みやび萬紅堂。
いらっしゃいませ。コメントはお気軽に。
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Cofee Break ~本の虫~
 昼休みを告げるチャイムと同時に、生徒たちは思い思いの場所へと足を向かわせた。
 ひとりは他のクラスの友達に会いに行き、ひとりは学食へ昼食を摂りに、ひとりは先生に職員室へと呼ばれ、ひとりは図書館に勉強をしに自ら歩を進める。
 そんな中で、この高校の生徒である進藤順平は、その手に数冊の本を取り、保健室へと足を運ぶ。彼が保健室に入ると、中ではこの学校の保健室医である舞子と生徒の京介がコーヒーカップを片手に談笑をしているのが見えた。
「いらっしゃい」
 そう言って、舞子は順平を歓迎した。
「どうしたの? 具合でも悪い?」
 彼女は職務上として、順平に心配する素振りを見せるが、
「…なわけないよね」
 そう言って舞子は笑った。
 彼女の笑顔はそこらの男どもを一瞬で腑抜けにするほどの凄まじい威力を持っているので厄介だ。
「相変わらず、京介は来るの早いね!」
 順平がそう言うと、京介は彼に目を遣り、言う。
「順平より教室が近い。それだけのことだよ」
 確かに彼の言う通り、京介のクラスがある教室は、この学校の一年生のどのクラスの教室よりも距離が近いのだ。
「にしても早いよ!」
 そう順平は指摘したが、京介はそれを微笑んで返すだけだった。
「今日も多いね」
 その京介の言葉に、順平は少し自慢げに手に持っていた本を保健室にある白いテーブルの上に置く。
 そうしてテーブルの上には数冊の本が載せられた。
「昼休みに読みきれるだけの量にしたら?」
 順平にそう指摘したのは舞子だった。順平は昼休みが終わればどうせ持って帰るというのに、毎回のごとく数冊の本を持って保健室を訪ねるのだ。
「別にいいじゃん~。少しは先生も読んだら?」
 順平のその提案に、舞子は蒸らしすぎたコーヒーのように苦々しい顔をした。
「私、難しいのって苦手だわ。順平君の持ってくる本ってどれも難しそうじゃない。だから私は遠慮しておく」
 順平はけらけらと笑った。
「先生、それでよく先生になれたね」
「放っておいてくれるかしら?」
 舞子は作ったような笑顔でそう答えた。順平はまだけらけらと笑っている。
 そこに京介がいつの間にかに淹れていたコーヒーをカップに注ぎ、順平に差し出した。
「何にも言わなくて出てくるなんて、やっぱ京介は気が利くぅ」
 そう言ってから順平はテーブルの上の本を一冊手に取り、ページをめくり始める。
「コーヒーは冷めないうちに、ね」
 京介はそう言って、自分のカップを口元に運んだ。
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DATE: 2008/07/30(水)   CATEGORY: 「怪奇蒐話」
「紙袋を被った男」
仕事の帰り道。もう夜は遅く、あたりは暗い。
会社から自宅までは歩いて20分くらいの距離にある。とても近くて便利だと思う。

