店にも出向かずに本を選ぶのは難しい。最初は売れている本、流行っている本を適当に送ってもらっていた。しかしそのうちに私に送る本を選んでくれていた女性――私は知らなかったのだが、いつのまにかに彼女が私宛ての本を選ぶ担当になっていたのだ――から手紙が送られてきた。最初はどのような本が好きなのか、どの本を面白いと思ったのかを訊いてきているだけだったのだが、気付けばいろいろなことを、手紙を通じて話すようになっていた。私は手紙を通じてしか彼女のことを知らないが、私は恋をしていた。顔も知らぬ彼女に、恋をしてしまっていた。
申し訳ない。どうやら関係ない話までしてしまった。これでは朝になっても話は終わらなくなってしまう。そろそろ本題に入るとしようか。
数日前のことだった。正確な日数は覚えていない。私のどこかが壊れてしまって、もはや日数などかぞえていないからだ。それでも大して話の内容に差し支えるとは思えないから数日前という以上詳しく語ることもないだろう。
とにかく、数日前のことだった。
私は朝目覚めて、まず違和感を覚えた。何だろうか。具体的には何に違和感を覚えていたのかこのときはわからなかった。部屋に新鮮な空気を入れるために窓を開けたときにはもう気にならなくなっていた。私は自ら料理をし、朝食を摂った。このときまたもや違和感が私を襲った。しかし、目覚めたときほどではなく、それもまたすぐに忘れてしまうことになる。そしていつものように読書に耽り、その日が終わるのを待った。
異変に気付いたのは次の日だった。朝起きてみると、また何かが違う。私の感覚は部屋で起こっている異変を敏感に察知していたのだが、私の意識はそれを問題視しなかった。空気を入れ替えようと窓を開ける。そのとき、ふっと窓を通り抜け出ていった部屋の空気に違和感を覚えた。正確には、異臭を感じた。改めて私は部屋の中に意識を向けた。かすかに、しかし確実に、何かが臭っていた。何だろう? 臭いのもとはわからなかった。すぐに窓から入り込んできた空気が臭いを掻き消してしまったから。
さらに翌朝を迎えると、今度ははっきりと異臭を感じ取って目が覚めた。何の臭いなのか、私は考えたが思い当たる節はない。しかしそれは、明らかに何かが腐っているような臭いだった。嗅いでいて気分が悪くなったので窓を開けて換気をした。しばらくすると、臭いは消えた。
その夜に、あることを思い出した。昔飼っていた猫のことだ。その頃はまだ両親も健在で、私はまだ幼かった。幼い私は活発な少年で、今とは違いよく外に出て遊んでいた。広い庭で冒険ごっこをするのが好きで、よく木登りなどをしていた。たまに昇り過ぎて降りられなくなって、泣いてしまうこともあった。懐かしい日々だ。
ある日、私は庭で猫を見つけた。どこかから迷い込んできたのだろうか、夜の闇のようにまっ黒な猫だった。私は猫にナイトと名付けた。ナイトは好奇心が旺盛な猫だった。私の行動にいちいち興味を示し、よく付いてきた。一緒に冒険ごっこをして遊んだものだ。
時が経って必然的に無二の親友となった私とナイトだったが、私はナイトのことをまだ両親には話していなかった。もし両親がどこから来たかもしれぬ猫などと遊んでいることを知って、ナイトのことを屋敷から追放したらどうしよう。もしかしたら二度とここの土地を踏めぬように殺してしまうかもしれない。そんな思いが頭の隅にあり、なかなか両親に打ち明けることはできなかった。
しかしある日のこと、私がナイトと遊んでいるところを両親に見られてしまった。私はどうにかナイトを守ろうと、必死になってナイトの小さな躰を全身で覆った。それを見た両親は私のことを少しも怒ることなく、優しい口調でナイトを屋敷で飼おうと言ってくれた。実は両親はずっと前から私とナイトのことを知っていて、ちゃんと飼おうと言うタイミングを見計らっていたのだった。こうしてナイトは正式に私のペットとなった。
私とナイトが出会って1年が経った頃だろうか。私はナイトをもう親友とは思っていなく、もはや自分のペットとしてしか見れなくなっていた。そんなことなど知らぬナイトは私に遊ぼうとじゃれついてくる。しかしそんなナイトを、私は内心鬱陶しく思い始めていた。その頃は人間の友達の方が遊んでいて楽しく、遊び疲れて帰ったところにまたナイトと遊ばなければならないのは子供ながらに骨が折れると思った。
