みやび萬紅堂。
いらっしゃいませ。コメントはお気軽に。
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DATE: 2008/09/30(火)   CATEGORY: 雑記
帰ってきました。
京都は遠かったです。

普段は滅多にしたいことなんだけど、旅中はノートに構想をまとめたりしてました。
設定を書いたり、ヴィジュアルイメージをより明確にするためにイラスト描いてみたり。

本当に普段は何か思い浮かんでもメモ等はしません。

基本的に小説を書き始めるときにメモであるのはキャラクターの名前だけ。
他は滅多にメモすることはなく、設定や世界観は頭の中だけに置いときます。

だからか複雑な伏線は苦手(笑)

これを機会にノートにメモ派に移るかもー。
ノートを前にして考えるのも案外楽しい♪


…びっくりするくらい京都とは関係ない(笑)
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DATE: 2008/09/30(火)   CATEGORY: 短篇小説
平成妖異奇譚(8) 「食人鬼Ⅴ」
「もうすぐ」
 その言葉を発したのは例の巫女である。
 彼女はそう云って、田島の袖元(そでもと)をギュッと掴んだ。
 僕らは思わず周りを見回した。僕には何の影も確認することが出来なかった。
「ふむ。確かに血のにおいが漂ってくるね」
 愛染がそう云い、
「それと死臭もします」と劉心が付け加えた。
 僕は鼻腔を広げ、周囲の臭気に気を配ったが、何も感じない。
「そうか。ぶふぅ。近くにいるのか」
 巫女の少女の頭を撫でつつ田島が云った。
「悪いが、僕は何も感じない」
 そう告げたのだが、誰も取り合ってはくれなかった。
 どうして僕はここにいるのか。本当は必要なかったんじゃないかと考えてしまう。というか事実、必要ないと思われる。
「もうすぐ」
 未来を読む巫女が繰り返しそう云った。
 どうにも落ち着かなかった。自分だけが取り残され、何も出来ずにいる。
 僕は目を瞑り、大きく深呼吸をした。そしてゆっくりと目蓋を開ける。
 
 すると目の前には、魍魎がいた。
 赤い顔に長い耳、そして恐ろしいほどに美しい艶やかな長髪の鬼児。


 一瞬、魅入ってしまった。
 しかし次第に冷静さと、そして恐怖が僕に舞い戻る。
 気付けば僕は叫んでいた。それは夜の世界に木霊(こだま)した。
「やつだ!!」
 田島がそう叫んだのはそのあとのことだった。
 それを聞いた愛染が劉心に合図を送り、それを受け取った不気味な袈裟坊主は魍魎目がけて走っていった。
 僕はその場から動けないでいた。
 僕らに気付いた魍魎は驚いたように逃げていく。それを劉心が追う。目隠しをしているというのに、彼はまるで目が見えているように走った。
 田島も「ぶふぅ、ぶふぅ」と息荒げに追っていくのが見えた。
 気付けば巫女の少女はすがるように僕を見つめている。どうしたらいいのかわからず、僕は彼女をそっと抱き寄せた。
「劉心、そこだ!」
 愛染が大声で云った。
 それを合図に劉心は魍魎相手に飛びかかる。その勢いで彼は魍魎と一緒にアスファルトの地面を転がった。
「ぶふぅ、ぶふぅ。捕まえたの、かい?」
 息を切らして田島が云った。
「どうやらそのようで」
 愛染は嬉々とした声色だった。
そして芽生えるその感情をどうにか抑えようとしているように見えた。
「ぶふっ、ぶふぅ。劉心くぅん、でかしたぞー」
 魍魎を押さえつける劉心を田島が誉めた。
 そうして人を喰らう悪鬼、魍魎は捕らえられたのである。