帰り道にある公園の前を通る。
とても小さな公園で遊具はすべり台とブランコしかない。本当に小さな公園だ。

今日もその公園の前を通ろうとすると音がした。
グシャという音がある一定の間隔で繰り返されているのだ。

グシャ。グシャ。

それは公園の中から聴こえてくるようだった。
そのまま素通りしてもよかったのだが、気になって公園の中を覗いてみる。

暗くてよく見えない。

何かが動いていた。
シルエットからは何かが振り上がっては落ちるように見えた。ここにあんな遊具があっただろうか。

グシャ。グシャ。

その音は何かが落ちるシルエットと同じタイミングで聴こえた。
振り上がる、落ちる。グシャ。振り上がる、落ちる。グシャ。

月明りが差して少しだけ公園の中が見えた。

そこには人間が立っていた。頭には紙袋を被っている。
背が高い。きっと男だと思う。

男は右手を振り上げた。

その手には斧が握られていた。

斧が振り下ろされる。

グシャ。

男が振り下ろした斧の先には女が横たわっていた。
いや、それが女だとは言い切れない。もはや原形をなくしていたのだ。

こっちに気付いたのか男は振り向いた。

紙袋には目の部分が切り出されていて中から外が見えるようになっていた。
その穴からこちらを覗く。こちらからは男の目は見えない。

思わず走って逃げた。ひたすら走って自宅に向かった。
途中で振り向いて後方を確認してみると、公園から男が出てきた気配はない。誰も追ってきていなかった。

自宅に着くとすぐに布団を被っておとなしくしていた。
しばらくすると眠りに落ちた。

次の日は普通に会社へ行った。
自宅を出る前にニュースを確認したけれど、昨日のことに関係するようなことは何もなかった。

今思うと暗い中で見たものが本当に死体だったかどうかもわからなかった。


***


3日後の夜、玄関のわきにある開いた窓に人影が見えた。


目のところだけ切り抜かれた紙袋を被っている。


その穴からこちらを覗いていた。
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DATE: 2008/07/29(火)   CATEGORY: 「怪奇蒐話」
「えんぴつ削り」
芯が折れたえんぴつをえんぴつ削りにさしこんだ。
電動式のえんぴつ削りは大きな音を立ててえんぴつを削っていく。


「ぎゃあああああああ」


という叫びが響いた。


えんぴつ削りからえんぴつを抜いてみると、
えんぴつの削った部分にはべっとりと血がついていた。
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DATE: 2008/07/28(月)   CATEGORY: 短篇小説
laugh maker.
あるところにひとりの男がいました。


男はとても人が良く、
周りからとても親しまれていました。


町で男を知らない人はいなく、
誰しもが彼のことを大好きだったのです。


男は人の“笑顔”が好きでした。
なので人が喜んでくれることを積極的にやりました。
ときには他の人なら嫌がることも笑顔で引き受けました。


男は人気者でした。
誰しもが彼を愛していました。


ある日、男は泣いているひとりの子どもに出会いました。


――どうしたの?


子どもは大切なオモチャを失くしたのだといいました。
それは自分の宝物だというのです。


男は子どものオモチャを探してあげました。
日が暮れ、太陽が傾いても探し続けました。


気付くと夜になっていました。
しかし、それでも男は暗がりの中を必死に探しました。


男は何日も、あきらめず子どもの宝物を探すことを続けました。


そして、子どもはいいました。


――もういいよ。


男は「大丈夫、きっと見つかる」と子どもを元気づけました。


――本当にもういいの。


子どもは彼にいいました。


――ありがとう。必死に探してくれただけで嬉しいんだ。


あまりに男が必死に探してくれるので、子どもはそれだけで嬉しくなってしまいました。
今までどの大人だってそんなには探してくれなかったからです。


子どもに笑顔が戻ってきたのを見て、男は子どものオモチャを探すのをやめました。
彼が本当に取り戻してあげたかったのは、その大切だというオモチャではありません。
そのオモチャと一緒に失くしてしまった子どもの笑顔だったのです。