そんな思いがふと溢れ、あるとき遊ぼうと擦り寄ってきたナイトをクローゼットに押し入れた。ニャアニャアと啼く声が聴こえたが、それは無視した。そのうちナイトはおとなしくなり、私の気分はすっかり晴れていた。これでもうナイトに付き合っていやいや遊んでやる必要はない! 清々しい気持ちだった。
ナイトをクローゼットに閉じ込めてからどれだけ経った頃だろうか。私はすっかりかつての親友のことを忘れ、楽しく日常を過ごしていた。両親が一度ナイトを見かけなくなったことを言ってきたことがあった気がするが、私はどこかに行ってしまったようだと両親に話した。両親は、猫は気まぐれだからと納得したようだった。今思えば猫はおのれの死期を悟ると人前から姿を消す習性を両親は知っていたから納得していたのであろう。そしてそのことを息子に話すには少々酷だとも思ったのかもしれない。
そうしてナイトのことなどすっかり忘れてしまって久しいある日、部屋に異臭が漂い始めた。最初は何の臭いかなどわからなかったので、あまり気にしないことにしていた。しかしそのうち我慢しきれないほど臭いは強まり、私は臭いのもとを探すことにした。吐き気をもよおすような臭いを辿っていくと、どうやら問題はクローゼットの中にあるらしい。私は意を決してクローゼットの戸を開け、中を見た。
そこには、死んで腐ったナイトの姿があった。何とも無惨で、子供にはショックの大きい光景だったと思う。
私は自分のしてしまったことの恐ろしさを知り、泣いた。しかしナイトの死体をこのままクローゼットに置いておくこともできなかった。いずれ臭いはさらに強まり、両親も異変に気付くだろう。その前に何とかしなければ!
私は庭にナイトの墓を作ってやり、そこに埋めることにした。おそるおそるナイトの死体を両手で持ち上げた。ぐちょりとした感触があった。激しい臭いに吐きそうだったがそれは堪えた。死体には蛆(うじ)がたかり、何匹かが私の手に触れた。おぞましい感触に、思わずナイトを放り投げた。死体がぐちゃりと地面に落下して潰れた。
涙と洟水を垂れ流し、嗚咽を堪えて再びナイトだったものを持ち上げた。もはや原形を留めていない。よくわからない汁が床に垂れたがどうしようもないので放っておくことにした。私はそっとナイトだったカタマリを持って屋敷の庭に出た。どこか適当な、多少掘り返してもばれなさそうなところを探してそこを手で掘った。爪に土が入り込んだ。
1時間もして、私は無事にナイトの死体を庭に埋めることができた。もう安心だと思い、その晩はぐっすりと眠れた。
一気に喋ったからちょっと喉が渇いたな。君もおかわりがいるかい?
そうそう、ナイトは君によく似ていたよ。人懐こいあたりもそっくりだ。君はきっと友達が多いだろう。違うかい? 私には友達と呼べる人間がいないから羨ましいな。そうだ、よかったら私の友達になってくれないか? こんな顔だし、人と話すのは苦手なんだけど、君は見た目で人を判断するようには思えないからね。きっといい友達になれると思う。よければ、どうか考えておいてくれ。
この苦しみを理解していただけるだろうか。話したところで何が変わるわけでもないが、しかし、少しはこの憂鬱を払うことができるかもしれない。
もう私の精神は限界に達しようとしている。今話さなければ今後はこのような機会に恵まれないかもしれないし、だからこうして話そうと思う。
そう長くはならないと思うが、時間はあるのだろう? 今飲み物でも用意しよう。楽にしていてくれ。
さて、話を始めようか。
始まりは数日前のことだった――。
***
最初に、私のことを話しておいた方がいいだろう。その方があとあとになっていちいち説明をする手間がかからないと思う。必要なことだけ、簡単に話そう。
私の持つ広大な土地と屋敷は、両親が遺したものだ。両親は起業家として成功し、莫大な財産を築きあげた。しかしその若くしての成功の代償なのか、私の両親はまた若くしてその命を落とした。交通事故だった。その事故には私も巻き込まれた。そのとき両親は即死したが、私はかろうじて一命を取り留めた。そして今は両親の遺産で生活している。この莫大な遺産さえあれば、私は一生働かずに済むだろう。そしてその事実は私を救ってくれた。
