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DATE: 2011/06/13(月)   CATEGORY: Étube 9-α
Etube 9-α(1)
 街は活気づいていた。太陽が大都市コルビジュを照らし、建物が大きな影を作る。
 コルビジュは他では見られないほど、建物が大きく、都市として進んでいる。生活には機械(マーキナー)が多く取り入れられており、独自の発展を遂げたのがコルビジュだ。
 コルビジュの東の入口である、雄々しいレリーフで意匠されたゴート調の“大我の門”から入って最初に見えるイノス教会。その屋根を巧みな身のこなしで走る少年がいた。
 少年の前を素早い影が走る。少年はそれを追っているようだった。
 その影はネコだ。軽妙な身のこなしの黒ネコである。少年はそのネコを捕まえようとしているらしい。――ネコの首には翠(みどり)の石がぶらさがっている。北方で採れる女翠(メスイ)という宝石だ。「翠玉(スイギョク)の女王」と呼ばれるほど美しい石である。
 ただ、実際には女王と呼ばれるほど高価なものでもない。その美しい翠に対してそう呼ばれるのだが、北方では採れる数も少なくはないので流通価格もそこそこであり、全く手の出せないという種類の宝石ではなかった。
 少年がどうしてその女翠をぶらさげた黒ネコを追っているのか?
 実は少年はコルビジュの街で何でも屋として生活を営んでいる。両親はいない。少年を育ててきた父は数年前に流行り病で死んだ。母のことは知らない。少年が物心をついたときにはもういなかったからだ。
 少年に残されたのは小さな家と短剣だけ。以来、少年は何でも屋として自力で生活をしている。
 その短剣というのは、ドラゴンの血を受けしラズーリ族に代々伝わるものだと聞かされているが、そもそもドラゴン自体が御伽噺の存在だし、自分がラズーリ族の末裔だということを信じてはいなかった。
 それにラズーリ族はドラゴンの血を浴びて以来、髪と瞳が青くなったと謂われている。
 少年の髪と瞳は黒だ。伝説のラズーリ族のものとは違う。
 それでも短剣にはラズーリ族のものだと主張しているかのように、中央に青の宝珠(オーヴ)が填め込まれていた。
 黒ネコが屋根から飛び降り、しなやかに着地する。
 少年もそれを追って跳んだ。高さは十数リーツ(1リーツ=約1メートル)ほどある。だが、少年は跳んだ。そして転げながら着地して、再び走り出す。
 黒ネコがイノス教会の中に入っていった。
「どこに行きやがった!」
 息を切らしながら少年も教会に入ったが、黒ネコの姿は見えない。
 代わりに、そこには少女の姿があった。
「誰?」
 透き通る声が少年の耳に届いた。
 変わった首飾りをした、栗色の髪の少女が少年に近付こうとする。
「何をしているの?」
 荒々しく入ってきた少年を責め立てるわけでもなく、純粋な興味本位から尋ねているようだった。
「ネコを見なかったか? 黒いネコが入ってきたはずなんだけど」
「ネコ?」
「そいつを捜してるんだ」
「――あ、その子じゃない?」
 少女が指差した先に、女翠をさげた黒ネコが確かにいた。
「もう逃がさないぞ」
 少年がじりじりと追い詰めていった。
 黒ネコもじわりじわりと後退して、壁に追い寄せられる。
 ――だが、一瞬の隙を見つけてネコは駆け、少年の脇をするりと抜いた。
「しまった!」
 少年が腕を伸ばしたときにはもう遅く、逃がしたネコを追おうと振り返ると先ほどの少女がネコを抱き上げていた。
「可愛いネコね」
 少女がネコを撫で、少年を見遣った。
「ねえ、この子を捕まえたかったんでしょう?」
「……あ、ああ」
「じゃあ、受け取りにきてよ」
 少女は無垢な笑顔を浮かべて、少年にそう言った。
 あまりのあどけなさに、少年はなぜか怖気づくものを感じながら少女に近寄る。
「わたしの名前はシーラっていうの。あなたは?」
「おれはブラウ」少年はシーラの腕の中からネコを抱き上げながら言った。「ブラウ・ラズーリ・イノツェンツ」
 ネコがミャアと鳴いて、女翠の宝石がわずかに揺れた。
 これが少年と少女の出会いであり、機械仕掛けの運命の歯車が動き出した瞬間でもあった。

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