――いいかい? きみが本当に失くしてはいけない宝物はその笑顔なんだ。


そう彼はいいました。
子どもも彼のいいたいことを理解したかのように大きく頷きました。


男は人の“笑顔”が大好きでした。
しかし自分の知らないところで、たくさんの人々が悲しみにあけくれているということも知っていました。


男はそれが悲しくて仕方ありませんでした。


戦争だってそうです。
笑顔を生み出さないだけではなく、おおくの悲しみの涙を流させます。


男は“悲しみ”が嫌いでした。


ある日、人々の笑顔をのぞんだ男は“悲しみ”をたべはじめました。
世界中の“悲しみ”をむしゃむしゃとたべはじめたのです。


それを見た人々は男をとめました。
しかし彼は食べるのをやめませんでした。


“悲しみ”でふくれあがった男は、その目からたくさんの涙を流しはじめました。


それでも男は“悲しみ”をたべ続けます。


男から流れる大量の涙は、やがて川となり、海へとつながりました。


たべ続けるのをやめない男はどんどんとふくれあがり、
もう破裂すんぜんのところまできてしまいます。


それでも男は“悲しみ”をたべることをやめようとはしませんでした。


数日かけて、男は世界中すべての“悲しみ”をたべつくしました。
すると世の中から“悲しみ”は消え、人々は笑顔につつまれました。


それを見た男も笑顔になりました。


世界中がひとりのこらず笑顔になったのです。


しかし、その笑顔が続いたもみじかいあいだだけでした。


しばらくすると、ギリギリまで“悲しみ”をたべ続けた男は、
その大きすぎる“悲しみ”に耐え切れずに死んでしまいました。


すると彼の死を知った世界中の人々が悲しみの涙を流しました。


いつしか男は世界中の人々にまで愛されていたのです。


そうしてふたたび世界に“悲しみ”が戻りました。


しかし彼の流した涙でできた川は、おおくの人々の恵みとなり、
たくさんの笑顔をつくりました。


その川には、人々の“笑顔”を愛した男の名前とおなじものがつけられました。


そしてその川は人々から愛され、
男が死んだあともたくさんの笑顔をつくり続けることになったのでした。
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DATE: 2008/07/27(日)   CATEGORY: 「怪奇蒐話」
「手の甲の傷」
ひっかけて左手の甲を切ってしまった。
それはすこし大きめな切り傷になってしまった。

数日後。

最近誰かから見られているような気がする。
左手の甲を見てみると傷口がすこし開いていた。

そのまま見ていると左手の甲の傷口が、がばっと開いた。

傷口の向こうには目があった
その目はこちらを見ていた。

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DATE: 2008/07/26(土)   CATEGORY: 短篇小説
夢魔。
猫だ。黒い猫が居る。
私が公園のベンチに座り呆けていると気付かぬ間に黒猫が目の前に立っていた。
その猫はこれぞ黒猫!というまでに真っ黒い猫だった。

「牛乳あるけど飲む?」

黒猫は返事をするようにニャアと鳴いた。
私は牛乳パックを開きビニール袋を敷いてその上に中身を垂らす。ビニール袋は受け皿となって中心には牛乳が溜まった。
私が、飲んでもいいよ、と云うとそれを理解したかのように黒猫はビニール袋の上に溜まった牛乳を飲み始めた。ゴクゴクという牛乳が咽喉(のど)を通る音が聴こえてくる。

「こんなところに居たのか。」

私は反射的に声の主の方へと視線を遣(や)った。
そこには一人の少年が立っていた。歳は16、7のように見える。

「どうも申し訳ありません。」

私は彼の口から発せられた言葉の意味を理解するまでに数秒かかってしまった。
彼の言動から予想するに彼はこの黒猫の飼い主なのだろう。それ以外に私に謝る理由が見つからない。

「いえ。全然構いませんよ。」
「その牛乳はわざわざ買って頂いたのでしょうか。」

私はそれを否定して、小さい頃から牛乳が好きでいつも持ち歩いていることを説明する。
その説明を終えたあとに、いきなり何を云っているのだろうと気付き、少し恥ずかしくなる。
「そうなんですか。」と彼は云ったのが聴こえると同時に私の顔に熱が帯びていくのを感じた。

「お礼をしたいのですが。」
「お礼なんて別にいいですよ。私が勝手にした事だし。」
「でも。もしお時間をお気にされないようならば是非ともお礼を。」

結局私は彼の誘いを受けてしまった。
そうして私は彼に連れられるがまま公園を出て、少し歩いたところにある建物の前に着いた。建物には看板があり<あやかし堂>と書いてある。
「ここは僕の店です。」と彼は云った。彼は私の予想より年上なのかも知れない。

彼のお店の中は骨董品らしきもので埋め尽くされていた。おそらくここは骨董品屋なのだろう。
私の予想が外れていたとしても彼はまだ若いように見える。その若さで骨董品を扱うというのは中々風変わりだと思った。

「ここは元々僕の父がやっていた骨董品店なんです。」

なるほど、と私は納得してしまった。親の店を継いだとなれば合点がいく。
私は彼に勧められ古い木の椅子に座った。これも古い木のテーブルに紅茶の入ったカップが置かれた。私が思うにこの椅子もテーブルの紅茶の入ったティーカップまでもがどれも骨董品のように見えるのだけれども商品ではないのだろうか。