 ***


 ファミレスの片隅に、僕と愛染はいた。
 今回の起きた事の顛末について、話し合っていたのである。
「どうにか無事に事件を収められたんだからいいじゃアないか」
 今回のことで完全に機嫌を損ねた僕に対して、もう何度目かとなる愛染のせりふが宙を舞った。
「なに、巷を騒がせた連続殺人鬼はいなくなり、君も深夜の百鬼夜行を視なくなったんだからそれで良しとしようじゃないか」
 世間を騒がせたいくつかの事件を引き起こした殺人鬼は、あの夜に田島の云う“研究機関”に引き渡された。
 僕が捕まった彼を最後に視たとき、それは鬼や魍魎の類いではなく、ただの人間だった。「ただの」と云うと表現がおかしいかもしれないが、それは紛れもなく妖怪ではなく、人間であったのだ。
 そして彼は表沙汰になっていない殺人も行なっているというのが愛染の意見で、その後の調査で実際にさらに複数の死体が上がった。そしてその死体のどれもが喰い散らかされていたのだ。
「しかし、あれを世間に公表しなくてもいいのか?」
 実をいうとこの事件の結末というのは、世間一般には知らされていない。
 体面の気にした例の“研究機関”が事の全てを隠蔽したのだ。もちろん警察にすら知られてはいない。
「別にいいじゃアないか。どうせ犯人はいなくなったんだ。これ以上、彼による殺人は行なわれることはないのだから」
「そういう問題じゃないだろう」
「それとも何か? 君は彼を第二の佐川一政として日本の犯罪史に彼の名を残したいのかい?」
 そう云って彼は邪悪な笑みを浮かべた。どうにも愉(たの)しそうに見える。
 彼の云う佐川一政とはきっとパリ人肉事件の犯人として有名な日本屈指のカニバリズム犯罪者のことだろう。
 佐川は留学先のパリで、オランダ人女性を殺害し、そして食べた。
 僕が知るところによると、殺害後の彼は電動ノコギリと肉切り包丁で死体を解体。その様子は自身の手によってカメラに撮影され、そしてそのあと夕食としてその一部を食べたのである。全くもって脅威的な事件だ。
 逮捕後の彼は地元の精神病院に強制入院させられるが、わずか1年2箇月後に国外追放同然のカタチで退院させられる。日本に帰国も病院へと入院させられるが、こちらもわずか1年3箇月ほどで退院を果たし、事件からたった4年ほどで自由の身となり社会復帰を果たしたのである。
「まァ、この国にもたまにはカニバリズムのような猟奇的な事件もあってはいいと思うけどね。この国にとってもいい経験になるだろうさ」
 そのように彼はブラックユーモアであろうジョークを飛ばした。快活に。
 僕はそれについては特に受け止めず、放っておくことにする。彼にいちいち構うというのは、多大なる労力の浪費と無駄であることを学んだからだ。
 彼はテーブルに上げられたカップを手に取りコーヒーを啜る。
 同じく僕も自分のカップを手に取り、カフェオレを口元へと運んだ。
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DATE: 2008/09/28(日)   CATEGORY: 短篇小説
平成妖異奇譚(7) 「食人鬼Ⅳ」
 魍魎退治というわけのわからない行事に無理やり参加させられた僕だが、愛染の他にはまたもや袈裟姿の劉心と、縦にも横にも脹(ふく)れた田島氏。そして見知らぬ少女の姿があった。
「久し振りだね。ぶふぅ」
 田島が息苦しそうに挨拶をしてきた。心なしか以前より太ったようにも見える。
まァ、あれだけのチョコレートパフェを食べていれば当然と云えば当然のことで、どうにも自業自得である。
「では、行こうか」と愛染が云った。
 僕以外のメンバーはこれからすることを理解しているようで、僕だけが何もかも置き去りである。どこかへと歩み始めようとする彼らを見て、どうしても僕は問わずにはいられなかった。
「行くってどこへ?」
 田島が目を丸くして僕を見た。
 それを見て、僕は呆けるようにぽかんとしていた。
「國彦くぅん、彼に説明をしてやっていないのか?」
 田島が愛染に訊ねた。
 田島の後ろには少女が引っついている。
「ああ、そう云えばまだだったね。どうにも神宮寺君は例の妖怪によって、混乱しているようだったから、タイミングを見て話すつもりが、どうも忘れてしまっていたようだ」
 愛染はごめんごめんと僕に謝った。
 それで許してもらえると思っているのだろうか。僕の怒りと戸惑いは相当なものだ。
「まあ、歩きながら話そうか」
「ぶふぅ。是非そうしてくれたまえ」
 そうして僕ら一行は歩き始めた。
 傷痕でツギハギ顔の愛染に、目隠しとピアスをした袈裟坊主に、少女を連れた肥満のすぎる男。どう考えても異様な光景だ。もしかすると妖怪以上に不気味な面子(めんつ)となっているのかもしれないなと思った。
 愛染の話によると、僕らは先の殺人鬼を捜しているらしい。まあ、それは予想が出来ていた。彼が「魍魎退治」と云ったところからも推測が出来るからだ。
 では何故、警察ではなく僕らが例の殺人鬼の捜索に当たっているかということだ。それは簡潔に云うと、田島氏の依頼なのだそうだ。よくはわからないが、田島が殺人鬼を捜していて、それを僕らが手伝っているということになる。
「僕が捜しているのは研究対象の男でね。とても貴重なサンプルなんだ。ぶふぅ。ちょっとした実験で、施設の外に放してみたら、我々はあっという間に彼を見失ってしまってね。まァ、なんとも情けないことなんだが、ぶふぅ、こうしてまた國彦くんに手伝ってもらっているわけだよ」
 田島のせりふにあった「また」という言葉が気になったが、その場は触れないことにした。どうにも説明が長くなりそうだからだ。
「でも、どうやって捜すんです? まさか夜が明けるまでこうやって殺人鬼が再び現れるのを待つんじゃないでしょう」
「そこで劉心を呼んでいるわけだよ。それに彼女も」
 そう云って愛染は僕がずっと気になっていた少女を指さした。
 少女は田島の陰に隠れている。もしかすると人見知りする質(たち)なのかもしれないが、この奇人怪人のふたりが揃えば、彼らを見て彼女が怖がっているとも当然のように考えられる。
「さっきから気にはなっていたんだが、その少女は誰なんだ?」
 僕は率直な疑問をぶつけた。
 愛染の傷痕がぐにゃりと歪む。彼は笑んでいた。
「彼女こそが例の巫女だよ。未来を読む少女さ。忘れてはいないだろう?」
 そんな話を聞いたこともあったな、と僕は思い返していた。
 確か非常に優れた記憶力と計算・推理力で、近い未来を見通すことが出来るという少女のはずだった。その未来を読む力に霊的な要因がないとも言い切れないが、とにかく予測と推測に尋常ではないほどに長けた少女なのだ。
 その少女は一見、普通の女の子だった。そこらへんを歩いていたとしてもまったく気に留めないような、何とも一般的な少女の姿だった。とても特別な力が備わっているとは考えつかない。
「彼女の予知では、犯人は今日このあたりに現れるはずなんだ」
「ぶふぅ、その通りだ」と田島も加わってそう云った。
「愛染、その犯人を見つけたらどうするつもりなんだ?」
 一般論で考えるとするならば、犯人を見つけても一筋縄で捕まえることは出来ないだろう。そもそも相手は凶悪な殺人鬼なのであるし、どうして僕らがその捕獲に成功することが出来るだろう? これは最初から無茶な計画なのだ。最悪の結果としてこちらの命が危ない。しかもその最悪が中々の高確率でくるときたもんだから堪ったものではない。
「それはそのときの状況によるさ。なに、こちらはこの人数だ。どうにかなるだろう」
 僕の思っていた以上に愛染の計画は適当だった。
 というかそもそもこんなもの計画とさえ云えない。ただの無謀でしかないのだ。
「ぶふっ、見つかりさえすればこちらのものだよ。君を危険には晒させやしないさ」
 そう田島は云うが、大体にしてすでに充分過ぎるほど危険と云えるではないか!
 僕は心中穏やかではなかった。無事に生き延びることが出来るだろうか。この面子と一緒よりか、数多(あまた)の妖怪どもと一緒に百鬼夜行と洒落込む方がずっとマシだというものだ。それほどまでに何とも信じがたい連中と僕は夜道をともにしているのだ。それも行く先には極悪非道なる残忍な殺人鬼が待っているのだから、何度も云うが堪ったものではない。
「劉心、何かにおうかい?」
 会話の間を縫うように愛染が訊ねた。
 それに対して「まだ何も」というのが劉心の答えだった。
 田島はいつの間にやらどこから取り出したのか板チョコなどをほお張っている。
 未来を読む少女は相変わらず、そんな田島に引っつくように歩いていた。
 僕たち一行はしばらくの間、真夜中の散歩を楽しむことになったのである。
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DATE: 2008/09/27(土)   CATEGORY: 短篇小説
月の輪 -エンゼル・リンク-
 空を見上げると月が出ていた。先日が十五夜だったことを思い出す。月はもう欠け始め、正円ではなくなっていた。よく見るとわずかに違う。
 少し歩いてから気付いた。空には月を囲むように輪が浮かんでいた。雲だろうか、月を中点として、コンパスで円を描いたようだった。不思議な空だ。それとも光の屈折か。
僕はその月と輪を眺めながら歩いた。綺麗に整った円だ、自然に出来た雲とは思えないから、やはり光の屈折なのかもしれない。宙を浮かぶ霧状に散らばった水分の粒子が、月の光を反射させているのだろう。……それとも偶然なのか? 偶然、月を囲むように輪の形をした雲が出来た?
オーロラと同じで、やはり原理のある現象なのだと納得すると同時に、美菜と会っていなかったらこの月の輪を見ることもなかったことに思い至る。しかも美菜が約束していたレイトショーの映画をキャンセルし、一緒に海外ドラマのDVDを観ることにならなければこの時間に帰ることもなかっただろう。そう思うとなんだか不思議だ。