私はあの事故のとき死にこそしなかったが大怪我を負ってしまった。そのときの傷痕は今も残っている。そのうち最も酷いのが顔一面を覆うほどの傷痕だ。知人友人が今の私を見ても、おそらく私が誰だかわからないだろう。醜く変貌した人相のおかげで、人は私を避けるようになった。無理もない、まるで化け物の顔なのだから。そして私も人を避けるようになった。
幸い両親の遺産で屋敷を出ることなく暮らすことができた。極力人と会わず、部屋に籠って生活をした。趣味といえばもっぱら読書だった。近所の大きな書店から毎週何冊かの本を送ってもらっている。
そしてもうひとつの密かな楽しみは、そこの書店に勤めるひとりの女性との文通だ。外の世界との接点がほとんどない私が、書店にも出向かずに本を選ぶのは難しい。最初は売れている本、流行っている本を適当に送ってもらっていた。しかしそのうちに私に送る本を選んでくれていた女性――私は知らなかったのだが、いつのまにかに彼女が私宛ての本を選ぶ担当になっていたのだ――から手紙が送られてきた。最初はどのような本が好きなのか、どの本を面白いと思ったのかを訊いてきているだけだったのだが、気付けばいろいろなことを、手紙を通じて話すようになっていた。私は手紙を通じてしか彼女のことを知らないが、私は恋をしていた。顔も知らぬ彼女に、恋をしてしまっていた。
申し訳ない。どうやら関係ない話までしてしまった。これでは朝になっても話は終わらなくなってしまう。そろそろ本題に入るとしようか。
数日前のことだった。正確な日数は覚えていない。私のどこかが壊れてしまって、もはや日数などかぞえていないからだ。それでも大して話の内容に差し支えるとは思えないから数日前という以上詳しく語ることもないだろう。
とにかく、数日前のことだった。
私は朝目覚めて、まず違和感を覚えた。何だろうか。具体的には何に違和感を覚えていたのかこのときはわからなかった。部屋に新鮮な空気を入れるために窓を開けたときにはもう気にならなくなっていた。私は自ら料理をし、朝食を摂った。このときまたもや違和感が私を襲った。しかし、目覚めたときほどではなく、それもまたすぐに忘れてしまうことになる。そしていつものように読書に耽り、その日が終わるのを待った。
異変に気付いたのは次の日だった。朝起きてみると、また何かが違う。私の感覚は部屋で起こっている異変を敏感に察知していたのだが、私の意識はそれを問題視しなかった。空気を入れ替えようと窓を開ける。そのとき、ふっと窓を通り抜け出ていった部屋の空気に違和感を覚えた。正確には、異臭を感じた。改めて私は部屋の中に意識を向けた。かすかに、しかし確実に、何かが臭っていた。何だろう? 臭いのもとはわからなかった。すぐに窓から入り込んできた空気が臭いを掻き消してしまったから。
さらに翌朝を迎えると、今度ははっきりと異臭を感じ取って目が覚めた。何の臭いなのか、私は考えたが思い当たる節はない。しかしそれは、明らかに何かが腐っているような臭いだった。嗅いでいて気分が悪くなったので窓を開けて換気をした。しばらくすると、臭いは消えた。
その夜に、あることを思い出した。昔飼っていた猫のことだ。その頃はまだ両親も健在で、私はまだ幼かった。幼い私は活発な少年で、今とは違いよく外に出て遊んでいた。広い庭で冒険ごっこをするのが好きで、よく木登りなどをしていた。たまに昇り過ぎて降りられなくなって、泣いてしまうこともあった。懐かしい日々だ。
ある日、私は庭で猫を見つけた。どこかから迷い込んできたのだろうか、夜の闇のようにまっ黒な猫だった。私は猫にナイトと名付けた。ナイトは好奇心が旺盛な猫だった。私の行動にいちいち興味を示し、よく付いてきた。一緒に冒険ごっこをして遊んだものだ。
時が経って必然的に無二の親友となった私とナイトだったが、私はナイトのことをまだ両親には話していなかった。もし両親がどこから来たかもしれぬ猫などと遊んでいることを知って、ナイトのことを屋敷から追放したらどうしよう。もしかしたら二度とここの土地を踏めぬように殺してしまうかもしれない。そんな思いが頭の隅にあり、なかなか両親に打ち明けることはできなかった。