「どれも売れそうにないですし私用として使わせて貰っています。」

私はまた納得してしまった。
彼の名前は神堂四郎(しんどうしろう)と云うらしい。それなりに古風な名前だと思う。それに四郎というのだから兄がいるのかと思ったのだがそうではないらしい。
私は正直に変わっているな、と思った。

「最近、悩みがお有りなんじゃないでしょうか。」

彼の若さの割には丁寧(ていねい)過ぎる口調で云われたその言葉に私はどきりとした。
確かにそうなのだ。悩みといえるのかわからないけれど、矢張(やは)り私にとっては悩みである。

「どうして。」
「何も不思議な事などありません。人間誰しも何らかの悩みは持ますよ。」と彼は笑って云った。その笑顔がとても可愛くて私は思わずきゅんとしてしまった。
「それに顔にそう書いてあります。」と彼は付け足す。

彼には全てを見透かされているような気がする。
何故かは解らないけれど、私は彼に悩みを打ち明けようと思った。

「実は、夢を視(み)るの。」
「それはどんな?」
「悪夢。」
「悪夢、というと?」
「そのままよ。同じ内容だとかそういうのじゃないの、只単に悪い夢よ。悪夢同士に何の関係性もないと思う。でも毎日何かしらの悪夢を視て朝起きたときには汗でぐっしょりよ。」

私の話を聞いて彼は「ほう。」とだけ云った。
そして少し考えたような格好になる。

「少しお待ちください。」

彼はそう云って店の奥へと姿を消した。
私は紅茶を啜(すす)った。数分すると彼は戻ってきた。

「お待たせして申し訳ありません。」

彼はそう云って右手を差し出してきた。彼の右手には紫の袋に入った御守りのようなものが乗っている。

「これをお持ちになってください。」

よくわからないまま私はそれを受け取った。
紫の袋には何か書いてあるのだけれど、私には読めなかった。旧(ふる)い漢字だろうか。

「それがお礼です。どうぞそれをお持ちになって帰ってください。」
「これは?」
「安眠の御守りですよ。」

彼はそう云って可愛く微笑んだ。
不覚にも私はまたしてもきゅんとしてしまう。

「それを寝るときに枕元に。」

私はお礼を云って外に出た。
また来てもいいかと訊くと是非と彼は云ってくれた。

「最後に訊いてもいいかな。」
「どうぞ。」
「キミって幾(いく)つなの?」
「今年で19になります。」

意外にも私と同じ年齢だった。
しかし丁寧な口調といい落ち着いた物腰といい私よりも大人だ。

帰ったら云われた通りに枕元に御守りを置いた。
何故かは解らないけれど、今夜は悪夢を視ないような気がした。

私は眠りに就いた。


***


――ここはどこじゃ?


「いらっしゃい。」と四郎は云う。


――お前は誰だ?


「云う必要はない。」


――そうか。ならばここは?


「僕の店ですよ。」


――何故こんな処に出たのじゃ?


「それは彼女の処(ところ)に門を作ったからです。」


――門?


「そう。だからお前は彼女の処ではなくここへ出てしまった。」


――お前は何者だ?


「最初に云ったはずです。云う必要はない、と。」


――儂が誰か解(わ)こうているのか?


「夢魔でしょう? 人に悪夢を視せては恐怖を喰らう。」


四郎は笑みを浮かべた。
それは昼間に見せたような可愛らしいものではない。見るものを凍らす様な笑みだった。


「もうお終いにしましょう。」


***


私は彼から紫の御守りを貰って以来、悪夢を視る事はなくなった。
一言お礼を云おうと彼の店を探したけれど、不思議と見つける事が出来なかった。

何故か記憶が曖昧でお店の在った場所を思い出すことは出来ない。
あの公園からそう遠くもないはずなのだけれど、そこに<あやかし堂>の文字は見つからなかった。

それからというもの、また彼と逢えるような気がして公園のベンチに居る事が多くなった。
ちゃんとあの黒猫の分の牛乳を持って私は彼が再び現れるのを待っている。


***


四郎の足下に黒猫が近寄った。

「只働きではないか。」

黒猫がそう云うと四郎は笑う。

「たまにはいいじゃないか。それにお前はミルクを貰っただろ?」

黒猫は、ふん、といった表情だ。

「ティータイムにしようか。」

四郎は骨董品(アンティーク)のティーカップに紅茶を注いだ。
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DATE: 2008/07/25(金)   CATEGORY: 「怪奇蒐話」
「カーブミラー」
夜、家への帰り道にカーブミラーの前を歩いた。
ふとカーブミラーを見上げると自分の後ろに誰か立っていた。