 -1-


 静かな夜だ。人ひとりがいないだけでこんなに変わるものなのか。夫が出張でいない今夜は解放されたような、しかし寂しいような気のする夜だった。
 特にすることがなく、だけどまだ眠るには惜しい気がしてドラマを観ていた。友達が貸してきたDVDの海外ドラマだ。私は普段はドラマなど観ないのだけれど、やはり海外のドラマを観ると日本のドラマはまだまだだな、と思う。どうして海外ドラマはこうも続きが気になるのだろう。
 喉の渇きを覚え、冷蔵庫のドアを開けた。最初はペットボトルに入ったお茶を取ろうかと思ったが、少し考えて缶ビールを手に取る。別に誰に遠慮することもない。飲んで、眠くなったら寝よう。
 再びテレビの前に座り、缶ビールのプルトップを起こそうとしたその瞬間に、バタンという音がした。続いてガンガンガンと転がり落ちるような音。何だろうと見に行ってみると、階段の下で息子の亮が倒れていた。一瞬、頭の中が真っ白になる。
 慌てて119を押そうとして考えた。時計を見ると間もなく2時になろうとしている。今の時間だと道路も空いているだろう。救急車を待つより、車で病院に向かった方が早いのではないだろうか? 私は急いで息子を抱き、車に乗せた。イグニッション・キーを捻った直後、あのときビールを飲んでいなくてよかったと思った。
 車を発進させ、猛スピードで病院へと向かった。


 -2-


 のどかな夜だった。もう秋に入りはしたがまだ昼は暑い。しかし夜になるとだいぶ涼しかった。空気も澄んでいて星も見える。これで何も異常がなければ気持ち良い夜だった。
 深夜の街は静まり返っていて、人影も見えない。たまに擦れ違いはするが、ほとんど車も走ってはいなかった。
「随分と涼しくなったなぁ」
 助手席に座るが言った。
「そうですね。星も綺麗だし、良い夜です」
「このまま何もなければな」
 たまに中高生の深夜徘徊が目に留まるが、基本的には何も問題なくパトロールは終わる。今夜もそうだといいが。
何となく深夜徘徊をする中高生の気持ちを想像してみた。運悪く我々に見つかった中高生には、結構恨まれているかもしれない。しかしそれは仕事であり職務だ。気持ちもわからないではないが、俺にはどうしようもない。見逃してやって、もし事件などが起きれば、それこそ責任問題になるからそうもいかない。
 でも彼らの気持ちもわかる。俺も若いときには夜遅くまで遊び歩いていたし、何度か警察の厄介にもなったものだ。……そのときは警官の気持ちなど考えたこともなかったな。
 赤信号が目に入りブレーキペダルを踏み込むと、目の前を猛スピードで駆け抜けていく車が通った。完全にスピード違反だ。
「はぁ、せっかくの良い夜なのに」
 先輩も目でまったくだと言っているのがわかる。俺らは溜め息をつき、仕方なくパトカーを発進させた。サイレンを鳴らし、目の前を駆け抜けた暴走車を追いかけることにした。


 -3-


 まったく医師というものはハードな職業だ。確かに高給ではあるが、それでも割に合わないほどヘヴィな現場なのだ。それに周りはなかなか理解を示してくれない。ただ単に、なるまでが大変で、なってしまえばどんどん金が入ってくる楽な仕事だと思っているやつもいる。そんなのまったくの偏見であり、誤解だ。
 私は溜め息をついて、来週のことを考えた。来週にはただひとりである娘の誕生日がある。同僚に都合してもらって、その日はどうにか家に居れそうなのだが、問題はプレゼントだ。まだ何にするか決めていない。娘とのコミュニケーション時間も短いせいで、何が欲しいのかよくわからないのだ。これは妻とよく話し合う必要があるな。
職場でも、家庭でも余裕を持って過ごせていない気がする。いっそ無理にでも何日か休みを取って、家族で旅行にでも行こうか。もうすぐ紅葉も見物だろう、登山なんかもいい気がする。そんな夢想をして、少し口元が綻んだ。紅葉はタイミングが大事だ。うまく休暇を取れるといいのだが。
 夜空を見上げると月が出ていた。そういえば数日前には十五夜だったっけな。不思議なことにその月を囲むようにして大きな輪が浮かんでいた。何となく“天使の輪”を連想した。変わった空だなと思い交差点を曲がろうとした。
――そのとき、前方から猛スピードの車が迫り来て、思わずハンドルを切った。しかしそれも間に合わず、向かってきた車と衝突をした。強い衝撃が私を襲い、体に痛みが奔る。
 このとき私は、暢気にもシートベルトの安全さを再確認していた。