しかしある日のこと、私がナイトと遊んでいるところを両親に見られてしまった。私はどうにかナイトを守ろうと、必死になってナイトの小さな躰を全身で覆った。それを見た両親は私のことを少しも怒ることなく、優しい口調でナイトを屋敷で飼おうと言ってくれた。実は両親はずっと前から私とナイトのことを知っていて、ちゃんと飼おうと言うタイミングを見計らっていたのだった。こうしてナイトは正式に私のペットとなった。
私とナイトが出会って1年が経った頃だろうか。私はナイトをもう親友とは思っていなく、もはや自分のペットとしてしか見れなくなっていた。そんなことなど知らぬナイトは私に遊ぼうとじゃれついてくる。しかしそんなナイトを、私は内心鬱陶しく思い始めていた。その頃は人間の友達の方が遊んでいて楽しく、遊び疲れて帰ったところにまたナイトと遊ばなければならないのは子供ながらに骨が折れると思った。
そんな思いがふと溢れ、あるとき遊ぼうと擦り寄ってきたナイトをクローゼットに押し入れた。ニャアニャアと啼く声が聴こえたが、それは無視した。そのうちナイトはおとなしくなり、私の気分はすっかり晴れていた。これでもうナイトに付き合っていやいや遊んでやる必要はない! 清々しい気持ちだった。
ナイトをクローゼットに閉じ込めてからどれだけ経った頃だろうか。私はすっかりかつての親友のことを忘れ、楽しく日常を過ごしていた。両親が一度ナイトを見かけなくなったことを言ってきたことがあった気がするが、私はどこかに行ってしまったようだと両親に話した。両親は、猫は気まぐれだからと納得したようだった。今思えば猫はおのれの死期を悟ると人前から姿を消す習性を両親は知っていたから納得していたのであろう。そしてそのことを息子に話すには少々酷だとも思ったのかもしれない。
そうしてナイトのことなどすっかり忘れてしまって久しいある日、部屋に異臭が漂い始めた。最初は何の臭いかなどわからなかったので、あまり気にしないことにしていた。しかしそのうち我慢しきれないほど臭いは強まり、私は臭いのもとを探すことにした。吐き気をもよおすような臭いを辿っていくと、どうやら問題はクローゼットの中にあるらしい。私は意を決してクローゼットの戸を開け、中を見た。
そこには、死んで腐ったナイトの姿があった。何とも無惨で、子供にはショックの大きい光景だったと思う。
私は自分のしてしまったことの恐ろしさを知り、泣いた。しかしナイトの死体をこのままクローゼットに置いておくこともできなかった。いずれ臭いはさらに強まり、両親も異変に気付くだろう。その前に何とかしなければ!
私は庭にナイトの墓を作ってやり、そこに埋めることにした。おそるおそるナイトの死体を両手で持ち上げた。ぐちょりとした感触があった。激しい臭いに吐きそうだったがそれは堪えた。死体には蛆(うじ)がたかり、何匹かが私の手に触れた。おぞましい感触に、思わずナイトを放り投げた。死体がぐちゃりと地面に落下して潰れた。
涙と洟水を垂れ流し、嗚咽を堪えて再びナイトだったものを持ち上げた。もはや原形を留めていない。よくわからない汁が床に垂れたがどうしようもないので放っておくことにした。私はそっとナイトだったカタマリを持って屋敷の庭に出た。どこか適当な、多少掘り返してもばれなさそうなところを探してそこを手で掘った。爪に土が入り込んだ。
1時間もして、私は無事にナイトの死体を庭に埋めることができた。もう安心だと思い、その晩はぐっすりと眠れた。
一気に喋ったからちょっと喉が渇いたな。君もおかわりがいるかい?
そうそう、ナイトは君によく似ていたよ。人懐こいあたりもそっくりだ。君はきっと友達が多いだろう。違うかい? 私には友達と呼べる人間がいないから羨ましいな。そうだ、よかったら私の友達になってくれないか? こんな顔だし、人と話すのは苦手なんだけど、君は見た目で人を判断するようには思えないからね。きっといい友達になれると思う。よければ、どうか考えておいてくれ。