驚いて振り返ってみたが誰もいない。

もう一度カーブミラーを覗いてみると、やはり誰かが後方に立っている。
そしてもう一度振り返ってみたが、やはり誰もいなかった。

カーブミラーに映る自分の後ろの人物は一歩一歩こちらに向かって歩いてくる。
そして自分のすぐ背後までに来た。


いくら振り返っても背後には誰もいない。
けれど、自分の後ろには誰かがいるという妙な確信があった。

すぐ後ろに人がいる気配がする。

カーブミラーの中にいる人物を見てみると、
やはり自分の真後ろに立っている。


そして僕の肩をぽんと叩いた。
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Cofee Break ~保健室での一杯~
 その高校の保健室のドアを開けると香るコーヒーの香り。
 保健室に入り、中を覗いてみると、そこにはひとつの大きなテーブルがあり、その上には黒い液体の入ったコーヒーカップがあった。
 そしてそのカップを前にして座る少年の名前は高谷京介。この高校の1年生だ。
「私にも一杯淹れてくれる?」
 彼にそう言ったのはこの高校の保健室医である藤岡舞子。
 舞子の言葉を聞いて、京介は保健室の棚にずらりと並ぶコーヒー豆の瓶の中からひとつを選び手に取った。
「いつもと同じのでいいですか?」
 すでに手に取った瓶の中に入っている豆でコーヒーを淹れる準備を始めている彼だが、一応念のためといった感じで舞子に訊ねた。
「うん。いつもと同じで」
 舞子は彼の動作のひとつひとつを楽しそうに眺める。
「やっぱ、京介君っていい男よねぇ」
 歳が十も離れた保健室医の言葉に、京介は軽く微笑んだ。
「そんなことないですよ」
 そう言って彼は否定をするのだが、舞子は京介にベッタリと惚れ込んでいるほどで、とても整った綺麗な顔立ちをしている。
「ほんとだってばぁ!」
 京介の大人っぽい口調に対して、舞子は子どもっぽさがあり、年齢を除けばその立場はまるで逆にも思える。しかしそんな舞子はとても美人で、生徒に人気があった。美人の保健室医に加えて、彼女の豊満な肉体が思春期の少年たちの妄想意欲を掻き立てさせてしまうのも無理はない。
 もちろん男性教師からの熱いお誘いも多々あるのだが、それに彼女が首を縦に振ったことはなかった。しかし特定の彼氏がいるわけでもなく、京介への惚れ込み方を見ると、まるで教師と生徒の一線を越えるのではないかという懸念までもが周りではあるほどだ。
「それはどうも」
 彼は形式上のお礼を言った。
「ほら、もう出来上がりましたよ。どうぞ」
 そう言って、彼はコーヒーの注がれた白いカップを彼女に差し出す。
「お世辞を言うなら、コーヒーの味にしてください」
 彼のその言葉を聞いて、彼女は微笑みながらカップを受け取った。
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DATE: 2008/07/24(木)   CATEGORY: 雑記
萬紅堂にてバトン。
小町「店長ー、arie+さんからバトン回ってきてますよー?」
匡介「ああ、そうだった。じゃあさっそくやろうか」
小町「はい、これがバトンです」

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DATE: 2008/07/23(水)   CATEGORY: 雨の日のうた
雨の日のうた(14)
 水曜日。
 俺は空港に向かう途中のカーキのランクルに揺られていた。隣りには可南子。運転席にでは哲郎さんがハンドルを握っていた。

可南子が飛行機で帰ることにしたのは月曜日に本人から聞いた。
「最初は新幹線で帰るつもりだったんだけどね」
 可南子の黒く大きな瞳がこちらを見ていた。もう可南子といられるのも水曜日までなのだと思うとすこしさみしくなった。
「お兄ちゃんが飛行機で帰れって。お金も出してくれたから、飛行機で帰ることにした」
「堕ちないといいな」
 なにが? といった表情の可南子。
「飛行機」
 俺の言ったことを聞くと可南子は笑った。
「もう! 不吉なことは言わないでぇ」
 飛行機代っていくらくらいなのかな? 俺が可南子に会いに行くとしたらどれほどの金が必要になるんだ? 俺はそんな気なんかないくせに、そんなことを考えていた。
 