 -4-


 空に浮かぶ月の輪を見上げながら歩いていると、大きな衝撃音があたりに響いた。目の前を見てみると、車同士が衝突してしまったようだった。……大丈夫だろうか?
「大丈夫ですか?」
 白のセダンから男が降りて、相手の運転手に声をかけた。
 男の車はへこんでしまっているが、本人の命に別状はないようだ。幸い元気そうに見える。
「助けてください!」
 水色の軽自動車から女性が降りて、男に助けを求め出した。どうしたのだろう? 僕は2人に近付こうか悩んでいた。余計なことに巻き込まれるのは嫌なのだが、このまま野次馬でいるのもなんだか嫌だ。
「息子が!」
 女性は叫んだ。
 不審に思った男が、軽自動車を覗き込んでみると、そこには少年がいた。事故の怪我か、血を流している。
「大変だ。救急車を!」
 男が大声で指示した。
「ああ! やっぱり最初から救急車を呼んでいればよかったんだわ!」
 女性はパニックに陥っているようで、何を言っているのかよくわからない。
「まず落ち着いてください。……あなたは大丈夫なんですか?」
 男は意外と冷静な声で情勢に訊ねた。
「え、ええ。……大丈夫です」
 女性は落ち着こうと深呼吸をして言った。
「救急車を呼んでいれば…ってどういう意味です?」
「あの……実は、息子が倒れまして。その、救急車より車で病院に向かった方が早いと思って、こうして車を飛ばしていたんです」最後に女性は付け足した。「そのせいで、こうなってしまって……ごめんなさい」
 女性は本当に申し訳なさそうにしていた。
男は後部座席に横たわる少年の様子を見ている。
「偶然にも私は医者です。息子さんの容体を見てみるので、奥さんは救急車を呼んでください」
 本当に偶然だ。不幸中の幸いといえる。
「わ、わかりました!」
 すぐにサイレン音が聴こえてきた。
 まだ救急車が来るには早くないか? そもそも女性はまだ電話をしていない。よく聴いてみれば、これは救急車のものではなかった。このサイレン音は――パトカーだ。


 -5-


 暴走車を追っていると、前方で事故が発生していた。――案の定、さっきの暴走車だ。
 俺は先輩と視線を合わせ、息を呑んだ。急いで事故現場の近くに停め、パトカーを降り近寄った。そこには男性ひとりと女性ひとり、――それと少年がひとりいた。少年は怪我をしたのか血を流している。
「大丈夫ですか?」
 俺が声をかけると、女性が泣き出しそうな顔でこちらを見返す。
「救急車は呼びましたか?」
「いいえ。まだです」
 俺の問いには女性ではなく、男性の方が答えた。
「では至急――」
「すみません。私は医師です。この子は急いで病院へ連れて行った方がいい。私が付き添うので、パトカーで送ってもらえませんか!」
 男性から簡略に現在の事態について説明を受けた。俺は先輩の顔を見て、頷く。
「わかりました。では急いでパトカーに乗せてください」
「感謝します」
男性がゆっくりと少年を運び、パトカーの後部座席へと乗り込んだ。
「及川」
 先輩の呼ぶ声が聞こえ、俺は返事をする。「はい」
「お前は運転をしてその子とそのお医者様を乗せて、病院まで連れて行け。それから助手席にはそのお母さんを乗せてやれ」
 それではパトカーの席は埋まってしまう。
「先輩は?」
「俺はここに残る。車を残したまま全員が離れるわけにはいかないだろう。だからここに残って応援を待つさ」
 先輩の目がわかったらさっさと行けと言っていた。
「わかりました」
 俺はそう言って、子どもの母親を助手席に乗せ、パトカーを発進させた。再びサイレンを鳴らし、猛スピードで病院へと向かう。


 -6-


「やれやれ」
 ここに残った警官が呟いた。
パトカーが着いてからの一部始終を見ていた。おそらく少年は助かるだろう。……そう信じたい。
 応援を待っている警官が歩道の隅に腰を下ろした。僕は彼に近付いていく。
「大変でしたね」
 彼は僕を見て一瞬不審がる表情を見せた。しかし状況を悟ったのかすぐに元の顔に戻った。
「本当だ」
 彼は、厄介なことになってしまった現状を嘆いた。
「助かるといいですね」
 素直に思っていることを言った。
 彼は僕の顔を見た。
「ああ、そうだな」
 すぐそこに自動販売機が明かりを放っているのが見えた。
「何か飲みますか?」
 僕が指さす先を見て、言いたいことを理解したようだ。
「奢りか?」
もしかして勤務中に市民から何かをもらうのは規則に反するのだろうか、などと考えながらも僕は答えた。「ええ。奢りますよ」
「そうだな。まあ、構わないだろう」彼は自分自身を納得させるように言った。「じゃあ、缶コーヒーを頼む。ホットで」
 僕は何枚かの硬貨を投入し、缶コーヒーのボタンを押した。一瞬、どれがいいのか訊こうかとも思ったが、面倒になって普段自分が飲むコーヒーと同じのにした。それを続けて2本買う。
「どうぞ」
 僕は彼に熱い缶コーヒーを渡す。
彼は「悪いな」と口元を緩めながら言った。
「あ、そうだ」僕は思い出して、彼に教えることにした。「今夜の空は不思議なんですよ。ほら、あそこに月があるでしょ?」
「ああ」
「よおく見てください。あの月を中心に、輪になってるのがわかりますか?」