「ケンくんってばー」
 可南子の声を聞いて俺は可南子たちに目をやった。なぜか知らないがケンも勝手について来ていて、俺らと同じ車に乗っていたのだ。
「どうしたんだよ?」
「ケンくんがさー」
 自分で訊いておきながらだけれど、俺は可南子のせりふが耳に入っていなかった。
 もうすこしで可南子ともお別れなんだよな。あとすこしの時間で。もっと一緒にいたい。いつからこんなに弱くなったんだろう。昔はそれが好きな女でも、ここまで別れることに執着しなかったはずだ。しっかりしろよ、俺。これが今生の別れじゃないだろ? いや、そうなるのかもしれない。俺と可南子を繋ぐものなんて、思っているより拙(つたな)いんだ。
「ちょっと聞いてる?」
 俺は現実世界に意識を戻した。
「ああ、聞いてるよ」
「大丈夫? 車酔いでもした?」
「いいや。大したことはないって」
 ヘイヘイヘイ。しっかりするんだ、俺。
「龍次ってば、可南子ちゃんとお別れするのがさみしいんだよー」
 ケンが言った。いつのまにかに「ちゃん」付けに戻っているのが気になった。
「うるせェよ」
「あー、ほんとなんだぁ」と可南子。「可南子と離れるのがそんなにさみしい?」
俺は何も言わなかった。
そうしているうちに車は空港に着いた。俺はずっと何も言わないまま黙っていた。可南子の荷物を哲郎さんが持ってあげているのが見える。俺はずっと、ただただ黙っていた。可南子はそんな俺を気にしていたが、ケンがそんな必要ないと言って俺から可南子を離し、自分が可南子と話し始めた。
「もう行っちゃうよ?」
 哲郎さんの言葉を聞き、俺は時計を見た。もう搭乗する時間だ。
「何も言わないままでいいの?」
 哲郎さんは優しい口調でそう言った。
 何も言わないままでいい? そんなわけないだろ。何やってんだよ、俺は。
「可南子!」
 搭乗時間が迫って、先へと進もうとしている可南子を呼び止めた。可南子がこちらを向く。
「さみしいんだ!」
 俺は続けた。
「俺、可南子と離れるのがすげぇさみしい! 正直言うと離れたくなんかない! どうしようもないくらい好きなんだ! 俺、可南子のことが大好きだ!」
 可南子は微笑みながら俺のことを見てる。
「なんだんだよ、チクショウ。こんな気持ちなったことねーからわかんねぇんだよ。こんなに人と離れるのが嫌だなんて今までなかった。これが本当に好きってことなのかよ? ああ? 俺はどうすればいいんだよ? なあ! 教えてくれよ! 俺はどうすればいい? なあ!」
 俺の中のどこか奥底から熱いものが込み上げてきて止まらない。なんなんだこの気持ちは。なんで俺は泣いてるんだ? それも大泣きだ。涙が止まらねえ。これはどうすれば止まるんだ!
「ありがとう。」
 可南子は言った。
「そんなに好きになってくれてありがとう」
 可南子も泣いていた。笑いながらだけど、泣いていた。
「可南子も龍次のことが大好きだよ。」
 そう言ってから可南子は自分の涙を拭う。
「もう時間だから行くね。じゃあね。バイバイ」
 そのまま可南子は行ってしまった。それからすこしすると大空に飛び立つ飛行機が見えた。空は快晴だ。もう雨は降っていない。梅雨は明けたんだろう。
俺はこれからの日常を思ってみた。とりあえず、じめじめもムシムシも消えた。もう俺を悩ますものはない。俺は笑った。大声で笑ってみた。相変わらず涙は止まらなかったけれど、俺は笑った。バイバイ、可南子。グッバイ、梅雨。俺はすべてを笑い飛ばすかのように笑った。涙なんか梅雨と一緒にどっかに行っちまえ!
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