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DATE: 2008/09/26(金)   CATEGORY: 雑記
Fight fire 上戸彩。
ちょっと数日間、京都に行ってきます。
小説の方は自動的にアップされるようにしていきますが、コメント等は返せないかもしれません。

そういうことでよろしくお願いしますねー。

ゆっくり観光してくる時間はないんだけれど、
出来るだけ楽しんできたいと思いまーす。

では、行ってきまーす!!
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DATE: 2008/09/26(金)   CATEGORY: 短篇小説
平成妖異奇譚(6) 「食人鬼Ⅲ」
「君が見たのは鬼じゃない。歴きとした殺人犯さ」
 この説明を受けるのは何度目になるだろう。
 僕はかたくなにその意見を否定して、あれは鬼だと言い張っている。
「まァ 殺人鬼という意味合いでは、君が見たのも鬼なんだろうが」
 とまあ愛染は相変わらずのことを言う。
「僕は見た。鬼が人を喰っていたんだ!」
「正確にはその脳をだけどね」と愛染が訂正を加える。
 死体の脳みその一部がなくなっていたというのはあとで判明した事実である。
 そしてそこには犯人の歯形と唾液が残っていたようだ。どうやら犯人はその場で脳みそを食していたようだ。それもむしゃぶりつくようなカタチで。
「まるでロバート・マウドスレイだ」
 聞き馴染みのない名だった。
 思わず僕は聞き返す。
「なんだい? 知らないのか?」そう驚いたように愛染は云い、そして続けた。「1974年にイギリスで逮捕されたクレイジー野郎の名だよ。彼は最初、普通の殺しで逮捕されたんだ。そして精神鑑定の結果、完全に異常と見なされる。当然、精神病棟行きさ。でもそれで事件は終わらない。1977年にマウドスレイは入院患者を人質に独房で篭城する。刑務所の護衛官たちが突入したころにはマウドスレイは人質の8人の脳みそを全て平らげていたんだ。恐ろしいことに生で、だ。ピーター・ブライアンやジェフリー・ダーマーなど脳を喰らった殺人鬼も少なくはないが、ブライアンはバターソテーで、ダーマーはトマトで煮込んで食べた。彼のように生で食したっていう異常者もそういないよ。まさに狂人さ」
 まさかここまで詳しく説明されるとは思ってもみなかったので、少々驚いてしまった。
 どうやら僕が妖怪に詳しいように、彼は殺人鬼についてとても知識があるようだ。どうにも似た2人が出会ってしまったらしい。
「そんなに熱く語られると人を見るたびに脳みそのことを考えてしまいそうだ」
 僕は愛染を皮肉った。
「倫理的な問題もあって人のは食べられないが、仔羊の脳なんかは非常に美味だよ」
 彼は、冗談だよ、とでも云うようににっこりと不敵な笑みを見せてくる。
 まさか本当に食べたことがあるんじゃないだろうな、と僕は思案した。
 しかしこの男のことだから、人間の脳を食べたことがあると云っても僕はそう驚けそうにない。

 ***

 人が倒れている。その頭に喰らいつくのは兎のように耳が長い赤面の鬼児(おにご)だ。
 艶のある長い髪をし、裂けたような大きい口で男の頭に齧(かぶ)りついていた。
 僕はそれをただ見ていた。ぼーっと突っ立っていて、男が食べられるのを呆けるように眺めているだけである。
 鬼児は僕を見た。前髪が切り揃えられていて、なんとも言い尽くしがたい不気味さがある。どうにも気味が悪く、僕は目を逸らす。

 ピタピタピタ。

 鬼児が近付いてくる音がした。
 恐怖で声もうまく出せない。誰の助けも呼べなかった。

 ――神宮寺!!

 愛染の声がした。
 僕はゆっくりと目蓋(まぶた)を開くと、そこには相変わらずのツギハギ顔の愛染が僕を揺すっていた。どうにも心配そうな顔でこちらを見ている。
「大丈夫かい?」
 気付くと僕は汗だくだった。
「愛染‥僕は…」
「なに、君は悪い夢でも見ていたんだろう。魘(うな)されていただけさ」
 あたりを見回した。
 ここは僕の部屋だった。
「凄い汗だ。夢には鬼でも出たか?」
 僕は深く息を吸って、そして吐いた。
 そうしてゆっくりと深呼吸を繰り返す。
「ああ、その通りだよ。鬼が出た」
 冷静さを取り戻そうと必死だった。
 ここは夜の外界ではない。安全なのだと自分に言い聞かせる。
「また毛むくじゃらの鬼かい?」
「ああ。でもあれは子供だった」
「子供の鬼か?」
「というよりあれは魍魎(もうりょう)だな」
 夢の光景を思い出して、自分の知識と結びつける。
 あれは確かに魍魎だった。
「魍魎? 魑魅魍魎(ちみもうりょう)の魍魎?」
「そうだよ。その魍魎だ」
 愛染がわからないという顔を作って僕を見る。
 それを見て、仕方なく僕は魍魎の説明をすることにした。
「魍魎と云うのは、まさしく魑魅魍魎の魍魎さ。どう説明したらいいかな。魍魎とは『罔両(もうりょう)』、つまりは半影のことを指す。半影というのは薄い影のことだ。何の光も当たらない影とは別に薄い影というのがあるだろう? あれのことだよ。あの不明瞭さから転じて、『罔両』は亡霊や物の精霊のことを意味するようになったんだ」
「ふむ、『罔両』なら僕も知っている。光の届かないところで発生する本影に対して、外などで、例えば太陽の光によって出来る薄い影のことを指すのだろ?」
「そうだ。さらにそれから水の神や木石から生じる精霊を『魍』と呼び、山林などから生じる精霊を『魎』と呼ぶようになったんだ。それを総じて『魍魎』と云うようになったんだよ」
「なるほど。魑魅魍魎はの様々な妖怪や化け物を総じて指すんだね。だったら『魑魅』にも似たような意味があるわけだ」
「正解だ。あまり寄り道しても話が進まないから詳しくは省くけれど、『魑魅』は、中国の文献である『史記』や『魯語』などを参考にすると山の神や怪物だということになる」
「それはわかったんだが、それでは『魍魎』とは特定の妖怪ではないのか? 君は鬼ではなく、魍魎だと云ったんだぞ? それでは話がおかしいじゃないか」
「確かにその通りだ。でも『魍魎』という妖怪は確かに存在するんだよ。『淮南子』という文献に“蛧蜽(もうりょう)は姿形が3歳ぐらいの小児のようで、肌は赤黒く、目は赤く耳は長く、髪の毛は美しい”と『魍魎』の容姿が記されている」
「それで君は子供の鬼だと云ったわけだな」
 愛染のせりふに僕は頷いた。
 そして再び説明を続けた。
「さらに『本草綱目』には“罔両は好んで死体の肝を食べる”との記述が見られる。鳥山石燕はこれらをまとめて『今昔画図続百鬼』に“形三歳の小児の如し。色は赤黒し。目赤く、耳長く、髪うるはし。好んで亡者の肝を食らふと云”と書いているんだ。つまり、それが魍魎の姿形と性質なんだよ」
「ふむ。完全ではないが、理解出来たような気がするよ。しかし最初の方はいらなかったんじゃないか」
「それは君が魑魅魍魎の魍魎かと訊いたからだよ。それがなければ手早く魍魎の説明に入ったさ」
「それはすまないな。まさかの誤算だ」
 皮肉を込めた笑顔を浮かべ、愛染は僕に云った。
 僕は再び夢の光景を思い返していた。人の頭に喰らいつき赤い鬼児。鳥山石燕の絵図も同様に、おかっぱ頭の魍魎が墓塚から死体を暴き、その頭に齧(かじ)りついているのだ。
 多分、僕はそれから連想するようにこの夢を見たのだろう。実際にこの眼で見た恐怖的な映像が、石燕の魍魎をこの記憶から掘り返したのだ。
「さて、ではそろそろ鬼退治ならぬ魍魎退治に出掛けようじゃないか」
 突然に愛染はわけのわからないことを言い出し、そして立ち上がった。
 僕は渋ったのだが、またもや無理やりに外に連れ出されることとなった。
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DATE: 2008/09/25(木)   CATEGORY: 雑記
どちらかというと映画監督になりたかったりする。
こんにちは。匡介です。
「奇怪探偵・有島奇亜人」の続編を書き終わりました。そう遠くないうちに公開する、はず。←曖昧(笑)

最近は色々な構想がいっぺんに浮かんできて、何から手をつけたらいいかわかんなくなってました。
でも何とか奇怪探偵の続編を書ききった…。←本来ならもうだいぶ前に出来ててもいいくらい。

他にもアレの続編とか新しいシリーズとか、
色々考えてはいるんですが、何故か着手にいたりません!

さらには奇怪探偵の続編をラストを書いていた昨夜からどうにも調子が出ません。
一応書き終えたんだけど、完全に納得している出来ではなく。。

しばらくの間、書くことから離れて読むことに専念しようかなぁ。
それに最近は映画を観ることが楽しくて仕方ありません。
古い映画とか、探してみると面白いのはたくさんあるだよなぁ。

特にホラーは古いの面白い!!
最近では「死霊のはらわた」が面白くてよかった! 若干コミカルではあったけど(笑)
古典ホラーともいえる映画って、今観るとどこかコミカルな要素が含まれてるんだよなぁ。

ちなみに近くのレンタルショップには「死霊のはらわた2」がなくてショックです。。


以下は錆浅葱さんのところで踏んだ地雷バトンですが、単なる暇潰しなのでノールールで。
やりたい方は別ですが、特に回すつもりもありません。
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DATE: 2008/09/24(水)   CATEGORY: 短篇小説
平成妖異奇譚(5) 「食人鬼Ⅱ」
 殺人犯を捕まえる、と云って半ば無理やりに僕を部屋から連れ出したのは愛染だ。
 妖怪が蠢きひしめく外の世界に出てきてしまった僕は少々のパニックとともに恐怖と闘っていた。
「犯人が誰だかわかっているのか?」
 僕は叫ぶように愛染に問いかけた。
「それは僕にもわからない。でも犯人は捕まえるさ」
 何を根拠にそんなことを云えるのか理解不能だった。
 一体、何が彼にこれほどまでの自信を与えているのだろうか。早くも彼には正気に戻って頂きたい気持ちでいっぱいだ。
「もうすぐ劉心も来るよ」
 劉心というのは、僕は愛染に初めて出会った日に、彼と一緒にいた男の名前だった。
 スキンヘッドに数々のピアスをぶら下げているのも関わらず、彼は見るたびにいつも和服だった。それがどうにもミスマッチで僕は内心歯痒い気持ちに駆られる。
「わざわざ彼を呼ぶということは、何か訳ありなのか?」
「まあ、そういうことになるね」
 しばらくすると相変わらず不気味な風貌の劉心が登場した。
 何を考えたのか今夜の格好は坊主が着る袈裟だった。その坊主頭には似合うだろうが、耳でジャラジャラとしたピアスを見ると、何だか破戒坊主のようだ。
 云い忘れていたが、劉心は盲目らしく、いつも目には布を巻いている。これが海水浴場ならば西瓜割りだとでも思われて、まだ不審には思われないが、スキンヘッドで沢山のピアス、そして目元には白い布を巻いた和服の男が街を歩いていたらそれはそれは異様である。
 ツギハギ顔の愛染と並ぶと、これはもはや喜劇に近い。
「さあ、行こうか」
 行くってどこへ? そう云おうとしたが、愛染は先を行ってしまい僕はそれを追うはめになった。結局、どこへ向かっているかもわからないまま、道を進む。
 しばらく歩くとピタピタピタと背後から足音がした。思わず僕は足を止め、後ろを振り向いた。すると誰もいない。また歩き始めるとまたピタピタピタと、まるでアスファルトの路上を裸足で歩くような音が聞こえてくる。再び歩みを止め、振り向いてみた。やはり誰もいない。
 咄嗟に“べとべとさん”だと思った。“べとべとさん”とは足音のみの妖怪だ。足音だけが自分についてくるのだ。
 僕は冷静に「べとべとさん、お先にどうぞ」と云う。これが“べとべとさん”の正しい対処法であり、言霊である。妖怪に一定の言葉やせりふが有効的だというのは決して珍しいことではなく、よくあることなのだ。有名なところで、近代妖怪として世間を震え上がらせた“口裂け女”もこの類いである。彼女には「ポマード」という言葉の連用が有効的なことで知られている。このように妖怪に言霊をぶつけるというのはとても重要な意味合いも持つ。
 “べとべとさん”を見事に避けた僕は再び歩を進めた。今度は何の足音もしない。どうやら何事もなく退散してくれたようだ。
 しばらくするとまた足音がついてくるようになった。僕は再び「お先にどうぞ」と“べとべとさん”から免れる言霊を放った。しかし足音は一向に止まず、不審に思った僕は後ろを振り向こうとした。その瞬間、何かが僕を追い抜いていった。びっくりして僕は目を凝らすと、そこには提灯(ちょうちん)を持った子供がいるではないか。暗がりでわかりにくいが、子供の顔は赤かった。
 その子の正体も僕は知っていた。彼は“提灯小僧”である。話には雨の降る日に現れると聞いていたが、どうにも今は――真夜中にこんな表現も不釣合いだが――晴れである。
 彼は僕の少し手前で足を止め、立っていた。“提灯小僧”というのは、人を追い越し、その先で止まり、それを追い越し返すと、再び彼が追い越してくるといった変わった妖怪なのだ。きっと僕に追い越し返して欲しくて立っているのだろう。
 困ったことに“提灯小僧”については特定の退散方法を知らなかった。このまま追い越し返し合いを続けてやってもいいが、妖怪と一緒というのはどうにも不気味だ。出来ればそれは回避したい。
しかしながら他にどうしようもないので僕は彼を追い越し返した。すると彼はキャッキャして喜びながら僕を追い越す。しばらくの間、それが繰り返された。
 それが途端に気配を感じなくなったと思うと彼は消えていた。僕との遊びに飽きたのか“提灯小僧”はどこかへと行ってしまったのである。何とも云えない安堵感が僕を襲った。これでやっと追い越し返し合いから解放されるというものだ。
 そこで僕は前を見ると綺麗さっぱり愛染の姿が消えていた。それどころが劉心の姿もない。
 安堵感は消え、代わりに急激に不安感が募った。僕は今、魑魅魍魎が跳梁跋扈するこの夜の世界で、たったひとりなのだ。体のあちこちが震え始めた。

 グチャリ。

 何とも形容しがたい奇妙な音が聞こえた。
 どうにも気持ち悪い音だ。何かが潰れた音にも聞こえる。

 ピチャリ。

 今度は水の音だった。
 水でなくとも液体が滴る音だったに違いない。

 ピチャリ。

 僕は恐るおそる水の音がする方に目を向けた。
 そしてそこにはアスファルトに横たわる人と、それを上から覗き込んでいる鬼がいた。鳥山石燕が描くような毛むくじゃらの鬼だ。
「うわぁぁぁぁああああ!!」
 思わず叫んだ。
 鬼が、鬼が人を食べているのである。
 このままではいずれ僕も喰われてしまう。何とかして逃げなければ。
 しかし、この思いとは裏腹に僕の足は凍りついてしまったかのように動かなかった。そして次第にガクガクと両足が震えだす。
僕は何の抵抗も出来ず、その場に座り込んだ。
「神宮寺!!」
 その大声を発したのは愛染だった。
 彼の化け物染みたツギハギ顔を見て、これほど安堵したことも、そして嬉しかったこともない。
「大丈夫か?」
 愛染は僕のところに駆け寄ってきた。
「お、鬼だ。鬼がいた…」
「鬼?」
 それを聞いて愛染はあたりを見回した。
 そしてゆっくりと僕の傍から離れ、例の横たわる人へと近付いていった。
「駄目だ。死んでいる」
 その死体を見るやいなや彼は言った。
「頭が割られているよ。これじゃどう頑張ったって蘇生のしようがない。これで生き返りでもしたらそれこそ妖怪の類いだ」
「餓鬼のにおいがします」
 気付くと劉心がいた。僕のすぐとなりに。
「そうだな。そのようだ」
 僕には意味がわからなかった。
 もう何を理解すればいいのかも、何かを理解する気力もなかった。
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DATE: 2008/09/22(月)   CATEGORY: 短篇小説
平成妖異奇譚(4) 「食人鬼Ⅰ」
 人を人が喰らう。それこそ人ではなく鬼の所業である。
 それは人道に反する最大の禁忌(タブー)なのだ。

 最近、世間を騒がせているのはとある殺人だった。
 被害者は少年だった。高校生の少年が撲殺されたのだ。
 次の週になると今度は女性の死体が発見された。頭が割られていて、中からは脳みそが漏れていたという。聞くだけでも気分が悪くなる話だ。
 このふたつの事件に対して関連性があるのではと疑われているのは、両事件が起こったのがどちらも同じ地域だからである。その距離は20kmほどで、短期間に2件もの殺人が行なわれたならまずその関連性を探るだろう。警察の判断は的確だと考えられる。
 その殺人現場が僕の住むアパートからそう遠くもないことから僕は強迫観念に囚(とら)われていた。つい身近に“死”を意識してしまい、悪い癖が出たのである。
 毎夜毎夜、僕の周りには妖怪たちが蠢いていた。部屋から外を覗くとそこはまるで百鬼夜行のごとく妖怪の大行列なのである。中には人身を銜(くわ)えた鬼もいた。僕は今回の殺人があの鬼の手によるものなんじゃないかと思い始めている。
「そろそろ出てきたらどうだ?」
 ずっと引き籠もりっぱなしの僕をどうにか部屋から出そうと愛染が訪ねてくるのも今日で3日目だ。
「外は妖怪がウジャウジャしてる」
「君の話を聞くとそれは夜のことだろう? 今は昼だよ」
「昼間に鬼が出ないとも限らない」
「まァ、そうなんだが。でも僕が入るくらいいいだろ?」
 もう3日も通ってきてくれていることもあり、僕はそっと部屋のドアの鍵を開けた。
 愛染は「やあ、調子はどうだい?」と云って部屋の中へと上がりこんでくる。久し振りに見る、ツギハギ顔はいつも以上に不気味だ。
「君も臆病なやつだなぁ。妖怪なんて見慣れてるんだろう?」
「そうだけど、今でも恐怖の対象だ」
「やれやれ。君に憑いてるものの根は相当深い様子だな」
「悪かったな」
「構いはしないさ」
 テレビを点けると、例の殺人事件の続報が流されていた。
 といっても大した進展はないようで、似たり寄ったりの内容を全視聴者に伝えている。
「どうやら何もわかったことはないらしいな」
「早く解決してほしいものだ」
「全くだ。このままでは僕の友人がこの狭苦しいアパートの一室で余生を過ごすことになってしまう」
 そう云って愛染はチラリとこちらを見た。
「警察に鬼を捕まえることなんて出来るとも思わないけどね」
 鬼ならば陰陽師かなんかに頼むべきだ。
「まだ鬼の仕業とでも思っているのか? 鬼ならば何故、死体が残る? 持って帰って食べてしまうんじゃないのかい?」
「そうとは限らない」
「その通りだ。そうとは限らない」
 僕が否定すると、愛染はすぐさま手のひらを返して僕の意見に同意をした。
 彼の顔がニヤリと笑う。同時に口元と頬の傷が歪んだ。
「久し振りに見る顔がこんなスカーフェイスじゃ堪らないってもんだよ」
「スカーフェイス。あれは良い映画だ。中々面白い」
 いつの間にか、互いに冗談を交し合えるほどには僕も元気を取り戻していた。
 これは少し愛染に感謝しないといけないかもな、と思いつつ、彼に借りが出来たみたいで何だか居心地が悪い。
「しかし君の部屋は見事に妖怪一色だな」
 愛染が部屋を見回した。あたりには妖怪関連の書物や文献を始め、妖怪画などがひしめいている。どれも僕のコレクションだった。
「これで妖怪が怖いと云うんだからお笑い種だ」
「趣味が高じて、だよ。それに怖いと思うほどに相手のことを知っておかなきゃならないと思ってしまう。それでまた調べて、恐怖の対象が増す。どうにも悪循環だよ」
「それは中々厄介だね」
 コレクションを見て回る愛染はひとつの絵の前で目を留めた。
 妖怪画を指さして、愛染は僕に問う。「これは?」
「それは鬼だよ」
「人の腕を銜えてる」
「ああ、きっと食べてるんだろう」
 腰には虎の皮。いかにもな鬼の容姿のイメージである。
「こちらの毛むくじゃらなやつは?」
 愛染が再び指し示した。
僕は彼が示す先を見て「あァ」と声を漏らした。
「それも鬼だよ」
「こちらは随分と鬼らしくない鬼だね。いや、でも確かに鬼だ。僕の想像する鬼より毛むくじゃら過ぎるのかな」
「それは鳥山石燕作の鬼だよ」
「あァ、鳥山石燕か。それは有名な絵師だね」
 じっくりと鬼の絵を愛染は眺めていた。
 そして、ふと何かに気付いたようで声をあげる。
「この石燕作のは、よくは見えないが虎の皮を腰に巻いてるのかい?」
「たぶん、そうじゃないかな」
「ふむ。『世に丑寅(うしとら)の方角を鬼門といふ。今鬼の形を画(えが)くには頭(かしら)に牛角(うしのつの)をいたゞき腰に虎皮(とらのかわ)をまとふ。是(これ)丑と寅との二つを合わせて、この形をなせりといへり。』とある。これは洒落だね。まるで謎解きだ」
「妖怪にはそういうのが多いよ。それにそれ違うが鳥山石燕が創作した妖怪は洒落が高じた謎解きがほとんどなのさ」
「なるほど。これは中々面白い」愛染は感心するように続けた。「君が魅入ってしまったのもわからないでもないな」
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DATE: 2008/09/21(日)   CATEGORY: 雑記
3000!!
土曜日。午前中、弟の運動会。
仕事で行けなかった父親の代わりに親子競技に出る。

とんでもない威力を誇る紫外線により、たった午前でだけ夏より焼ける。ヒリヒリが俺を襲う。

同日、午後。映画を観に行く。
先日の「ハムナプトラ3 呪われた皇帝の秘宝」に引き続き、「ウォンテッド」を観た。
(…ということで先日観たのは「ハムナプトラ3」。)

久々にバイオレンスな映画を観た気がする。主人公のトレーニングが痛々しい。
個人的には最初の窓ガラスを突き破るシーンがイチバン好き。

ちなみにアンジーは相変わらずかっこよかった! 主人公よりかっこよかったかも(笑)

もう少し1対1の闘いがあってもいい気がしたかな。
ちなみに帰ってからは爆睡。もはや午前でかなり疲れてました。

日曜日。昼に起床。DVDを観る。
「案山子男」は斬新だった(笑) まさかホラーであんなに俊敏に動くとは!しかもよく喋る!
某金曜日に現れるホッケーマスクのあの人や、どっかの街で夢に出てくるあの人も喋るシーンが思い浮かばない。つい先日観た「テキサス・チェーンソー」のレザーマスクも喋らなかったなぁ。とにかく斬新。


ぴーえす。

部屋で本の整理をしていたら同じ本が2冊あることに衝撃を受ける。負った傷は深い。
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